2023年7月4日(火)
きょうの潮流
あんたはだめだ!。迫りくる惨事のなかで唯一の日本人乗客だった男性は乗組員に道をふさがれました。「ボートデッキは1等と2等の乗客だけだ」▼1912年4月に沈没したタイタニック号に乗っていた細野正文(まさぶみ)氏です。鉄道官僚で留学の帰りだった同氏は2等船室の客でした。しかし当時の慣習では非白人は歓迎されず、船員が下層の人種だとみなしたのだろう―(『タイタニック 百年目の真実』)▼圧壊したという潜水艇「タイタン」の事故で、ふたたび注目された悲劇。日本では26年前に大ヒットした映画「タイタニック」がこのタイミングでテレビ放映されました▼映画のために何度も潜水してタイタニック号を調べたジェームズ・キャメロン監督は、今回と過去の事故は似ているといいます。安全上の懸念を指摘されながら無視した潜水艇。氷山の警告を受けながらスピードを上げて衝突した豪華客船。どちらも、人間のごう慢さが破滅へ向かわせたと▼もう一つ共通しているのが、人に等級をつけるような格差のゆがみです。恋物語が中心の映画も貧富や差別を描いています。悲劇の残骸を見学する潜水艇のツアーは1人3500万円といい、豪華客船は今も世界の海を優雅に回っています▼一方で移民や難民をぎゅう詰めにしたおんぼろ船の相次ぐ悲惨も。先月も数百人を乗せた移民船がギリシャ沖で沈没し、多くの命が失われました。深海に眠るタイタニック号。その姿は過去だけでなく、未来についても多くを語っています。








