日本共産党

2004年3月27日(土)「しんぶん赤旗」

なぜ急ぐ?「郵政民営化」

解体・参入求める財界・大銀行


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 小泉純一郎首相が「改革」の最重点に位置付ける「郵政民営化」。政府の経済財政諮問会議(議長・小泉首相、財界首脳や閣僚などで構成)は、四月にも中間報告をまとめ、参院選後の秋には最終報告を発表する予定です。サービスを受ける主体である国民の声は無視されたまま、財界・大銀行の要求を丸のみする形で、郵政三事業(郵便・貯金・簡易保険)の民営化が進められようとしています。

 北條伸矢記者

国民不在の「本丸」

 「改革の本丸とも言うべき郵政事業の民営化については…本年秋ごろまでに国民にとってより良いサービスが可能となる民営化案をまとめ、平成十七年(二〇〇五年)に改革法案を提出します」―小泉首相は今年一月十九日、施政方針演説で強調しました。ところが、掛け声ばかりが上滑り。民営化の全容は、まだ姿を見せていません。

 そもそも、国民は民営化を求めているのでしょうか。時事通信社の調査(昨年八月)によると、「早急な民営化」を求める人はわずか11・4%。慎重論は七割を超えます。日本リサーチセンターが実施した調査(昨年七月)でも、現状のサービスに満足していて「国営のままでよい」が58%で、民営化支持を上回っています。

 首相の私的懇談会「郵政三事業の在り方について考える懇談会」も〇二年九月、「民営化の三類型」を含む最終報告をまとめた際、「かつての国鉄民営化とは背景が異なり、国民的議論が十分に成熟しているとはいえない」と指摘せざるをえませんでした。

本音は縮小・廃止

 郵政民営化論は、小泉内閣発足後に突如浮上したものではありません。橋本政権時代の行革会議が一九九七年、郵便貯金と簡易保険の民営化を打ち出したのが最初です。

 言い出したのは誰か。「郵貯・簡保が民業を圧迫している」「金融市場をゆがめている」として、「郵便貯金事業の廃止、もしくは…公正な競争を確保した上での民営化」を一貫して主張し、郵便局の解体や郵政三事業への民間参入を繰り返し求めてきたのは、ほかならぬ大銀行や財界でした。

 この間、自民党内の「郵政族議員」の抵抗や「税金の無駄遣い」論ばかりが報じられ、「民営化反対=抵抗勢力」といった論点のすり替えも目立ちました。そのかげで、経済財政諮問会議での民営化案取りまとめ作業などでは、結局、大銀行・財界の要求にほぼ「満額回答」が与えられる流れがつくられています。

 昨年四月に発足した日本郵政公社の初代総裁には経済同友会元副代表幹事の生田正治氏、副総裁にはトヨタ自動車元常務の高橋俊裕氏が就任。完全民営化には、一部の自民党議員や事実上その集票組織になってきた特定郵便局長会の抵抗もあるものの、既定路線は変わっていません。

しわ寄せは国民に

 では、郵政民営化で国民にどんな利益があるのでしょうか。

 民営化のもと、均一料金制など全国一律サービスが崩れていくのは目にみえています。経済効率優先の立場から郵便局網の再編が進めば、過疎地のみならず、都市部でも高齢者などの生活に大きな影響が及びます。郵貯・簡保が縮小・廃止されるなら、庶民が気軽に利用できる公的金融機関としての役割は失われます。

 郵政公社では現在、コスト削減を徹底させる「トヨタ方式」などを活用し、「合理化」が進められています。しかし、当局の思惑をよそに、労働条件の悪化だけでなく、郵便物の遅配など国民に対するサービス低下を招く事態が生まれています。

