日本共産党

2003年12月3日(水)「しんぶん赤旗」

パレスチナ人の生活脅かす

分離壁

建設続けるイスラエル政府


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アブディスの仮設分離壁を越えるパレスチナ人女性

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 イスラエルがヨルダン川西岸に建設中の分離壁が、苦難を強いられてきたパレスチナ人の生活を今、根底から脅かしています。東エルサレムに隣接するアブディス村につくられた壁の現場に立ち、パレスチナ人の怒りを実感しました。(エルサレムで小泉大介 写真も)

移動、仕事の自由なし

 「移動の自由もない、働く自由もない。これでも人間の生活といえるっていうの!」

 壁を乗り越えるパレスチナ人の列の中で女性が突然叫びました。

 「テロリストの侵入阻止」を理由につくられた壁は、それまでイスラエルの身分証明証を持って日常的にエルサレムと行き来してきた住民の生活を一変させました。

 アブディスとその周辺地域から東エルサレムの学校に通っている子どもたちは毎日、壁を乗り越えなければなりません。エルサレムに職場を持つおとなも同様です。そんな一人、事務職員のサミアさん(52)は怒り心頭でいいます。

 「私の場合、壁の建設と同じ時期に身分証明証の期限が切れました。イスラエル政府は理由もいわずに更新を拒否し、いまは『非合法』で働かざるをえません。壁の建設にあわせ、イスラエル政府はパレスチナ人の締め出しに本気で乗り出しているとしか思えません」

 アブディス地域の現在の壁は仮設のもの。イスラエル政府の計画では今後、高さ数メートルの本格的なものにとって代えられます。現在、壁が完成しているのは約百八十キロですが、計画の総延長は西岸全体におよび、計六百八十七キロにも達します。

 国連のアナン事務総長が壁の建設を国連総会決議に違反するとした報告書(十一月二十八日発表)によると、壁が完成すれば、東エルサレムを除くヨルダン川西岸の16・6%がイスラエル側に組み込まれることになります。

 一九六七年の第三次中東戦争でイスラエルに占領されその後併合された東エルサレムには、現在、二十万人以上のパレスチナ人がイスラエル政府から身分証明証を得て暮らしています。パレスチナ側は東エルサレムを将来の独立国家の首都とすることを主張しています。分離壁の建設は国家樹立の願いをさらに遠のかせるものです。

遠のく病院 命取りに

 この八月にエルサレム近郊で工事が本格化した分離壁は、アブディスとその北のアザリア、南のサワヒラ村を囲むようにして東エルサレムと分断してしまいました。

 パレスチナ人の男性や子どもは高さ約二メートルの壁を乗り越え、女性や老人は踏み台を使い、壁の上部にあるすき間からやっとのことで壁を抜けています。若い夫婦は毛布にくるんだ乳飲み子を手渡しで壁越えさせています。

 「壁を乗り越えようとしてけがをする子どもも後を絶ちません。先日は頭から落ちて大けがをした子どもがいたと聞きました。私たちはユダヤ人たちと平和に暮らしたいと願っているのに、なぜイスラエル政府は溝をつくることばかりするのでしょうか」

 八カ月の子どもを抱えながら壁のすき間を越えたシャルークさん(26)。つづけてこういいます。

 「子どもの将来がとても心配です。この子が急に病気になったときにも、壁の抜け道を探してこんな回り道をしなければならないのかと思うと…」

 住民にとっての最大の懸念は医療です。東エルサレムのマカセド総合病院のカレド・クレイ院長によると、合計で約八万の人口を持つアブディスと両隣の村には病院もデイケア施設もなく、ほとんどの住民が同病院を頼りにしています。クレイ院長はいいました。

 「私自身もアブディスに住んでいますが、以前なら病院まで車で五分ほどでした。しかし今は二十キロも遠回りをしなければなりません。医療では数分の遅れが命取りとなることもあり、医者にとってはいたたまれない思いです。パレスチナ人の生活は、健康、教育、経済のいずれも、破局に向かっているといって過言ではありません」

 当初はグリーンライン(一九六七年の第三次中東戦争の休戦ライン)に沿って建設されるはずだった壁は、ラインの東側に点在する大規模ユダヤ人入植地がイスラエルから「分離される」との入植者たちの懸念への配慮から、西岸深くに入り込んで建設されました。ラインと一致する壁の距離は11%にすぎません。

 ラインと壁の間に住む人は二十七万四千人に及ぶことになります。学校にいくのに壁を越えなければならないだけでなく、イスラエル政府の厳しい審査が課せられ、事実上、壁の東側に移住せざるを得ない住民が多数生まれることが予想されます。

 壁の建設で壁の西側にある自分の農場などへの移動が制限され、事実上、財産が没収される事態も起きています。

 エルサレムとの間に金網の壁が建設されたベツレヘムに住むジャマル・ブロスさん(47)は今まで壁の向こう側で約四ヘクタールの畑を耕し三百本のオリーブの木を育て生活してきました。「壁がつくられて畑にいけなくなった。今はお客の乗らないタクシーの運転手をするしかない。蓄えが尽きたらどうやって生活すればいいのか…」と途方に暮れています。

国際社会が厳しく非難

 国連人道問題調整事務所(OCHA)報告は壁の東西で合わせて六十八万人、ヨルダン川西岸のパレスチナ人口の三割が影響を受けると指摘し、「壁の建設によって生ずる土地と財産の損害は取り返しがつかないものだ」と厳しく非難しています。

 東エルサレムの社会・人権センターのジアド・ハモウリ所長は壁の建設強行には過激派対策という口実とは別の目的も見え隠れすると、次のように指摘します。

 「アブディスなど郊外に住むパレスチナ人のなかには、イスラエルによってエルサレムの家をつぶされやむなく移住した者も少なくない。壁はこれら虐げられた人たちの息の根を止め、さらに将来のパレスチナ国家の境界を一方的に決めてしまうものだ。これは決して許されない」

 イスラエルの人権組織「ビツェレム」のジェシカ・モンテル代表も「入植地建設がそうであるように、壁はイスラエル政府のパレスチナ領土併合要求を支えるものです。それは、パレスチナ人の民族自決権に基づく国家建設に向けた、あらゆる問題の政治的解決の道を閉ざしてしまいます」と強調します。そして、壁の建設に反対し、撤去を求める強力な世論の必要性を訴えています。


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