日本共産党

2004年1月30日(金)「しんぶん赤旗」

ハットン報告

英首相の責任を不問

イラク開戦の情報操作疑惑 大量破壊兵器には触れず


 【ロンドン=西尾正哉】英国防省顧問で科学者のケリー博士の自殺の状況を調査する独立司法調査委員会(委員長・ハットン判事)は二十八日、最終報告を公表し、“イラクの脅威を脚色し誇張した”とする英BBC放送の報道について、根拠がないと指摘しました。同報告はしかし、「イラクの脅威」の根拠とされた大量破壊兵器に関する情報そのものについて調査したものではなく、イラク戦争開戦をめぐる同政権の責任を免罪したものではありません。

 昨年八月一日に審理を始めた同調査委員会は、ケリー氏の自殺の直接の状況だけでなく、その背景となった、ブレア政権によるイラクの脅威を誇張した「情報操作疑惑」も調査対象としました。ブレア首相をはじめその側近のキャンベル報道局長、フーン国防相などの政権中枢や英BBC放送の幹部、ブレア首相が機密情報を故意に脚色したと報道したギリガンBBC放送記者などが証人として証言しました。

 最終報告は、政府が機密情報についての報告で“イラクは四十五分で大量破壊兵器が配備可能だ”とした、いわゆる「四十五分」問題について、政府が当時、信頼できると確信していた情報機関から受けた報告を基にしており、BBC放送のギリガン記者の報道には根拠はなかったと断定しました。

 情報機関が得たこの情報について、報告は、後に情報源が「信頼できないと示されたかどうかにかかわらず」として、この情報の信頼性については判断を回避しています。

 BBC放送に関しては、編集者のチェックなしにギリガン記者の記事を放送するなどBBCの編集システムに欠陥があったと指摘、BBCの管理体制にも問題があったと批判しました。

 報告を受けてBBCのデービス会長は責任を取って辞任することを表明しました。

 最終報告は、ケリー氏を自殺に追いやったとしても、ブレア政権には「秘密の策略はなかった」とし、ギリガン記者の取材源の実名を英メディアにリークしたブレア首相やフーン国防相の責任に関しては不問にしました。


解説

うそで戦争強行した責任消えない

 ハットン委員会の最終報告は、イラクの大量破壊兵器に関する情報操作に絡むケリー国防省顧問の自殺問題でブレア英首相に責任はなかったと結論づけました。しかし、虚偽に基づきイラクへの先制攻撃戦争を強行した同首相の責任は、同報告の発表でいささかも消滅するものではありません。

 米英両国が国際法に違反して対イラク戦争を実施する際に最大の理由としたのが、イラクの大量破壊兵器の脅威です。ブッシュ米大統領がフセイン政権打倒の根拠としてほかの理由も挙げたのに対し、ブレア首相は専らこの問題を使ってイラク攻撃を正当化しようとしました。

 ブレア政権は二〇〇二年九月二十四日には、「イラク軍は生物・化学兵器を四十五分以内に配備できる」とまで強調する報告書を発表しました。

 ハットン報告は、「政府が、この情報は誤っていると知りながら報告書に挿入したというBBCのギリガン記者の報道は、根拠がない」とし、責任はBBCにあり、首相にはないと結論づけました。

 しかし、いま世界で大問題になっているのは、イラク軍が「配備できる」とされた大量破壊兵器そのものが存在しなかったということです。米国のイラク調査グループ(ISG)のデビッド・ケイ前団長や、ブリクス前国連査察委員長など、イラクの大量破壊兵器査察の国際的権威が、そう明言しています。

 「四十五分以内」であれ何であれ、存在しない兵器を「配備」することはできません。ブレア首相が根源的問題で世論をミスリードした責任は、消えません。「英情報機関はイラクなど中東情報に強い」との神話は崩れました。

 「フセインの大量破壊兵器の脅威をできるだけ強くみせたいとの首相の願望が、報告書の文言を強くするよう潜在意識的に影響を及ぼした可能性は完全には排除できない」−ハットン報告も、この程度までは認めざるをえませんでした。

 最大野党・保守党のハワード党首は二十八日の議会党首討論で、「調査委員会がどうであれ大量破壊兵器が見つからないじゃないか」と追及しました。大学学費値上げ法案も含め当面の危機を乗り越えたブレア首相。しかし、来年にも予想される総選挙に向け、ブレア批判が弱まることはなさそうです。

 (坂口明記者)


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