日本共産党

2004年2月1日(日)「しんぶん赤旗」


文字
枯らさない
汚させない

生命はぐくむ泉、自然の宝庫


 「泉に水くみに来て娘らが話していた 若者がここに来たら冷たい水あげましょう……」(※)。昔も今もこれからも、泉は生きものの憩いの場です。大自然のフィルターを長い時間くぐってやってきてくれる水たちは、ここで滾滾(こんこん)と地表にでます。“ふるさとの泉”の今の表情を、富士の裾野(すその)が広がる静岡県と、信濃川が流れる新潟県からお届けします。

 ※「泉のほとり」〔作詞=アルイモフ、訳詞=井上頼豊ほか、作曲=ノヴィコフ〕



静岡・柿田川湧水群

住民ら清掃 周辺地を買取る

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富士山を背にゆうゆうと流れる柿田川(提供=清水市)

 富士山に降った雪解け水や雨水が一大地下水をなし、富士五湖はじめ四方に池や滝などをつくり出しています。富士山南東の静岡県清水町にある柿田川湧水(ゆうすい)群は一日百万立方メートルもの湧水量があり、全長一・二キロメートルの「湧水河川」となっています。周辺三十五万住民の飲料水(二十万立方メートル)と工業用水(三十万立方メートル)の貴重な水源です。

 “そのまま飲める”湧水の水温は一五度と冷たく一定。珍しい越年アユや渓流にいるはずのアマゴが泳ぎ、絶滅危惧I類で汚染に敏感な水草ミシマバイカモ(梅花藻)も繁茂。緑豊かな河畔林や湿地には、通常、渓谷に生息するヤマセミやカワセミ、アオハダトンボなど貴重な動植物も生息する“自然の宝庫”となっています。

 土隆一静岡大学名誉教授(地質学)は、「柿田川付近の地下に十層以上の溶岩流(玄武岩)があり、この中を富士山の高所から連なった地下水が押し出されるようにしてわき出ているんです。柿田川ほど水みちがはっきりしていて規模も日本一の部類の湧水は少ない」。環境省の名水百選にもなった水のおいしさの秘密は「富士山地表の土壌のバクテリアにこされ、さらに長い時間をかけて鉱物の間をこされてミネラル分を含むから」と記者に教えてくれました。

 柿田川の美観は、高度経済成長以降の開発と水質汚染の危機から何度も救った住民の自然保護運動なしには語れません。

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 漆畑信昭さん(財団法人柿田川みどりのトラスト会長)は一九七五年、県営水道施設工事で柿田川上流部の照葉樹が伐採され、ショベルカーが川底の砂を掘り起こす様(さま)を目撃。「心のふるさとが破壊される!」と急きょ、友人や近所の主婦ら七人で「柿田川自然保護の会」をたちあげ、柿田川保護の請願書を提出。経済活動最優先で自然保護の主張が異端視された当時から「いまに柿田川の大切さが必ず理解される」と清掃など柿田川の自然保護に献身。八八年には、市民募金で川周辺の土地を買い上げて保全・再生し、後世に残そうというナショナル・トラスト(国民環境基金)運動を展開。これが透明感たっぷりの柿田川湧水群の水中映像放映などで脚光もあび、八千人の協力を得ました。

 こうした中、漆畑さんらは、町、県と協議し柿田川保護に官民一体でとりくむことで一致。今では、町と同トラストの買い上げた川周辺部の土地は95%に達し、乱開発や汚水の流入を防ぎ、富士山の地下水を増やそうと毎年約三千本を富士山に植樹する事業を市民や「柿田川湧水保全の会」(古泉榮一郎会長)などの協力で実施しています。

 今後の課題としては、湧水量減少の主な要因である、富士山ろくに広がる工場群からの地下水くみ上げへの規制と汚染防止などが求められます。

 平井弥一郎清水町長は、「すべての源は水であり、二十一世紀は改めて環境を考える時代です。水の大切さを柿田川を通して全国から来ていただくみなさんにも認識してほしい」と話しています。

 (静岡県・森大介記者)

新潟・竜ケ窪の沼

運動3年 ゴルフ場開発から守る

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名水・竜ケ窪の沼(提供=津南町)

 名水・竜ケ窪(りゅうがくぼ)の沼は、今、深い雪の中です。暖冬少雪かと思われましたが、やはり「寒」、二メートル近い積雪になりました。

 竜ケ窪のある津南町は、新潟県の南端、信濃川を挟んで隣は長野県栄村です。日本有数の豪雪地であり、信濃川とその支流に沿って発達した河岸段丘の美しい町です。

 竜ケ窪はその段丘上にあります。沼の面積は一万一千九百平方メートル。湧出量は毎分三十トン、日量四万三千トンと豊富で、沼の水は一日一回は入れかわり、環境省の名水百選の一つです。水温は湧出口で六・五度―六・九度、水面中央部で一一度。清冽(せいれつ)でおいしい水を求めて、夏には特に多くの人が訪れます。

 地域では、飲料水や農業用水として広く利用しています。家の周りを流水させることで、夏は野菜や果物、漬物などを冷やし、冬には融雪に活用しています。

 沼の周囲は、ブナ、ナラ、トチなど落葉広葉樹の種類も多く、野鳥も三十六種類まで確認されていることから、一九七四年、新潟県の自然環境保全地域に指定されました。沼の周囲を散策することもできます。春には新緑を、秋には紅葉を水面に映し、祭神である八大龍王権現の境内からの眺めは、しばし喧騒(けんそう)を忘れさせてくれます。

 一九八八年、突如、竜ケ窪水源域に五百ヘクタール、九十ホールものゴルフ場建設計画が浮上しました。前年成立したリゾート法(総合保養地域整備法)による巨大な開発計画です。

 「生命の水を汚してはならない」と、竜ケ窪地域を中心とした町民と、八七年の町議選で町政史上初めて複数議席を実現した日本共産党議員団とが力を合わせて、ゴルフ場計画反対運動に取り組みました。三年間にわたる議会内外での激しい運動の結果、ついにゴルフ場計画を中止させることができました。新潟県内では初めてのゴルフ場計画中止でした。

 今では近くに竜ケ窪温泉施設ができ、地域住民のかけがえのない交流の場となり、良質な温泉は、県内外の多くの方から親しまれ、年間利用客は十万人になっています。地域のお母さんたちが、施設の一角で作っている名水豆腐は、お勧めの一品です。「自慢できるものは名水と、おいしい農産物」。これを活(い)かしたものをと、試行錯誤を繰り返し、今では昔ながらの味と好評です。

 また、少し離れた同じ段丘上に、七月下旬から八月のお盆まで、三十万本のヒマワリが咲き誇り、夏空のもと、竜ケ窪とあわせて訪れる観光客が多くなりました。

 リゾート・ゴルフ場開発を許さなかった町民の賢明な判断が、今、「自立の町づくり」に受け継がれようとしています。

 (くわはら加代子参院新潟選挙区候補=元津南町議)


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