日本共産党

2004年1月18日(日)「しんぶん赤旗」

高まる選挙求める声

イラク主権移譲

占領軍計画に反発


 米国が主導するイラク暫定政府樹立と主権移譲の案に対し、多数派のイスラム教シーア派を中心に、少数派のスンニ派も含め、イラク国民の反発が急速に高まっています。無法なイラク戦争を引き起こし、占領を続けている米政権はいま、抵抗勢力による武力攻撃に加え、イラクの主権移譲プロセスでも重大な困難に直面しています。(小泉大介記者)


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シーア派が宗教令

 「暫定議会樹立のための理想的方法は直接選挙である。それは数カ月の準備期間で実施可能であり、かなりの程度の信頼性と透明性を持つことができると多数の専門家が認めている」

 イラクにおけるシーア派の最高指導者アリ・シスタニ師は十一日、このような宗教令(ファトワ)を発し、暫定政府樹立の母体となる暫定議会を米英占領当局=暫定行政当局(CPA)監視のもとでの間接選挙で選出しようとしている米主導の方針を正面から批判しました。同師は「任命によってつくられる議会は正当性を欠き、イラク国民の意思を代表しない」と明言しています。

 宗教令はさらに、「もし暫定議会が必要な正当性を持たない方法で選出されるならば、暫定政府は有益な機能を果たすことはできない」「その結果がもたらすのは、政治と治安のさらなる悪化だけである」と警告しました。

占領継続狙う米国

 CPAとイラク統治評議会が昨年十一月十五日に合意した新政府樹立にむけた方針文書(表参照)は、主権移譲のプロセスを定める「基本法」について、CPAとの「緊密な協議」や「承認」を義務付け、暫定政府の母体となる暫定議会の選出でも、その過程をCPAが「監督」する役割を明記しています。

 米主導のCPAは昨年七月の統治評議会の選出で、そのメンバーをCPAが任命し最終権限を確保しました。暫定政権づくりでも米国はその権限の確保を狙っています。

 文書はさらに、「イラクにおける連合軍の地位」を含む安全保障に関する諸協定を暫定政府発足前に(今年三月末まで)、CPAと統治評議会との間で結ぶことをうたっています。これは米軍の駐留継続のための措置です。

 米国はイラクへの「主権移譲」後も米軍を駐留させることを再三明らかにしてきました。ブッシュ米大統領はフセイン元イラク大統領の拘束直後の先月十四日、「テロ戦争に勝利するまで気を緩めない」と占領継続の意思を表明。イラク駐留米陸軍を指揮するメッツ第三軍団司令官は十一月十七日、二〇〇六年まで駐留を続ける構えを示唆していました。

 この米軍による占領継続の問題でもシスタニ師は、主権が移譲される七月一日以降の連合軍の駐留に関する協定は、選挙で選出された暫定議会によって批准されなければならないとの立場を明らかにしています。

大規模デモで要求

 イラクにおけるシーア派は国民の六割以上を占めるとともに、最高指導者のシスタニ師は「イラクにおける最も影響力ある人物」(英紙フィナンシャル・タイムズ)といわれるだけに、米計画に与える影響は深刻です。米有力紙は「米計画への打撃」(ニューヨーク・タイムズ)などの見出しで同師の宗教令を大きく報道しました。

 シスタニ師の直接選挙要求にたいしCPA側は「選挙人名簿もそろっておらず非現実的」などと拒否する姿勢を明らかにしました。

 イラク南部の大都市バスラでは十五日、数万人の住民が直接選挙実施と米軍撤退を求めデモを敢行するなど、シスタニ師の訴えに呼応する動きが急速に広がる気配を見せています。

 直接選挙を拒否する米占領当局の主張に関しても、「イラクには、あちこちで地方選挙が実施された経験がある」「選挙人名簿に代わるものとして、イラクには食料配給登録がある」(英フィナンシャル・タイムズ十四日付)などの批判があがっており、米国のもくろみにたいする内外の反発はかつてなく広がっています。

スンニ派も結集し

 米国の主権移譲計画にたいする反発はシーア派住民にとどまりません。

 イラク人口の約二割を占めるイスラム教スンニ派は昨年末、イラク全土から各組織代表約七十人がバグダッドに集まり、「スンニ派諮問評議会」の結成にむけ協議しました。この動きに関し米紙ニューヨーク・タイムズ十二日付は「米国支配に反対するイラクで最初の統一した政治的な声」と表現しました。

 現地からの報道によると、同評議会のメンバーの一人、アブドラ・クァイジ師は「われわれの国は侵略され、スンニ派の人々の権利は侵されている」「米兵はここイラクで大きな過ちを犯した。われわれは夢から覚めたのだ」と語りました。

 またバグダッドのスンニ派の有力指導者、シェイク・ノアイミ師は「統治評議会メンバーもすべてのイラク人に受け入れられておらず、もし米国が同じような方法で新政府を選べば、同様に拒否されるだろう。選挙だけが解決策である」とのべ、シーア派の要求と歩調を合わせた立場を表明しています。

 諮問評議会には最終的に百四十人のスンニ派有力者が参加する見込みとされます。シーア派、スンニ派双方の今後の出方によっては、米占領当局は軍事的にも政治的にも深刻な泥沼状態に陥る可能性がでています。


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