しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2021年12月3日(金)

きょうの潮流

 「人間(ひと)とは、妙な生きものよ。悪いことをしながら善いことをし、善いことをしながら悪事をはたらく―」。池波正太郎「鬼平犯科帳」の主人公、長谷川平蔵のセリフです▼テレビの人気シリーズにもなった時代小説。原作者は、くせのある盗賊たちと渡り合う火付盗賊改方の長に、単なる勧善懲悪をこえた人物像を描きました。人の心のなかにある善と悪に分け入り、罪を憎んで人を憎まずの思いを込めて▼「鬼の平蔵」と恐れられながら、清濁併せのむ人情味あふれた人柄。それを体現したのが、中村吉右衛門(きちえもん)さんでした。すべてだめだと否定しないで、一人の人間のいいところをみようとする。その姿勢が大事なことではないかと本紙日曜版に語っていました▼名だたる歌舞伎役者たちに囲まれる環境に生まれ育ちました。実父は初代鬼平も演じた八代目松本幸四郎、養父は初代の中村吉右衛門。名優といわれた双璧のもと、本人は幼い頃から役者としての劣等感にさいなまれてきたといいます▼もがき悩みながら努力で道を開き、ひろげてきた芸の幅と人間の大きさ。物の本質をとらえて表現することに妥協せず、磨きをかけつづけ、天職と思うまで己を高めてきました▼いつか歌舞伎を世界的な舞台芸術に押し上げたいと語っていました。自伝には「文化にふれて、人間はこんな素晴らしいことができるんだとたたえる。文化をたたえることで世界は平和になっていく」(『夢見鳥』)と。たくさんの人の心をつかんだ77年の役者人生でした。


pageup