 大銀行や財界の利益を優先し、しわ寄せが国民に及ぶ郵政民営化に対し、厳しい監視の目を向けていく必要があります。

財界・大銀行の大合唱

 ●経済同友会

 【「国民全体の利益につながる郵政民営化実現を望む」から/2004年3月3日】

 「(小泉)総理の強力なリーダーシップが発揮されなければ、構造改革の最重要課題である郵政民有化の実現は危うい。…政権を賭して真剣に取り組む必要がある」

 「国家保証のついた郵貯・簡保の新規受け入れを停止し、窓口ネットワークを活用した全国一体の総合消費者サービス事業会社に転換する」

 「郵政民営化大臣を任命すると同時に、内閣直属かつ利害関係筋から完全に独立した『郵政民営化委員会』を設置する」

 ●全国銀行協会

 【「郵便貯金事業の抜本的改革を求める私どもの考え方」から/2002年11月】

 「郵便貯金事業の公的金融システムが、諸外国に例をみない規模にまで肥大化しており…(その抜本的改革は)小泉構造改革の本丸といえます」

 「一日も早い郵便貯金事業の抜本的改革、すなわち、郵便貯金事業の廃止、もしくは民間金融機関との公正な競争を確保した上での民営化を強く望むものであります」

 ●生命保険協会

 【森田富次郎会長(第一生命社長)の就任所信から/2003年7月18日】

 「簡易保険事業は…民業を圧迫するとともに、公平・公正な市場原理に基づく生命保険市場の健全な発展を阻害しております」

 「簡易保険事業については、公社化にとどまらず、『本来的には縮小・廃止、仮に民営化する場合には、民間生命保険会社との競争条件を同一化した上での民営化』といった抜本的な見直しを行う必要性があると考えます」

米生保業界も圧力

 米生命保険協議会のキーティング会長は二十三日、「簡保が肥大化しないよう、民営化を進める必要がある」と語り、日本政府が簡保事業に対して優遇措置をとっているのは世界貿易機関(WTO)協定違反だとして、日本に圧力をかけるようブッシュ米大統領に求めました。

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郵政事業の歩み

1871年 郵便創業(東京-大阪)

 72年 郵便制度の全国実施

 73年 郵便料金の全国均一制導入。政府独占事業に

 75年 郵便為替、郵便貯金創業

 85年 逓信省発足

1906年 郵便振替創業

 16年 簡易生命保険創業

 49年 逓信省が二省に分かれ、郵政省発    足

 68年 郵便番号制度の実施

 97年 行革会議(会長・橋本首相)が中間報告で郵貯と簡保の民営化を打ち出す

 98年 郵便番号が7ケタに

2001年 (1月)郵政省が総務省に再編。外局として郵政事業庁発足

    (4月)小泉内閣発足

 02年 (9月)「郵政三事業の在り方について考える懇談会」が最終報告書「民営化」の3類型を示す

 03年 (4月)日本郵政公社発足

    (10月)自民党が総選挙の選挙公約で「07年4月に民営化」を掲げる

 04年 (4月)経済財政諮問会議が「民営化」中間報告発表へ

    (秋)経済財政諮問会議が「民営化」最終報告発表へ

 07年 (4月)「民営化」実施へ(自民党の公約)


日本共産党の提言

国営事業としてのサービス向上をめざす

 日本共産党は、小泉「郵政民営化」に対し、昨年の「総選挙にのぞむ日本共産党の政策」の中で、次のような政策提言をしています。

 ◇

 ――庶民の貯蓄をまもる…郵便貯金は、零細な国民の貯蓄をまもることを目的とした国営の事業です。「虎の子」の生活資金を安全に貯蓄したいという国民の願いを国営事業として運営していくのは当然です。(略)

 銀行業界の年来の主張にそって、銀行の競争相手である郵貯を「弱体化・解体」する、そのためには庶民の貯蓄がもっと冷たくあつかわれてもかまわない、という郵政民営化に反対し、郵便事業をふくめて国営事業としてのサービス向上をめざします。

 ――郵貯・簡保の資金を地域経済・中小企業に供給する仕組みを強化する…(略)郵貯・簡保の資金を、ムダな公共事業につぎ込んだり、投機市場で「自主運用」するのではなく、国民生活向け財投機関への出資をふやして、中小企業と地域経済に良質な資金を供給できるようにします。

 郵政事業をほんとうに国民に開かれた国営・公営の事業にするためには、大きな改革も必要です。何よりも、郵政官僚を参院選で自民党の比例候補としてかつぎ、特定郵便局長や郵政職員を締め付けて自民党票をかき集めた高祖派選挙違反事件や特定郵便局長への渡切費流用事件のように、自民党の郵政事業私物化、特定郵便局長の「世襲制度」をはじめ利権と不正に徹底的にメスを入れることが大切です。


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