日本共産党

2004年5月9日(日)「しんぶん赤旗」

花色変化の秘密わかる

赤、青、紫…花言葉は「移り気」


 花屋の店先にアジサイの鉢植えが並ぶ季節になりました。透き通るような青や赤の花色が鮮やかです。しかし、「移り気」の花言葉が示すように花の色はさまざまに変化します。吉田久美(くみ)名古屋大学助教授らの研究で、その理由がわかってきました。間宮利夫記者


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右から、青、紫、赤の花色のアジサイ(写真は吉田・明大助教授提供)

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青(左)と赤(右)の花びらの断面。色のついた細胞は表面から少し奥まったところにだけあります

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一つ一つばらばらにした、青(左)と赤(右)の色のついた細胞

色つき細胞

 アジサイの花色の正体は、アントシアニンと呼ばれる有機化合物の色素です。アジサイの花びら(本来はがくに当たる部分)の表面から少し奥まったところに色のついた細胞が分布しています。

 アントシアニンはその細胞内の液胞に、水に溶けた状態で入っています。液胞は、水をはじめさまざまな物質を蓄えた袋のような組織で、花びらなどでは細胞の体積の90%以上を占めます。

 アントシアニンは、水溶液の酸性度に応じて色が変わることが知られています。強酸性では赤、弱酸性から中性では紫、アルカリ性では青を示します。また、金属イオンがアントシアニンと結合すると青色になることがわかっています。

 しかし、アジサイの液胞内の酸性度や、含まれる成分を正確に調べることができなかったため、花色が変わりやすい理由は不明でした。

 吉田さんたちは、酵素を使って花びらの細胞を一個一個分離し、色のついた細胞に直接電極を刺して、酸性度を表すpH(水素イオン濃度指数)を測定する方法を開発しました。

 この方法でアジサイの花びらの細胞を調べた結果、赤色の液胞がやや強い酸性(pH3・3)を示したのに対し、青色の液胞は弱酸性(pH4・1)を示しました。青色の液胞が、アルカリ性ではなかったことから、酸性度以外にアジサイの花色を決める要因があると考えられました。

3つの要素

 吉田さんたちは、液胞内の成分を詳しく分析しました。その結果、アジサイには色素のほかに三種類の助色素(5CQ、5pCQ、3CQ)が含まれていて、青色と赤色ではその構成比が異なることをつきとめました。助色素自体は無色ですが、アントシアニンの発色に重要な役割を果たします。さらに、青色と赤色では、アルミニウムイオンの量に大きな違いがあることもわかりました。

 これらの結果から、アジサイの花色は、酸性度と助色素の構成比、アルミニウムイオンの量の三つの組み合わせで決まっていることが明らかになりました。

 赤色になるのは、pHが3程度のやや強い酸性で、アルミニウムイオンが少なく、助色素のなかで3CQの比率が高いときです。青色になるのは、pHが4程度の弱酸性で、アルミニウムイオンが多く、助色素のなかで5CQが多いときでした。

 吉田さんは、「色素と助色素の含有量は、遺伝的に決まっているのに対し、酸性度やアルミニウムイオンの量は環境条件によって変化しやすいのではないか。そのため、紫のような中間的な色が現れるのだと思う」と説明します。

 吉田さんたちは、pH、助色素の比率、アルミニウムイオンの量を調整した液体にアントシアニンを加えることで、アジサイの青や赤、紫の花色を再現することに成功しています。

キーワード
アジサイ

 ユキノシタ科の落葉低木。日本原産で、太平洋岸に自生するガクアジサイを原種として鎌倉時代に園芸種として育成されるようになりました。18世紀末に、中国を経てヨーロッパに渡り、さまざまな品種が開発されました。土の酸性度で花色が変わるとされ、環境が変わると以前の色とは違う色の花が咲くことがよくあります。


 pH(水素イオン濃度指数) 水素イオン濃度をもとに、水溶液の酸性、アルカリ性の強さを表す数値。7が中性で、7より数値が小さくなるほど酸性が強く、7より数値が大きくなるほどアルカリ性が強いことを意味します。




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