日本共産党

2003年11月30日(日)「しんぶん赤旗」

イスタンブール

テロの現場を訪ねて

テロへの怒りと米英批判が次々


 トルコのイスタンブールで十五日のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)に続いて二十日に英国総領事館と英国系HSBC銀行が襲われ、合計約七百人が負傷し、二十四日までに五十四人が死亡しました。その現場を訪ねました。(イスタンブールで小玉純一 写真も)


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 「みんな自由に生きていけるはずだったのに」。総領事館に近いビルの管理人ギェンギス・ケトラさん(55)が周辺の被害状況を屋上から見せてくれました。

 領事館から二百メートル以上離れた高層ビルも含めて視界が届くビルには窓ガラスがほとんどありません。

 屋上まで損傷しているビルもあり爆弾の破壊力を見せつけています。

 総領事館は人口一千万余のイスタンブールきっての繁華街にあります。

 ギェンギスさんは言葉少なげでした。「死んだ人に罪はない。テロを拒否しなきゃいけない」

 英国系施設テロの翌日と翌々日、イスタンブールや首都アンカラなどでテロ反対のデモ行進がありました。

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英総領事館(左端の白いビル)から手前の建物の被害状況を話すギェンギス・ケトラさん=24日、イスタンブール

 呼びかけ人の一人・フリージャーナリストのアイドゥン・エンギン氏はいいます。「医者やエンジニア、建築家、ジャーナリスト、労働者、学生・・・・。予想以上に集まった。イスタンブールでは約四千人。みんなテロへの怒りは強い」

 チェチェンなどの紛争地取材も多い同氏は「私たちは、米国がやっているようなイラク人への攻撃や抑圧にも反対だ。このテロがテロを生んでいる。イスラエル人を殺すパレスチナ人のテロにも反対だ。テロ反対での二重基準は認めない」と強調します。

 「テロリストを次々殺しても止まらない」と米英のやり方を批判。「テロは貧困や不正義からも生まれていく」と指摘します。

分け隔てなく優しい妹が…

暴力への怒りと米英批判

「意識戻らない」

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妹のフリヤさんを案ずるサワシュ・ドンマズさん=24日、イスタンブールのタキシム・イケアルディン病院

 総領事、俳優、学生、レストラン経営者、警察官:。英国系施設へのテロは英国人、トルコ人双方の人生を奪いました。

 トルコ人女性フリヤ・ドンマズさん(27)は英国ビザ取得のため、総領事館に出向いたところをテロに襲われました。恋人の英国人グラハム・カーター氏と一緒でした。フリヤさんは脳死状態。肺を機械で動かしています。「意識は決して戻らない」と担当医は説明します。

 「妹とグラハムには結婚の話もあった」。フリヤさんの兄サワシュさん(27)が妹の横たわる病院で話します。「二人は前日までイスタンブールなどを観光していた」

 カーター氏は顔面全体をやけどし、目を開けることができません。「彼は妹が植物人間なのをまだ知らされていない。妹を見つけてくれとなんども『フリヤ、フリヤ』と名前を呼んで泣いていた」

 今回の連続テロではアルカイダと連携しているといわれる過激派組織が犯行声明を出しています。イスラム教徒のサワシュさんが続けます。「やつらはイスラム教徒じゃない。どんな宗教も人を殺すのを許さないはず」

 サワシュさんが最後にいいました。「妹はだれに対しても分け隔てなく接する優しい人でした」

損失は英が払え

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「われわれはテロにひりまない」。英総領事館に通じる路地に掲げられた横断幕

 英国系施設へのテロ。標的の一つは明らかに英国です。しかも訪英したブッシュ大統領とブレア英首相との会談にあわせたタイミングでした。両首脳はテロとたたかう姿勢を会見で示しました。しかしトルコ語紙ハリヤットに批評家のセダット・エルギン氏が問うています。「このテロは米国や英国が生み出しているテロではないのか」と。

 付近の小さなモスクのアジズ・アルトゥン司祭(40)は「世界には不正義がある。イスラエルのパレスチナ占領やイラク戦争とイラク人への抑圧。テロリストはこれらをテロの理由にしたいのだ」といいます。

 英総領事館に通ずる商店街のガラスも軒並み吹き飛ばされ原形をとどめない商店もあります。ちまたでは「もしイラク戦争がなければ今度のテロもなかった」といわれています。これに反対する声は聞かれませんでした。

 食料品店を営むシュレイマ・ナズムさん(40)は「店の修理、商品の損失は英国政府に払ってほしい。英国はテロを呼んだのだから」といいます。

“ひるまない”

 トルコ政府はイラク派兵を試みましたがイラク人の反対もあり、やめました。それでも次々と爆弾テロに見舞われました。背景議論はさまざまです。米軍基地も抱える北大西洋条約機構(NATO)加盟国。アフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)に派遣する有力な国。アルカイダが接近する過激派の存在:。

 「いや、トルコは特殊でない。世界中でテロリストが暗躍している」との議論もあります。米軍がイラク戦争を準備して以降、イラク、イスラエル以外でもインドネシアのバリ島やジャカルタ、サウジアラビアのリヤド、モロッコと多発しています。

 トルコ政府はイラク戦争前、フセイン元大統領に妥協を促すことも含めて戦争を回避しようとしました。当時トルコ首相は「戦争はパンドラの箱を開ける」と警告していました。

 英国施設テロの五日後、英総領事館に通じる路地に横断幕が掲げられました。「われわれはテロにひるまない。商店一同」

 五日ぶりに新装開店したレストラン・マネージャーのムザファル・カルタさんは「日本人より熱心に働くよ」と笑って語りました。


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