日本共産党

2004年2月12日(木)「しんぶん赤旗」

仏 イスラム女生徒

スカーフ禁止へ 下院で法案可決

賛否両論

異文化の抑圧 政教分離侵害


 仏国民議会(下院)は十日、学校でイスラム女生徒のスカーフ着用を禁止する法案を賛成四九四、反対三六、棄権三一の圧倒的多数で可決しました。法律になるまでには上院での審議などまだ手続きが残っていますが、最終的な成立は確実で、今年九月の新学期から施行されます。「着用は国是である政教分離への侵害だ」とする法案への賛成論と「禁止は異文化への抑圧」とする反対論など国をあげて激論が交わされてきました。問題は禁止法の成立で終わりません。(パリで浅田信幸)

 今回スカーフの禁止が法制化されるきっかけとなったのは、昨年十月パリ近郊の高校でスカーフを脱ぐようにとの説得に応じなかった二人の女生徒が退学処分を受け、大きな社会問題になったことです。

 論議が広がる中でシラク大統領は十二月半ば、国民向けの演説で「共和主義の要である非宗教性」「公共サービスの中立性と非宗教性」を強調。「これ見よがしに宗教的帰属を示す標章の着用は学校では禁じられるべきだ」として、政府に法制化を求めました。

文化的背景

 憲法は「フランスは非宗教的共和国である」と定めています。王権と結びついたカトリック教会権力とたたかったフランス革命の伝統が盛り込まれています。一九〇五年に制定された政教分離法がいまも、政治や公教育と宗教の厳密な分離を定めています。このため、カトリック系学校への国庫補助を憲法違反と主張する議論もあるほどです。

 世論の六、七割が禁止法制化を支持しているのもフランスのこうした文化が背景にあります。学校でのスカーフ着用は公的な場での宗教的行動だというのが禁止論者の見解です。法案には野党、社会党も賛成しました。

 反対論者は、禁止が国民の融和を損なうと主張します。オブリ元雇用連帯相(社会党)のように、逆に原理主義や独自のルールを国内法より優先させる「共同体主義」を強めると批判する声もあります。教育界では意見が分かれています。

 一月半ばには、全国で二万人のイスラム教徒が仏国歌のマルセイエーズを歌い、「表現の自由」「宗教の自由」を叫び、禁止法の撤回を求めてデモを繰り広げました。

 論議は国内にとどまりません。イスラム諸国の宗教的指導者らが強く反発。東南アジアから中東のアラブ・イスラム諸国まで仏大使館が抗議のデモに見舞われる事態にもなりました。イラク戦争反対でアラブ諸国の国民から熱烈な支持を得たシラク大統領ですが、今回の問題で人気も急落。一部には中東外交への影響を懸念する声もあがっています。

 一方、スカーフ着用にこだわる女生徒たちの将来がどうなるのかも、仏社会にとっては悩ましい問題です。

 ルモンド紙の調査によると昨年の新学期以来、全国でスカーフ着用を理由に退学させられた女生徒は五人。しかし規律処分が決まる前に自主退学を選んだ女生徒が大勢いると指摘しています。

 病気やその他何らかの理由で学校に通えなくなった生徒の勉学を援助する通信教育や家庭訪問教育のシステムがありますが、高等教育レベルにまで進むのはほとんど不可能なのが実情です。

大きな賭け

 フランスでの論議に促されて問題を検討したスウェーデンでは、サーリン統合融和担当相が九日、「禁止は社会からイスラム女性を排除することになるだろう」と、スカーフ禁止に否定的な見解を明らかにしました。

 イスラム移民は五百万人、人口の8%。文化・生活習慣の異なる移民を受け入れ、社会的融和を築こうとしてきたフランス。スカーフ問題が長期的にどのような影響を及ぼすのか、仏政権は大きな賭けに出たといえます。


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