2004年4月16日(金)「しんぶん赤旗」
【ワシントン=遠藤誠二】ブッシュ米大統領は十四日、訪米中のシャロン・イスラエル首相と会談し、ユダヤ人入植地をパレスチナ自治区ガザから撤収させる一方、ヨルダン川西岸地区からの全面撤退を拒否するシャロン首相の提案を支持する姿勢を表明しました。西岸の入植地について最終的にイスラエル側が維持し続けることを米大統領が容認したのは初めて。
米政府はこれまで、新たな入植は和平を阻害するという見解をとってきました。ブッシュ政権のイスラエル寄り姿勢があらためて示されました。
ブッシュ大統領はシャロン提案を「歴史的で勇気ある行動だ」と称賛。「イスラエルの主要な居住地区が既に存在するなど新たな現実を考慮すれば、最終的地位交渉の結果が、一九四九年の休戦協定の状態に完全に戻ることを期待するのは非現実的だ」と入植を正当化しました。
イスラエルが一方的に建設したパレスチナとの分離壁についてブッシュ大統領は、「恒久化せず暫定的なものであるべきだ」として容認し、撤去を求める国際世論に背を向けました。さらに、パレスチナ難民は、イスラエル領土ではなく、樹立されるパレスチナ国家に帰るべきだとの考えを示し、イスラエル領内への難民帰還権を認めないシャロン政権を支持しました。
米国は、二〇〇五年までのパレスチナ国家樹立をうたった中東和平ロードマップ(行程表)の履行を強調しますが、ブッシュ大統領の言動は、二〇〇一年三月以降にできたユダヤ人入植地の全面撤去や二〇〇〇年九月の地点までのイスラエル軍撤退、難民帰還についての協議を定めたロードマップにも反しています。
【カイロ=小泉大介】ブッシュ米大統領が十四日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地と「分離壁」の存続を事実上認め、パレスチナ難民の帰還権放棄を求めたことは、和平にむけたパレスチナ側の基本要求の全面否定ともいえるもので、パレスチナでは失望と怒りが渦巻く状況となっています。
パレスチナ自治政府のクレイ首相は同日、記者会見で「ブッシュはパレスチナの土地におけるユダヤ人入植地を正当化した最初の大統領となった。われわれはこれを拒絶し受け入れない」「パレスチナ人の権利を見放す権利をもった人間など世界のどこにもいない」と厳しく非難しました。また、ブッシュ大統領が同意したガザ地区からのイスラエル撤退方針に関しては「あくまでもパレスチナ指導部との交渉によって決定されるべきだ」とのべ、当事者の関与しない一方的措置に強い不快感を示しました。
これまでの米の歴代政権は、実際の行動はともかく口では入植地の存在を「和平への障害」とする立場をとってきただけに、ブッシュ大統領の明確な方針「転換」にパレスチナやアラブの反発がかつてなく高まることは必至です。
アラファト・パレスチナ自治政府議長のラジューブ顧問は「米政権は世界をまるでテキサスの農場のように扱っている」と批判。ロイター通信によると、ガザのパレスチナ住民のなかからも「ガザを返すという一方で西岸をのみ込み、難民の帰還権を取り消すやりかたをどうやって喜べるというのか」との声がでるなど失望が広がっています。
今回のブッシュ発言は米政権自体が深く関与して作成されたパレスチナ和平のロードマップ(行程表)にも明確に反するものです。行程表は、二〇〇五年までのパレスチナ国家樹立を目標とし、交渉の基礎にイスラエル軍の占領地からの完全撤退を求めた国連安保理決議二四二、三三八を据えることをうたっています。ブッシュ発言は、現在、和平にむけた唯一のよりどころとなっている行程表の息の根を止めるものといえます。
パレスチナ自治区ガザでは三月二十二日、イスラエル軍がイスラム過激派組織ハマスの指導者ヤシン師を殺害し、住民の反イスラエル感情が激化していました。今回のブッシュ発言は、この怒りの火に油を注ぐことになりかねません。