2004年4月12日(月)「しんぶん赤旗」
これまで何度か実施計画がもちあがっては、反対世論の盛り上がりで実施できないできた原発の計画があります。原発の燃料にプルトニウムを使用する「プルサーマル」計画です。最近、電力業界はまたもや実施する方針を打ち出しました。関西電力が〇七年の実施へ向けて燃料を海外の企業に発注したのをはじめ、各電力会社が一〇年までの実施方針を表明しています。プルサーマル計画にはどんな問題点があり、政府と電力会社はなぜこれほど執着するのでしょうか。前田利夫記者
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プルサーマルとは、現在稼働中の原発(軽水炉型原発)でプルトニウムを燃料とする方式です。プルトニウムの「プル」と軽水炉を意味する「サーマル・ニュートロン・リアクター」の「サーマル」の合成語がプルサーマルです。
軽水炉型原発でプルトニウムを燃料とすることは、もともと想定されていませんでした。プルトニウムを燃料として使用することは、さまざまな面で原発の危険を増大させます。国民の反対や不安が解消されないなかで、政府と電力会社はなぜ急いで実施しようとするのでしょうか。
政府や電力会社が盛んに宣伝するのは、「資源の有効利用」です。現在の原発で使用されている核燃料のウランは、自然界の資源として限りがあるから、節約しようというわけです。
しかし、プルサーマルで節約できるウラン燃料は、せいぜい10―20%程度といいます。原発の危険を増大させてまで急ぐ理由にはなりません。
政府、電力会社がプルサーマルに執着する本当の理由は、実は別のところにあります。たまり続けるプルトニウムをなんとかしなければならないという事情です。
なぜ、こんなことになったのでしょうか。
現在の原発で使われている核燃料はウランです。天然ウランには核分裂を起こしやすいウラン235が0.7%しか含まれていません。99%以上が核分裂しにくいウラン238です。核分裂反応で発生する熱を利用している原発の燃料になるのは核分裂を起こしやすいウラン235です。
軽水炉型原発では、ウラン235の含有量を3〜5%程度まで高めた「濃縮ウラン」を使用しています。残り95%以上がウラン238です。このウラン燃料を原子炉内で“燃やす”と、ウラン238から核分裂しやすいプルトニウム239がつくられます。このプルトニウムを取り出すのが再処理工程です。
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原発を運転すれば“燃やした”後の使用済み核燃料がたまります。強い放射能を何万年にもわたって保持する物質が含まれています。この使用済み核燃料の処理・処分方法が確立されていないことから、原発は「トイレ無きマンション」といわれてきました。
政府は、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムと燃え残りのウランを取り出すために、すべての使用済み核燃料を再処理することにしています。取り出したプルトニウムは、高速増殖炉という特殊な原発の燃料として使う計画でした。
しかし、高速増殖炉「もんじゅ」が、一九九五年に深刻な事故を起こし、それ以来ストップしたままです。原発を推進してきた各国とも、高速増殖炉の実用化をめざしていましたが、技術的な困難と経済性の問題から、いずれも撤退してしまいました。高速増殖炉の実用化はまったく見通しがたっていません。
再処理して取り出したプルトニウムの使い道がなくなった結果、日本のプルトニウム保有量は増え続けています。原子力白書(〇三年版)によると、〇二年末現在、国内で保管しているプルトニウムは約五・四トン、海外に保管中のプルトニウムが約三十三・三トンあります。海外の保管量が多いのは、これまで再処理をイギリスとフランスに委託してきたからです。いずれ、これらのプルトニウムは国内に返還されます。
ところで、プルトニウムは核兵器の材料になります。日本政府は、世界にたいして、余分のプルトニウムはもたないと宣言しています。現実に起きているプルトニウム過剰状態が、プルトニウムを消費する手段としてプルサーマルに執着せざるをえない状況をつくりだしているのです。
プルトニウム過剰状態は、使用済み核燃料を再処理するという政府の基本方針への疑問を増大させています。再処理をすればするだけプルトニウム過剰状態が激しくなるからです。現在、青森県六ケ所村に大規模な再処理工場が建設されていますが、完成しても、予定通り運転されるのかどうか、見通しがはっきりしない状況です。
一方で、原発の敷地内につくられている使用済み核燃料の保管施設が満杯に近づいています。保管施設が満杯になれば、原発の運転はできなくなります。使用済み核燃料は再処理工場へ運び出す予定でしたが、再処理が進まなければ、それもできません。電力会社が、プルトニウムをなんとか消費しようとしてプルサーマルに執着する理由がここにもあります。
使用済み核燃料の保管施設は近い将来満杯になることから、電力会社は原発敷地外に「中間貯蔵施設」をつくって、そこに使用済み核燃料を運び出そうとしています。
プルトニウムを燃料とし、使用した以上のプルトニウムをつくり出す原子炉。原子炉内に置いたウラン238からプルトニウムがつくられます。原子炉の熱を取り出す冷却材に、取り扱いのむずかしいナトリウムが使われます。
1995年12月、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)で冷却材のナトリウムが漏れだし、ナトリウムが燃える深刻な事故が起きました。周辺住民が国を相手に設置許可の無効確認を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁金沢支部は、2003年1月、安全審査に重要な点で「過誤、欠落」があり、違法であるとして住民側勝訴の判決を出しました。
軽水炉型原発でプルトニウムを燃料として使用することには、いくつもの安全上の問題が指摘されています。
原発の燃料としてプルトニウムを大量に使うことはそれだけで大きな危険をともなうことになります。プルトニウムは比放射能(一グラム当たりの放射能の強さ)がウランに比べてもけた違いに大きく、体内に取り込むと、ごく微量でもがんなどの原因となるきわめて毒性の強い物質です。万一、事故などで環境中に放出されれば、大変なことになります。
また、原子炉のなかに長く置かれたプルトニウムは、透過力の強い放射線であるガンマ線や中性子線を出す種類を含むようになります。その結果、放射線の防護が困難になり、作業者の被ばくが増大します。
プルトニウムはウランとの混合酸化物(MOX)として燃料に加工されますが、使用した後のMOX燃料の再処理技術も確立していません。使用済みのMOX燃料には、処分方法のない、極端に寿命の長い放射性元素も増えてきます。使用済み燃料の処理・処分はさらに困難になります。
ウラン燃料のかわりにMOX燃料を使用することによって、原子炉内の核分裂反応を抑制・制御することが難しくなるという問題も指摘されています。専門家は、安全性が確かめられていない実験を巨大原発でやるようなものだと批判しています。
プルサーマルで使用する燃料は、プルトニウムとウランを酸化物の形で混合した「MOX(モックス)燃料」と呼ばれます。MOX燃料にはプルトニウムが4〜9%含まれます。燃料加工費がウラン燃料より高くつきます。
日本共産党は、プルトニウムを原発の燃料として使用する「プルトニウム循環路線」に反対です。
現在の原発は、大量の放射性物質を環境に放出させる重大な事故を起こす可能性と、使用済み核燃料の処理・処分技術が確立されていないという技術的未熟さがあります。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、循環させて使用するという路線は、ますます矛盾を拡大し、原発の危険性を増大させます。
日本共産党は、現在の無謀な原発推進政策を根本的に見直すことを求めています。当面、使用済み核燃料は、再処理せずに、電力会社の責任で保管すべきだと考えています。
より根本的には、低エネルギー社会の実現、再生可能エネルギーの開発を進めながら、安全優先でエネルギー自給率の引き上げをめざし、原発優先のエネルギー政策の転換をはかることを提案しています。