2004年1月28日(水)「しんぶん赤旗」
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有権者の買収、経歴詐称疑惑…。自民党、民主党の双方から続々と発覚する昨年十一月の総選挙での選挙違反事件。なかでも、埼玉県所沢市の現職議長ら十人の市議逮捕にまで発展した衆院埼玉八区の自民党前衆院議員・新井正則被告(48)=公職選挙法違反の罪で起訴=派の選挙違反事件は、悪質です。買収の元手は国民の税金、政党助成金でした。(北関東総局 山本眞直記者)
「腹が立ってじっとしていられなかった」。市議の大量逮捕を知った所沢市北秋津の獣医、小林好作さん(69)は寒風の下、市役所前でたった一人、「怒 市議九人はすぐ辞職せよ」の手書きポスターをかかげて抗議しました。
小林さんの怒りはおさまりません。
「国民には年金を引き下げ、健康保険料を値上げし、消費税増税をおしつけ、政治家は政党助成金をまるで自分のポケットマネーのように使い放題だ。あげくの果てに議席を金で買収する資金にするなんて絶対に許せない」
先の総選挙での公選法違反(買収)による自民党国会議員の逮捕者は近藤浩前衆院議員に次いで二人目。新井被告の場合は、政党助成金を買収資金にあてていたという点でいっそう悪質です。
警察の調べによると、助成金は昨年十月、自民党埼玉八区(所沢市、入間郡大井町、三芳町)支部に一千万円が入金され、五百万円が買収資金として新井被告から選対本部長の砂川育雄被告(逮捕後、所沢市議を辞職)に渡されました。
砂川被告は、党支部幹部ら十八人(いずれも逮捕・起訴)に計百八十万円、市議九人に十万円から二十万円をそれぞれ渡しました。所沢市議会の定数は三十六。逮捕者十人は四分の一をこします。
元自民党地区役員という会社社長は、買収選挙の実態を体験もまじえてこう告発します。
「新井候補が総選挙直前に、自分の経営するスーパー銭湯の入浴券の束を私のところにもってきた。これは危ないと思って受け取りませんでした。かつての市長選挙では関係者が訪ねてきて『協力してほしい』と座布団のしたに三百万円置いていったことがある。もちろんこれも受け取りませんでしたけどね。だから今回も警察がきて『あんたも受け取っていたら危なかった』といわれたよ」
所沢市議会は二十三日、全会一致で「九人の政治的道義的責任は免れない」として進退を問う共同声明を出しました。
日本共産党は、事件の全容の徹底解明と九市議の即時辞職を要求、市議会内外で世論と運動を広げています。
政治的道義的責任は小泉首相や公明党も問われています。
小泉首相は衆院選で新井被告を熱心に応援、公明党は「比例区は公明党、小選挙区は新井」と選挙協力を展開しました。
同首相は、参院本会議の代表質問で新井派買収事件を取り上げた日本共産党の西山とき子議員の追及に、「政治活動の経費を政党助成金のような公費、献金、政党自体の事業収入のいずれかに頼るべきかはそれぞれ党の事情もある。各党で議論してほしい」と、まったくの人ごとで一片の反省もありません。
新井被告は「公明党のみなさんには、連立与党として応援していただけることになった。みなさんには比例区での公明党への支持をぜひお願いしたい」(「日刊新民報」十月二十九日付)と訴え。開票日には砂川被告が「公明党の皆さんの強力な支援があっての勝利」(「家庭新聞」十一月十一日付)と、自公一体でたたかった選挙でした。
公明党の山本晴造・埼玉県本部幹事長は「(自民党は)党としてもっと大人になってもらわないと」(「朝日」十七日付)とやはり人ごとの“苦言”。ここには新井被告を応援した政治的責任もなければ、買収選挙をした新井派=自民党から比例票を「協力」してもらった道義的責任への反省もありません。
日本共産党所沢市委員会の柳下礼子委員長(前県議)は、「政党助成金を買収資金にして平然としている姿は、自民党政治の行き詰まりそのもの。日本共産党は政治腐敗の温床となっている政党助成金も、企業献金も一円も受け取っていません。国民の思想・良心の自由を侵す政党助成金廃止を求める世論をさらに広げるためにがんばります」と訴えています。
二月二十五日に東京地裁で判決を迎える政党助成金違憲訴訟の原告弁護団の一人、大久保賢一弁護士の話 逮捕された新井派関係者は「政党助成金を政治活動に使っただけで違法性はない」と思いこんでいるようですが、公的資金である助成金を選挙買収に使っても問題ないとする意識は政治腐敗の極みです。
確かに現行の政党助成金制度には厳格な使途の制限はありません。それをいいことに助成金を飲食代やパーマ代などまるで自分の金のように使い放題にしているケースが放置されています。
違憲訴訟は、税金である公的資金が使途に何の歯止めもなく事実上無制限に政党に流れる仕組みは明らかに憲法違反だとして廃止を求めています。今回の買収事件はこれまで指摘してきた違憲性と同時に政党助成金が政党の政治腐敗を助長する仕組みになっていることを実証しています。