日本共産党

2004年3月26日(金)「しんぶん赤旗」

クラーク証言 米政権に衝撃

ブッシュはテロへの対抗を

イラク戦争の足がかりに


 レーガン共和党政権時代から四人の大統領につかえ、昨年二月にホワイトハウスを去ったクラーク元テロ対策担当大統領補佐官は二十四日、米議会内で開かれた公聴会で、「テロ犠牲者の家族たちに謝罪できる公聴会の開催を歓迎します」「あなたがた(犠牲者や遺族)を守ることを委ねられた政権は、(それに)失敗した」とのべ、同時多発テロ以前のブッシュ政権の対応は明らかに誤っていたと断言しました。最近出版された同氏の著書『すべての敵に対抗して―米国の対テロ戦争の内側』やテレビでの戦争批判に続いてブッシュ政権にさらに打撃を与えています。

9・11同時多発テロ以前

情報機関の報告を無視

 ブッシュ大統領は二十三日、テロ発生以前にテネットCIA(中央情報局)長官から「テロに関する情報を定期的に受けていた」と報道陣に語りました。ところが二十四日のクラーク氏の証言によると、二〇〇一年九月十一日の同時テロ事件のはるか前、政権発足直後から同氏はテネット長官とともにアルカイダの脅威が差し迫ったものであると大統領に進言。しかし大統領を含めたトップレベルの協議は見送られました。その後、クラーク氏はコンピューター関連のテロ対策担当に「左遷」されました。

 二十三日に発売されたクラーク氏の著書には、この日の証言で指摘されたように、同時テロ以前の政権の対応のまずさが書かれています。クラーク氏はこのなかで、「繰り返し警告されていたにもかかわらず、政権は九月十一日以前に行動を起こすことを怠った」と指摘。政権中枢にいた担当者の批判だけに米国では少なからぬ波紋をよんでいます。

同時多発テロ以後

「フセイン関与」に固執

 ブッシュ大統領は、9・11事件後に“対テロ戦争”と称してアフガニスタン侵攻、イラク戦争を行いました。しかし実際にはテロの危機に対してそれほど緊急性をもって考えていなかったことをクラーク氏は証言で明らかにしました。

 クラーク氏はブッシュ政権が同時テロ直後からイラク攻撃を検討していたことを自著で明らかにしていますが、この日の証言は、ブッシュ政権がテロへの対抗をむしろイラク戦争の足がかりにしようと考えていたことを示しています。

 同書は同時テロの問題にとどまらず、テロ直後に、ブッシュ大統領がフセイン・イラク政権打倒に固執したり、ラムズフェルド国防長官、ウルフォウィッツ国防副長官が、確たる証拠もないままイラク攻撃を唱えたことも暴露しています。

 同時多発テロが起きた翌日の九月十二日に、クラーク氏を呼びつけたブッシュ大統領は、「サダム(フセイン大統領=当時)がやったかどうか」調査しろと要求、「アルカイダがやったことです」と答えるクラーク氏にむかって、「分かっている。サダムが関与しているかどうか調べろ」とあくまでもイラクのフセイン政権がかかわったとの推測にこだわったといいます。

 さらにクラーク氏はイラクと9・11事件、アルカイダを結びつける証拠はないとする報告を提出しましたが、ブッシュ大統領周辺はこれを無視したとのべています。

 同時多発テロを機に対テロ戦争をぶちあげ、アフガニスタンのみならずイラクにまで侵攻したブッシュ政権。しかし、ほかならぬ対テロ担当の元大統領補佐官が、イラク戦争は「必要なく」(著書)、テロ戦争を台無しにしたと主張していることが、イラク侵攻の道理のなさを改めて示しているといえます。

相次ぐ米政権批判

問われる戦争の大義

 ブッシュ政権指導部はクラーク氏の証言にたいし、(1)テロ発生以前、テロ対策は十分にやってきた(2)詳細なテロ計画を知っていれば、当然、必要な対策はとっていた(3)テロ後にイラクを含めたあらゆる可能性を調査するのは当然のこと(4)今になって政権批判を言い出すのは政治的な動機がある―と反論。クラーク氏への個人的な攻撃も含め異常ともいえる反撃にでています。

 クラーク氏の「造反」は、オニール前財務長官や、イラクで大量破壊兵器の調査にあたったケイ元CIA特別顧問に続く政権内部からのブッシュ政権批判です。テロ対策やイラク戦争など、秋の大統領選挙の一大争点となる問題だけに、ブッシュ陣営にとって衝撃は小さくありません。

 二〇〇三年三月当時、イラクには大量破壊兵器がなかったことが明らかになっており、戦争の大義がないことが国際的にも明白にされています。クラーク氏の証言はいま“対テロ戦争”を必死になって強調するブッシュ政権が実際には、9・11事件までそれほど具体的に対テロ対策を行っておらず、むしろイラク侵略戦争を開始するためにこの事件を利用していたという新たな疑惑を提起しています。イラク戦争の大義のうそを二重に追及するものとなっています。

 (ワシントン=遠藤誠二)


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