日本共産党

2003年12月6日(土)「しんぶん赤旗」

「犠牲覚悟」と陸自元幹部

戦後初めて─イラクへ

危険な“戦場派兵”

9日にも閣議決定


 政府は、九日にも基本計画の閣議決定を狙うイラクへの自衛隊派兵について、専門調査団の報告などで安全性を強調しようと躍起です。しかしイラクの現状をみれば、「戦闘地域には送らない」というイラク特措法の建前からも逸脱し、戦後初めての“戦場派兵”になることは避けられません。

候補地で銃撃が

 「多くの犠牲を覚悟しなければならない。自分の部下や後輩たちが行くことになるかと思うと、複雑な思いがある」

 イラクでの日本人外交官殺害事件を受け、陸上自衛隊の元幹部は、心境をこう明かします。

 陸自部隊の派兵が検討されているサマワについて、政府の専門調査団の調査概要は「治安は安定」「夜でも安心して町を歩ける」などと安全性を強調しています。

 しかし、実際には、サマワでも、十月初めに占領軍の車列が銃撃を受けたのをはじめ、爆弾攻撃を計画していた男が拘束(十一月上旬)されるなどの事件が報じられています。専門調査団の調査概要は、これらのことに全く触れていないどころか、「これまで事件もなく」としています。

 しかも、日本の中東専門家は「米英軍などを攻撃する勢力には、占領に不満を持つイラク市民や、近隣諸国から流入したイスラム原理主義勢力もある。外国から流入した勢力は、お互いに連絡をとり合い、イラク国内ならどこへでも移動し攻撃する危険がある」と指摘します。

 「非戦闘地域」など、イラクのどこにもないのです。

 そのため、専門調査団の調査概要は安全性を強調しながらも、イラク南東部の治安情勢全般については「襲撃等の可能性」を指摘せざるを得ないのです。

攻撃想定し訓練

 政府は、バグダッド国際空港などを使い、航空自衛隊のC130輸送機による米英占領軍などへの空輸支援も検討しています。

 しかし同空港では、米軍のC130輸送機や米軍ヘリコプター、民間機が相次いで地対空ミサイルによる攻撃を受けており、「戦闘地域」そのものです。(別表)

 空輸支援の拠点とされているクウェートの治安についても、専門調査団の調査概要は「基本的に良好」としつつ、「テロリストの攻撃等に注意」「密輸された地対空ミサイルは航空機の脅威となり得る」と明記しています。

 空自はすでに、C130輸送機をミサイルを回避しやすい空色に塗り替えました。防衛庁は「毎年行っている訓練」としていますが、九月に続き十一月以降、ミサイル攻撃を避けやすくするため、らせん状に降下して着陸する訓練を硫黄島で行っています。こうした訓練自体が、実際には「戦闘地域」への派兵にほかならないことを浮き彫りにするものです。

 専門調査団の調査概要は、サマワには「(自衛隊)歓迎の横断幕が出ている」とし、現地のニーズとして、病院施設の修理や、水道インフラの未整備による給水などを強調しています。

対米優先で派兵

 しかし、前出の陸上自衛隊元幹部は「陸自では簡易の野戦病院はつくれるが、鉄筋コンクリートの病院を修理する訓練はやっていないはずだ。水道インフラについても、浄水はできるが、水道管を敷設する工事の訓練はやっていない」と指摘。自衛隊では現地の期待には十分応えられない実情も浮かび上がっています。

 イラク復興のためには、テロと暴力の土壌になっている米英軍主導の不法な占領支配から、国連中心の枠組みによる人道復興支援に切り替え、一刻も早くイラク国民に主権を返還することが必要です。

 その努力はいっさいしないで、憲法を踏みにじり、イラク特措法にも反し、現地のニーズともギャップのある自衛隊派兵に固執する政府─。ここにあるのは、「派兵先にありき」という卑屈な対米追従姿勢だけです。派兵計画は今からでも中止すべきです。(田中一郎記者)


バグダッド国際空港での主な攻撃

 7月16日 空港に着陸しようとした米軍C130輸送機が地対空ミサイルの攻撃を受ける

 9月6日 離陸直後の米軍C141輸送機が、ミサイル攻撃を受ける

 11月2日 空港に向かっていた米軍大型ヘリコプターがバグダッド西方でミサイル攻撃を受け、撃墜

 11月22日 国際宅配便の民間貨物機がミサイルに被弾し、空港に緊急着陸


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