2004年3月3日(水)「しんぶん赤旗」
「教育制度の過度に競争的な性格が、子どもに否定的な影響を及ぼしている」――。一月末に出された国連子どもの権利委員会の日本政府への最終所見(懸念や勧告)の一部です。国連による「子どもの権利条約」実施状況の審査は今回で二回目。前回(一九九八年)に改善を勧告されたことがどうなっているかが問われました。その結果は、日本政府にとって再び厳しいものとなりました。
前回の国連勧告は、「高度に競争的な教育制度が子どもたちの発達にゆがみをもたらしている」と指摘して、改善を求めました。
日本政府の対応はどうだったのでしょうか。勧告にたいする日本政府の回答(〇一年十一月「政府報告書」)では、「十五歳人口が減少してきており、高等学校入学者選抜における過度の受験競争は緩和されつつある」というものでした。推薦や面接など入試方法の「改善」もあげました。
「政府報告書」は、全体として日本の子どもたちの状況は、改善されていて問題ないというものでした。
国連の判断は違いました。「前回勧告が十分フォローアップ(追跡)されていない」として三項目をあげ、その一つがふたたび「教育制度の過度に競争的な性格」だったのです。「子どもの肉体的および精神的な健康に否定的な影響を及ぼし、子どもの最大限可能なまでに発達することを妨げている」と懸念を表明。改善のために「子どもや親、関連する非政府組織の意見を考慮してカリキュラムを見直す」ことを勧告しました。
日本政府の「教育制度改革」への批判はほかにもあります。
具体例としたあげられたのは、東京都の定時制高校統廃合です。定時制高校が柔軟な教育機会を子どもたちに提供していることを示し、「(統廃合再考を)東京都の関係当局に働きかけること」を日本政府に求めています。
また「高等教育進学が、貧困な家庭ではまかないきれない私的な教育で補われていること」「学校における子どもの問題や紛争に関する親と教師間のコミュニケーションと連携が極めて限定されていること」などへも懸念が出されました。
「子どもの意見の尊重」については今回、「家庭、学校、その他の施設および社会全般において子どもの意見の尊重を制限している」と指摘しました。
改善のために「子どもに影響を与えるすべての事柄について、子どもの参加を促進し、助長する。子どもがこの権利を認識できるようにする」など四つの改善を勧告しました。
今回の勧告に大きな役割を果たしたのが、市民・NGO報告書や日本の子どもたちの生の声でした。国連審査前日には、「子どもの声を国連に届ける会」の子どもたちが、ジュネーブまで出向いて国連子どもの権利委員会で体験を発表しました。
「受験のために、高校に上がるためだけに、すべての教科をただ機械的に暗記し、記憶するだけの授業が毎日のように続いた」。現役高校生の発言です。
「私は十二歳から十六歳までの四年間不登校でした。定時制高校は、私にとってかけがえのない場所。無くさないでほしい」と訴えたのは二十歳で東京の定時制を卒業した女性でした。
日本各地・各分野の実態を国連に届けた「第二回市民・NGO(非政府組織)報告書をつくる会」は十三日、東京都内で子どもたちを含む国連審査に参加したメンバーによる報告集会を開催します。「問題なし」という政府の態度を変えさせ、「国連勧告」を実現していくのはこれからです。
◇
「つくる会」事務局担当の三宅良子さんの話 私たちは、子どもたちを含め九十人の傍聴団で審査を見守りました。これは福田雅章代表がいうように、「国連の委員とともに子どもの権利条約の実践を担い合う」営みであり、そのパワーを国内での実践につなげようという決意のあらわれでもあります。今回の「勧告」は、非常に具体的です。個人や団体で大いに活用しようではありませんか。