日本共産党

2004年3月14日(日)「しんぶん赤旗」

有事法案

軍事優先の動員に懸念


 米軍の海外での戦争に自衛隊と日本国民を総動員する有事関連法案――。米軍への戦争支援を無制限に広げ、自治体が管理する空港・港湾までも軍事優先で自由勝手に使用できる仕組みが盛り込まれています。関係者からは「強権で米軍優先を確保しようとしている」などの懸念・批判の声が上がっています。 竹下 岳記者


米軍が港湾・空港を強制使用

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抗議の中、タグボートにえい航され入港するバンデギリフト=03年11月28日、姫路港

 「入港をやめろ!」

 昨年十一月、兵庫県の姫路港につめかけた数百人の市民らが抗議の声を上げる中、米軍のミサイル・フリゲート艦バンデグリフトが入港を強行しました。米軍艦船の入港は一昨年に続いて二回目。それまでなかった米軍艦船の相次ぐ入港に、「軍事利用が既成事実化される」と市民の不安は高まりました。

 米軍は日米地位協定(注)をたてに、日本の港湾や空港の軍事利用を進めています。

 一方で、同じ兵庫県の神戸港では、市が外国艦船に「非核証明書」の提出を求める「非核神戸方式」をとって以来、米軍艦船の入港はまったくありません。

 全国でも、「非核都市宣言」をしている自治体などで、米軍艦船入港の際に核兵器の有無を照会しているところがあります。姫路港を管理する兵庫県も米大使館に照会し、「搭載していない」との回答を得たとして入港を認めました。

 ところが、有事関連法案のうち「特定公共施設利用法案」では、自治体が米軍の空港・港湾利用に反対しても、政府の権限で強制的に使用できることになっています。「非核神戸方式」のような自治体独自の施策を有名無実にしてしまうのです。

 神戸市は、今後も「非核証明書の提出を義務付ける方針は変わらない」としており、矛盾は避けられません。

 港湾関係の労組を束ねる全国港湾労組協議会の玉田雅也事務局次長は「地域社会の発展のために港湾を自治体管理と定めた港湾法や、地方自治の原則に真っ向から反します。戦前のように、日本の港湾が兵たん基地になり、武力攻撃やテロの対象になってしまう」と危機感を募らせます。

民間船舶・航空機を追い出し

 法案には、民間の船舶・航空機を強制的に「移動」=排除できる規定もあります。バース(停泊地)や滑走路が民間の船舶・航空機でいっぱいの場合は、日米地位協定の規定でもこれらを排除することはできません。

 米国の戦争への自治体や民間企業の動員を初めて法制化した「周辺事態法」(一九九九年成立)も強制措置はありません。

 主要航空会社十五社が加盟する定期航空協会は「米軍はすでに自由に民間空港を利用している。しかし、『排除』規定が加わったのは新しい点だ」と見ています。

 六百社以上の旅客船業者などが加盟する日本旅客船協会も、船舶の「移動」に懸念を示し、こう話します。「A港―B港間で営業する定期旅客船が突然、C港へ行けといわれても簡単にはいかない。莫大(ばくだい)な損失が出る」

労働者にも支援を義務付け

 「特定公共施設利用法案」で、米軍が優先使用できるのは空港・港湾の施設全体です。荷役や保管など現場労働者の動員も懸念されています。

 「防衛庁が航空各社に米軍物資輸送資格の取得を求めるなど、軍事利用の動きが進んでいる。現時点では各社とも拒否しているが、政府の圧力に屈した場合、現場の労働者は黙って従うか、懲戒解雇覚悟で拒否するか。選択を迫られるでしょう」

 民間航空で働くパイロット、客室乗務員、整備士など五十四組合で構成する航空労組連絡会の竹島昌弘事務局次長はいいます。

 有事関連法案の一つである「米軍行動円滑化法案」(米軍支援法案)では、「事業者」による米軍支援が「責務」として義務付けられ、内閣官房は「輸送業務などを想定」しています。

 現場の労働者が協力を拒否した場合はどうなるのか。政府は「従業員が個人的な考え方で業務を拒否した場合は、その法人内の内規の問題になる」(二〇〇三年五月、衆院外務委員会、安倍晋三官房副長官=当時)とした上で、企業が懲戒解雇しても「憲法違反にならない」(同)との考えを示しています。

 定期航空協会は「周辺事態法」成立の際、(1)事業運営の大前提である運航の安全性が確保される(2)協力を行うことによって関係国から敵視されることのないよう、協力依頼の内容が武力行使に当たらない―などを対応の原則にしました。同協会は「有事法制でもこの原則から外れることはない」としています。

 「今後も、この原則を会社側に守らせるたたかいが重要」という竹島さんは「有事関連法案に反対するたたかいを通じて、戦争国家づくりの流れを変えたい」といいます。


 (注)日米地位協定五条一項 合衆国及び合衆国以外の国の船舶及び航空機で、合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるものは、入港料又は着陸料を課されないで日本国の港又は飛行場に出入りすることができる。


ガイドラインの協力項目例を強制

 米国の海外での戦争に日本が協力することを取り決めた日米軍事協力の指針(ガイドライン、一九九七年)では、民間空港・港湾の利用など、詳細な米軍への「協力項目例」が示されました。

 九九年にはガイドライン具体化のための「周辺事態法」が成立。しかし、同法は米軍協力を自治体に「求め」、民間企業に「依頼」するという規定にとどまっており、強制力はありません。

 今回の有事関連法案では、ガイドラインで示された「協力項目例」の多くが自治体や民間企業に強制されるようになります。(表)

ガイドラインの主な「協力項目例」

 【施設の使用】

 〇米軍機・艦船による民間空港・港湾の使用

 〇民間空港・港湾での人員・物資の積卸しに必要な 場所、保管施設の確保

 〇民間空港・港湾の運用時間の延長

 【補給】

 〇民間空港・港湾での米軍機・艦船への物資、燃料 ・油脂・潤滑油の提供

 〇米軍基地への物資、燃料・油脂・潤滑油の提供

 【輸送】

 〇国内での人員、物資、燃料・油脂・潤滑油の陸上 ・海上・航空輸送

 〇公海上の米艦船への海上輸送

 〇輸送のための車両及びクレーンの使用

 【整備】

 〇米軍機・艦船・車両の修理・整備

 〇修理部品の提供

 〇整備用資機材の一時提供

 【通信】

 〇日米間の通信のための周波数の確保、器材の提供

 【その他】

 ○米艦船の出入港への支援

 ○民間空港・港湾での物資の積卸し

 【海・空域調整】

 〇日本領域及び周囲の海上運航調整

 〇日本領域及び周囲の航空交通管制・空域調整


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