日本共産党

2003年12月5日(金)「しんぶん赤旗」

元閣僚らによる ジュネーブ合意

中東和平に新提案

双方から歓迎

イスラエル・パレスチナ共存めざす

シャロン首相やハマスなどは反対


 スイス政府の仲介のもと、パレスチナとイスラエル双方の元閣僚、文化・知識人などによって一日調印された和平提案、いわゆる「ジュネーブ合意」について、双方の国民の間で平和共存に向けて新たな可能性を開くものとして歓迎する声が高まっています。他方、試みとしては評価しながらも、合意の一部に賛成できないとする声も存在し、実際の和平実現にとって曲折も予想されます。 (テルアビブで小泉大介)


 「ジュネーブ合意」に至る協議が始まったのは約二年前。二〇〇〇年九月末に今も続くイスラエル・パレスチナ紛争がぼっ発し、双方の犠牲者が増加の一途をたどる中のことでした。

 三年以上にわたるイスラエル軍の大規模軍事攻撃と多発するパレスチナ過激派組織の自爆テロにより、双方の死者はパレスチナ側二千二百人以上、イスラエル側八百人以上にのぼっています。とくにパレスチナ側は、封鎖下の経済的困難に加え、「過激派対策」を口実にした分離壁建設で人間の尊厳さえ奪われようとしています。

悲惨な実態を放置できない

 「合意づくりを急いだのは、イスラエル軍の軍事攻撃と自治区封鎖によって、パレスチナ人の生活がかつてなかったほど悲惨を極めたからです。これ以上この状況を放置できないとの思いが土台にありました」

 合意の動機について、パレスチナ解放機構(PLO)元執行委員で今回の協議に参加したナイム・アルアシャブ氏はこう語ります。

 アルアシャブ氏は「難民帰還問題など、まだ議論を尽くさなければならない問題もあります。しかし合意は、これまでの和平イニシアチブのなかで最も真剣なものであり、双方に育ちつつある新たな文化を代表しています」と強調しました。

 パレスチナ自治政府のアラファト議長も合意支持を表明しました。

イスラエルで賛成が増える

 合意は、イスラエル側にとっても重要な意味を持っています。クネセト(イスラエル国会)議員で野党会派「平和と平等のための民主戦線」所属のイサム・マクホウル氏はこう指摘します。

 「イスラエル国内の和平推進勢力はいま大きな困難に直面し、かつてのような大規模な平和集会も影を潜めてしまいました。合意には、イスラエルに有利な面もまだあります。しかし、イスラエルの和平勢力を再び活性化し、問題の公正な解決をめざすうえで、新たな可能性を秘めています」

 イスラエル国内の世論調査によると、十月時点で賛成25%、反対54%だったものが、最新調査では、賛成31%、反対38%と差がかなり縮まってきました(イスラエル紙ハーレツ一日付)。

帰還権めぐり反発が根強く

 一方で合意に、さまざまな異論が投げかけられています。

 和平に消極的な右派政党リクード率いるイスラエル政府のシャロン首相は十一月二十七日の記者会見で、「政府だけが中東問題の政治的解決に向けた交渉をおこなうことができる。合意はイスラエルに損害を与えるもので誤りだ」と全面否定。

 パレスチナ側では、合意が、帰還できるパレスチナ難民の数をイスラエルが決めるとして帰還権を明確に保障していないことに対する反発が根強くあります。ハマスなどイスラエルの存在を認めない勢力は合意に反対しています。

 東エルサレム近郊のアルクッズ大学のナジェ・ベケラト教授は「四百万人以上といわれるパレスチナ難民にとって、帰還権の実現は最も重要です。自らの故郷をエルサレムのイスラム教聖地より大事だと考えているのです。解決を急ぐあまり、この問題で妥協するのは危険です」と話しました。

 とりわけガザ地区では、住民の八割以上が難民登録しており、多くが、現イスラエル領の故郷に戻りたいとの願いを表明しています。

 そんな声も反映してか、合意をまとめたイスラエル側代表のヨシ・ベイリン元法相は一日のイスラエル軍放送で、「われわれはこのイニシアチブを聖書のように絶対的なものとは考えていない。和平合意は可能だということを示したかったのだ」とのべました。これら関係者が語るように、合意を土台にしたイスラエル・パレスチナ双方の国民レベルの対話と共同の輪が大きく広がるなら、政府を動かし、危機打開に向けた確かな力となるでしょう。


ジュネーブ合意おもな内容

地図

 基本理念 イスラエルとパレスチナ双方は相互の国家を認め、対立と紛争の歴史に終止符を打ち、歴史的和解を達成し、平和的に共存する。

 パレスチナ国家の領土とユダヤ人入植地 パレスチナ国家の領土はガザ地区のすべてとヨルダン川西岸のほぼすべてとする。イスラエルは西岸の一部の入植地を領土に組み込むが、それと同面積のイスラエル領をパレスチナ側に譲渡する。

 安全保障 イスラエル撤退地域は非武装化され、多国籍軍が置かれる。撤退の期限は原則三十カ月。パレスチナ、イスラエル双方がテロに対してたたかう。

 エルサレムの地位と帰属(地図参照) エルサレムをイスラエル、パレスチナ両国家の首都とする。旧市街のイスラム教徒、キリスト教徒、アルメニア人居住区はパレスチナの主権下、ユダヤ人居住区はイスラエルの主権下に置かれる。共同で水、交通、経済、警察などを管理する委員会を設置する。

 旧市街のイスラム教聖地ハラム・アッシャリーフ(神殿の丘)はパレスチナの主権下に置かれ、多国籍軍が配置される。ユダヤ教聖地「嘆きの壁」の主権はイスラエル。

 パレスチナ難民 国際委員会は難民にパレスチナ国家、イスラエルへの帰還か、現在居住する国を含む第三国での居住かの選択肢を提供する。イスラエルは帰還者の数を決定する権利をもつ。難民は二年間にいずれかを選択する。

 パレスチナ人捕虜の解放 九四年以前の拘束者、女性、子ども、病人は、合意の履行とともに解放される。九四年以後の拘束者は遅くとも十八カ月後に解放され、残りの者(攻撃に加わった組織のメンバーなど)は遅くとも三十カ月後に解放される。

 合意監視国際組織の設置 合意の履行を管理する国際グループが米国、ロシア、欧州連合(EU)、国連の参加でつくられる。多国籍軍はこの管理下に置かれる。


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