2004年1月26日(月)「しんぶん赤旗」
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「原告五人はいずれも集団予防接種で(B型肝炎に)感染したと認められる」。札幌高裁の山崎健二裁判長は十六日、集団予防接種の際に注射針や筒を連続使用したことによって肝炎をまん延させた国の責任を断罪しました。集団予防接種による肝炎ウイルス感染被害の国家賠償を求めた国内唯一の判決です。判決の意味と原告の思いは…。
「だれでもが同じ危険にさらされていたんです」と「B型肝炎訴訟」原告の木村伸一さん(39)はそう訴えます。
一九八九年六月の提訴から十五年。「長かった」と木村さん。判決後の二十三日、札幌市から上京し、「上告するな」と厚生労働省に申し入れました。
ウイルス性肝炎のB型、C型合わせてキャリア(持続感染者)は推定三百万人とも四百万人ともいわれています。それだけに判決の意義は「全国のウイルス肝炎患者の救済に大きく道を開く画期的なもの」(原告弁護団)。
木村さんが急性肝炎で緊急入院させられたのは二十二歳のとき。輸血の経験もなく、家族にキャリアもなく肝炎ウイルスに感染する原因がなく「わけが分からなかった」といいます。
なぜこれほど感染が広まったのか。
「すぐに頭に浮かぶのは子どものころに学校で受けた予防接種の光景である。上半身を裸にして一列になって順番に校医さんから注射を受けていた」。京大ウイルス研究所所長だった畑中正一・京都大学名誉教授が著書『殺人ウイルスへの挑戦』で書いているように専門家の間では集団予防接種が原因だとする指摘は多数ありました。
世界保健機構(WHO)は五三年に針や筒を一人ひとり交換せずに連続注射をする危険を警告していました。厚生省(当時)は、WHOの警告から三十年以上もたった八八年になってようやく針だけでなく筒も連続使用するのを禁止する通達を出したのです。
山崎裁判長は「集団予防接種を行っていた当時、注射針、筒を連続使用したら感染する恐れがあると予見できた」とのべました。専門家の間ではよく知られていた感染原因を司法の場でも確認し、国民の命・健康を軽視する国の怠慢を厳しく指弾しました。
「国のやったことで私たちは苦しんでいる」。木村さんたちは札幌高裁判決に国が上告せずに従うことを訴えます。
完治する治療法が確立されていないウイルス性肝炎。患者は「いつ発病し、肝硬変、肝がんへと進み命を奪われるのか不安にさらされている」のです。
肝炎訴訟を支える会事務局長の國中るみ子さんは「日本のがん死亡で多いのは、胃がん、肺がんに次いで肝がんが三位。年間三万人以上も亡くなっています。国の責任による救済の医療制度の確立は急務です」といいます。
亀田谷和徳さんは二十歳の最年少原告。原告になったときは五歳。「これは僕の裁判だから」と中学二年のころから欠かさず傍聴してきました。判決の日は国の責任を問う先頭に立つことを決意し実名を公表しました。
看護師を目指し専門学校で学ぶ亀田谷さん。「差別と偏見をなくしてほしい」と訴えます。公表によって学校で差別的対応をうけたのです。
「僕はツベルクリンとBCGの二回の予防接種以外感染原因になるものはなかった。判決は当たり前のことを認めたものです。厚生労働省は上告しないで判決に従うべきです」
(菅野尚夫記者)