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2020年11月23日(月)

きょうの潮流

 「私は在日韓国人として最下層で育ち、日本にも韓国にもどちらにも属せないという立場にあります。ですから一貫して、居場所のない人のために書いていきたいと思っています」▼2014年の春、小説『JR上野駅公園口』を出版した柳美里(ゆう・みり)さんにインタビューした時、こう切り出されたことを覚えています。痛みのこもった言葉でした▼出稼ぎを繰り返した末にホームレスとなった福島県出身の男を主人公に、敗戦から原発事故に至る日本社会のゆがみと差別構造を描き切った渾身(こんしん)の作。19日、アメリカで最も権威ある文学賞の一つ、全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞しました▼柳さんが本紙文化面に連載エッセー「南相馬 柳美里が出会う」を始めたのは、鎌倉から福島県南相馬市に移住した直後の2015年6月でした。喪失の苦しみのただ中でも、為(な)すべきことを為して生きる被災地の人たちの姿を3年間にわたって伝えてくれました▼そんな人たちと共にある暮らしの中で柳さんは「矛盾をはらむ日々を一つ一つの問題に対処しながら、丹念に生きる貴さを学んだ」と語っていました。作家生活30周年の2016年、出版した小説『ねこのおうち』が南相馬の書店でベストセラーになり、立て看板に「南相馬在住作家の最新作」と書かれた時には、その新しい肩書が誇らしい、と▼そして、この地に人々の交流と創造の場を取り戻すため、本屋と劇場をつくりました。確かな居場所を築いた柳さんの希望の物語はここから始まるのでしょう。


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