日本共産党

2004年3月5日(金)「しんぶん赤旗」

米国の支配広げる 中東改造計画に各国批判

押しつけでは民主化にならない

パレスチナ問題無視と指摘


 米国のブッシュ政権がもくろむ「中東改造」計画に中東諸国で批判が広がっています。イラク占領を続け、パレスチナ問題でイスラエルを支持するブッシュ政権が「中東民主化」を主張することが反発を買っています。欧州連合(EU)は「改革は外から押しつけるものではない」という立場から米案を警戒しつつ慎重な姿勢です。


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 【カイロ=岡崎衆史】サウジアラビアとエジプトが二月二十四日、共同声明を発表して計画を「外からの押し付け」と拒否し、「パレスチナとイラク問題の解決を」と訴えたのに続き、中東で批判の声が次々にあがっています。

 アラブ連盟のムーサ事務局長は、民主主義や人権、社会の発展を求めることでは一致しているとしながらも、イスラエル・パレスチナ紛争など中東地域の重要問題を「無視している」と指摘。民主主義が必要だというのなら、イスラエルによるパレスチナ人抑圧などアラブの「最大の懸念事項」に対処する必要があると強調しました。

 中東メディアも、計画は、米国のネオコン(新保守主義者)などが、中東を自分の都合のよい地域につくりかえるために主張してきた「中東民主化」計画の具体化と厳しく批判しています。

 エジプトの政府系紙アルアハラムの二月十九日付論評は、「パレスチナ人に対してイスラエルがしていることと、米国主導のイラク占領から注意をそらすためだ」「中東を米国と欧州の権力の下に置こうとしている」と非難。ヨルダン・タイムズ紙二十五日付は、同国元国連大使のハッサン・アブニマ氏の論評を掲載し、「計画の目的はアラブ・イスラエル紛争解決の用意をせずに、それをわきに置くものだ」と断じました。

 レバノンのオベイド外相は二月二十二日、「本当の民主主義は米国のファストフード式のやり方では生まれてこないし、出来合いの形式で輸出されるものでもない。政治や経済、文化や宗教的伝統から生まれる」(カイロでの記者会見)と語りました。

 サウジアラビアのサウド外相も同月十九日、訪問先のブリュッセルで、「中東が変わる必要があり、西側が何らかの役割を果たせるのなら、改革を押し付ける方法や手段を見つけることではなく、誰にでもわかる模範を示すべきだ」と述べました。

 計画について中東のほとんどの政府は事前に正式な形で知らされず、報道などを通じて初めて内容を知りました。レバノンのハリリ首相は「アラブ諸国とその指導者がまず計画の内容を知る必要がある」と怒りをあらわにしました。


EUは警戒、懸念

 【パリ=浅田信幸】欧州連合(EU)は、中東の「民主化」を促すために米国が前向きになることに賛意を表明しながら、ブッシュ政権の“押し付けがましさ”を警戒し、中東問題の核心であるイスラエル・パレスチナ紛争の解決がわきにおかれることを懸念しています。

 今月末の米・EU首脳会議を準備するため、EU議長国アイルランドのカウエン外相、ソラナEU共通外交・安全保障上級代表とともに訪米したパッテン欧州委員(対外関係担当)は三月一日、ワシントンでパウエル米国務長官との会談後、「この地域にわれわれの考えを押し付けているという印象を与えたくない」と語りました。内発的な動きでなければ社会発展も民主化もありえないとの考えです。

 英紙フィナンシャル・タイムズ一日付は「EUは、たとえ経済の開放を励まし、民間部門を立ち上げ、市民社会を支援するにしても、改革は外から押し付けることはできず、内部からだけ生ずるものだと信じている」と指摘しています。

 カウエン外相は、会談で米国と討議した第一の問題がイスラエル・パレスチナ紛争であることを強調し、「停滞している中東和平プロセスが引き続きわれわれの深い懸念事項だ」と語りました。

 中東で核心をなす問題がイスラエル・パレスチナ紛争の解決であることはEUの共通認識です。ドビルパン仏外相は二月半ば仏紙フィガロのインタビューで「信頼されたいのであれば、イスラエル・パレスチナ紛争を無視できない。和平への動きを再びつくり出すことは、この地域におけるあらゆるイニシアチブにとって不可欠の条件だ」と述べました。また「解決策を命令してはならない」「あまりに画一的な方法も避けるべきだ」と干渉に反対しました。

 米国の提起を特集した仏紙ルモンドは二月末、「われわれが恐れるのは、米国がその地政学的な政治ビジョンをすすめるためにわれわれの手段を利用しようとし、この途方もない計画に資金提供を求めてくることだ」と専門家のコメントを伝えました。


サミットで欧州、日本の支持狙う

大中東イニシアチブ

 「大中東イニシアチブ」と名づけられた計画が明らかになったのは今年一月末。米国のチェイニー副大統領がスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムで、アラブ諸国とイランやトルコ、パキスタンなどを含めた「大中東」の改革に向けた「自由のための将来計画」への欧州諸国の支持を求めたのが最初でした。米国は、六月に米国で開かれる主要八カ国首脳会議(G8サミット)に提出し、欧州や日本の支持を取り付けて推進を図るものとみられます。

 対象としている地域は、アラブ諸国とイラン、パキスタン、アフガニスタン、トルコ、イスラエルなど。

 汎アラブ新聞のアルハヤト(十四日付電子版)に掲載された計画草案は、国連のアラブ人間開発報告(AHDR)が挙げているように中東で自由、知識、女性の権利が欠けており、G8の国家利益を脅かす条件となっていると述べています。政治的経済的に権利をもたない人びとが増加すれば、過激主義やテロ、国際犯罪、不法移民が増えると警告。そうした事態を避けるために、(1)民主主義とよい統治(2)知的社会の建設(3)経済的な機会の拡大―に取り組むとしています。

 自由選挙の実施、議会の役割、自由な報道、汚職の追放、市民社会の建設、基礎教育、とりわけ女性の教育、識字率の向上、デジタルディバイド(情報格差)の克服のほか、世界貿易機関(WTO)への加盟や自由貿易の促進、アジア太平洋経済協力会議(APEC)型の経済フォーラムの建設などが含まれています。

 パレスチナ問題への言及はありません。

 (カイロ=岡崎衆史)


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