日本共産党

2004年4月1日(木)「しんぶん赤旗」

欠陥ハブ追及800日

本紙記者

若い母親の命奪った三菱タイヤ脱落


 二〇〇二年一月十日、横浜市瀬谷区の路上で、三菱製大型トレーラーのタイヤが脱落。歩道を歩いていた母子三人を直撃しました。母は亡くなり、一歳と四歳の幼子二人もけがをしました。自動車の欠陥問題を追っていた記者は、事故の数日後、現場に立ちました。供えられた花束。若い母親の命を奪ったタイヤはなぜ外れたのか。取材はその日から始まりました。

 遠藤寿人記者


 亡くなったのは、神奈川県大和市の主婦、岡本紫穂さん=当時(29)=です。

 事故現場の中原街道は大型トラックやダンプなどが頻繁に往来する産業道路です。岡本さん母子は、レンタルビデオ店に子ども用ビデオを返しにいった帰りでした。

 二人の幼子はどうなるのか…。同じ二人の子どもの父親として、いいようのない悲しみがわいてきました。夫の明雄さんに一度会って、真相解明、再発防止への「思い」を語ってほしいと思いました。現場から十分ほど離れた岡本さんの自宅を何度も訪ねましたが不在でした。

■脱落の「前例」はあった

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タイヤ脱落の犠牲になった岡本紫穂さんの墓碑

 事故について商業新聞は、「部品ごと脱落 前例のない事故」「ブレーキドラムごとはずれた 前代未聞の事故」と報じていました。

 疑問がわきました。(1)どこのメーカーの車か(2)「前例がない」はずがない――。

 「前例がない」とは「おかしい」と直感しました。二〇〇〇年、三菱で発覚したリコール・クレーム隠し以降、本紙には自動車のトラブルへの取材依頼が、数多く寄せられました。

 「高速道路でタイミングベルトが切れてエンストした」「お客様相談室に故障部品を渡したら紛失された」など三菱に対する不満が多くありました。

 同年十二月には、東京・大田区などでエンストのトラブルが続いていた三菱製清掃車千五百台を本紙の告発でリコールに追い込んだ例もあります。

 こうした取材でメーカーは、「他では起きてません」というのが決まり文句でした。

 疑問をぶつけに、三菱自動車工業を訪れると、報道担当部長は「横浜の事故があった日に二件、販売店から(同種事故の)連絡があった」とあっさり認めました。

 本紙〇二年一月十七日付一面に「三菱自動車 横浜の主婦直撃と同型のトレーラー 過去2回、タイヤ外れた」との見出しで記事が掲載されました。「前例」はあったのです。各紙も後を追いました。

 同二十二日、三菱は大型車十二万四千台を対象に車輪と車軸をつなぐ部品ハブの無償点検、有償交換措置を発表しました。さらに同年二月にはいり、有償交換を無償交換にしました。

 さらに取材をすすめるうちに、三菱製大型車のハブの破損でタイヤが外れた事故が一九九二年から五十六件も起きていたことが分かりました。

 記事への反響は意外にも国土交通省からありました。ある幹部は、「赤旗さんの記事が広がっちゃって対応に困ってるよ。どこで取材したの」

■見えてきた「強度不足」

 ハブの破損によるタイヤ脱落は多発していました。しかし、三菱は無償交換までしていたにもかかわらず、使用者側の「整備不良」との見解を示していました。これに全国の現役の整備士・OBから「三菱の車だけ手を抜いて整備しているというのか」と怒りの声が本紙に寄せられました。本紙は二〇〇二年二月に、「タイヤ脱落 本当に整備不良か」の記事を掲載。

 「整備不良」「過積載」など使用者側の不備を並べても、ハブの破損の報告は三菱以外のメーカーではないことから、同社のハブの強度不足を指摘する声を紹介しました。

 「お客様がテストドライバー」。自動車業界で働く現場労働者の言葉があります。

 本紙は、毎年のリコール分析や現場労働者の覆面座談会(〇一年一月)などを通じて自動車業界の現状を告発してきました。

 エンジン担当の労働者は「販売日から逆算すると実験を終えるには一日三十時間は必要」と告発しています。「一部品、一グラム、一円の削減」とはあるメーカーのコスト削減スローガンです。

 こうした取材を通じて、「強度がコスト削減の犠牲になったのではないか」。ハブの構造的欠陥の疑いをもって追及してきました。

 神奈川県警も、〇三年十月、業務上過失致死傷容疑で三菱の強制捜査にのりだしました。ハブの欠陥は明らかになっていきました。

■悲しい事故なくすまで

 〇四年一月一日付で本紙は、三菱車のタイヤ脱落が九三―九六年製車に集中し、その間、ハブの設計変更を繰り返していたことを報じました。

 同二十七日には、神奈川県警が二度目の家宅捜索に入りました。

 三菱自動車工業から分社化した三菱ふそうトラック・バスは、神奈川県警の捜査が進むなか、三月二十四日に突然、ハブの設計上・構造的欠陥を認めリコールを届け出ました。本紙が追及を始めてから八百日余り、あまりに遅すぎたリコールです。

 事故から一年後、明雄さんから電話をもらいました。明雄さんが月命日に紫穂さんのお墓参りを欠かさないと聞きました。

 お墓の前に立って胸が締め付けられました。「誰より何より大切な人…。ありがとう、おつかれさま。ずっとずっと大好きでいようね」と刻まれていました。

 これまで自動車事故の原因の大半は運転手のミスや整備不良とされてきました。しかし、事故原因に欠陥車の問題はないのか。長くかかえていた疑問に一筋の光が見えてきました。欠陥車問題を追及することで、悲しい事故を一件でも減らすことができれば。その思いで今後も取材を続けます。

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 ハブ 車輪と車軸をつなぐ特殊鋳鉄製の部品。重さは約20キロ。三菱製大型車「ザ・グレート」シリーズ用ハブはA〜Fまであり、93年から生産された「D」ハブで38件の破損事故が集中して起きています。同社はフランジ(つば)部の肉厚を厚くしたりする設計変更を、何度も繰り返していました。

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