2004年1月10日(土)「しんぶん赤旗」
一本のタイヤが母親の命を奪った──二〇〇二年一月十日、横浜市瀬谷区で三菱製大型車の脱落したタイヤによって、歩行中の母子三人が死傷した痛ましい事故から二年になります。(遠藤寿人記者)
神奈川県警は昨年十月、交通事故では異例の三菱自工本社などの強制捜査に踏み切りました。ユーザー側の「整備不良」が原因か、メーカー側の設計・製造上のミスによる構造的欠陥かをめぐり捜査は大詰めを迎えています。
本件では、亡くなった岡本紫穂さんの母親が昨年三月、三菱と国、運転手に五百五十万円の損害賠償を求めて提訴しています。交通事故の損害賠償で自動車メーカーの製造物責任、国の指導監督責任を問うものとして注目されています。
タイヤ脱落は車輪と車軸をつなぐ部品「ハブ」の破損で起きます。三菱製大型車の「ハブ」破損は一九九二年から五十六件、うちタイヤ脱落は五十件ありました。
同社は事故原因について、ハブボルトの締め付けすぎなどユーザーが適切な整備・点検をしないことから「ハブ」が異常摩耗し破損すると主張。製造・設計上の欠陥を認めずリコール(回収・無償交換)の届け出はしていません。
その一方で二〇〇二年二月、大型車十二万四千台を対象に、リコール措置にも匹敵する「ハブ」の無償点検・交換措置を実施しました。
国土交通省もみずから調査はしないまま「整備不良」との三菱側の主張を追認してきました。
「ハブ」破損を起こした車が一九九三年─九六年製に四十三件(78%)が集中していることや「ハブ」の強度を補強する設計変更を三、四年に一度の割合で繰り返していたことも明らかになっています。
「ハブ」破損によるタイヤの脱落事故は他のメーカーの大型車では起きていないといわれており構造的欠陥の疑いが深まっています。
岡本紫穂さんの母親側の青木勝治弁護士 三菱は、同型・同種車両でタイヤ脱落事故が多発しているにもかかわらずユーザーへの警告を怠り、リコールもせず放置してきた。県警が捜査中だが設計ミスの疑いが強い。今回の事故は過失に基づく交通事故の損害賠償請求にとどまらず、再発防止の観点から自動車メーカーの製造物責任を追及する必要がある。アメリカでは、(1)医療過誤(2)製造物責任─に対して懲罰的損害賠償を認めています。欠陥製品を市場に出しながら、利益を得ている三菱に対して制裁的慰謝料を新たに請求するつもりです。