日本共産党

2003年11月22日(土)「しんぶん赤旗」

ハンセン病元患者宿泊拒否のホテル

告発は当然


 「元患者たちが命がけで勝ち取った成果を踏みにじるものだ。どんな理由をつけようとも許されない」─ハンセン病元患者の宿泊を拒否したホテルに抗議が広がっています。また、元患者の間からは「熊本地裁判決が出るはるか前に逆戻りした」と差別と偏見を取り除く責任を負う国にたいしてもその怠慢に怒りが沸き起こっています。

国はなくす努力せよ

 板井優ハンセン病西日本訴訟弁護団事務局長の話 ハンセン病元患者が社会の中で、平穏に生きていけるようにするためにも、今回の告発は当然であり、ぜひ、こうした事例が繰り返されないようにすべきだ。もともと、こうした偏見・差別は、判決後の退所者、入所歴のない人々に対する態度も含め、国が引き起こしたものなので、国が、これを完全になくすために努力するのは当然だ。

全国の人と支援続ける

 ハンセン病国賠訴訟を支援する会・熊本の北岡秀郎事務局長(60)の話 ホテルが悪いのは当然だが、伝染力も弱いのに、恐ろしい伝染病と宣伝し強制隔離政策を長年続け、国民に恐怖心を植え付けてきた国の責任は重大だ。

 国の責任を断罪した判決で、元患者は本当の意味での人間回復への道を歩き始めている。

 しかし、国は、判決を真摯(しんし)に受け止めたとはいいがたい。

 国にも真の反省を迫るとともに、元患者たちが本当に胸をはって生きていけるように、全国の人々とも手を取り合ってさらに支援を続けたい。


ホテルを除名へ 旅館組合が訪問し説明

 ハンセン病元患者の宿泊拒否問題で、「アイレディース宮殿黒川温泉ホテル」など二十五軒の旅館などで構成する黒川温泉観光旅館協同組合の小林茂喜組合長(51)らは二十一日午後、宿泊を拒否された元患者らが入所する国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」(同県合志町)を訪れました。

 小林組合長は「(ホテル側に宿泊を受け入れるよう)再三説得したが、受け入れてもらえなかった」と謝罪、十二月二日の総会で同ホテルを組合から除名する方針を説明しました。

 元患者側は「黒川温泉に傷を付けたとしたら、本意ではない」と応じ、ホテル側との早期の和解に努める意向を示しました。


差別と偏見の除去、国に重大責任

 二〇〇一年五月、熊本地裁判決は国の強制隔離政策を憲法違反の人権侵害だと断罪しました。

 ハンセン病患者・元患者は、九十年におよぶ国の政策のもとで強制隔離、強制労働、断種、堕胎、差別・偏見による家族や社会、故郷との断絶など、苦難の道を歩かされてきました。

 違憲判決を勝ち取った原告たちは、国の誤りを認めるように命がけで訴え続けました。熊本地裁判決に服しようとしない自民・公明政府は世論の憤激にさらされ、控訴断念へと追い込まれたのです。

 そのとき小泉首相は「(ハンセン病患者に)極めて厳しい偏見、差別が存在したことを深刻に受けとめ、患者・元患者が強いられた苦痛と苦難にたいし、政府として深く反省し、率直におわびもうしあげる」と述べ、公明党の坂口力厚労相も「幾多の許されない歴史を反省し、心からおわびしハンセン病問題のすべてに決着」をつけると約束しました。

 しかし、判決から二年を過ぎ、国は謝罪広告を二回、一般紙などに掲載したものの、真摯(しんし)な反省にたった施策はとられませんでした。今回の事件の背景には、国が広く社会に残っているハンセン病患者への差別と偏見を取り除き、元患者らの「人間回復」を果たす責任を果たしてこなかったことがあります。自民・公明政府の姿勢を典型的に示しているのが、差別をとりのぞく啓発活動に見られます。中学生を対象にした啓発のパンフはつくったものの、社会全体向けの冊子はわずか三千部作ったにすぎません。

 その冊子も間違った記述が多く、原告団・弁護団の厳しい指摘を受けて大幅に修正を加えたうえで完成したもの。三千部の配布について全国ハンセン病療養所入所者協議会に「買い取ってほしい」と求める状況です。

 同協議会の平野昭執行委員は「強制隔離された元患者を生まれ育った故郷に帰すことが人間回復をする道なのに、判決から二年、社会復帰できたのはわずかに二百人。そこには差別と偏見が強く、それを乗り越えて社会で暮らすための国の支援の不十分さを象徴している」と警告します。

 こうした国の消極的な対応は地方自治体にも反映。兵庫県は、県が作製し、配布したハンセン病にかんするリーフレットには、差別・偏見の原因を、病気や病気にかかった患者や元患者に帰する内容となっていたために、今年二月に兵庫県弁護士会から回収と人権救済措置を求められました。

 偏見・差別をなくすための国の啓発普及事業費は来年度概算要求ではわずか九千八百七十六万円。ここには啓発活動を積極的にすすめようという姿勢がみられません。これでは、差別をなくしていくのはむずかしいでしょう。ホテルの宿泊拒否にみられるように差別の根は深く、ハンセン病問題の解決は終わっていません。療養所の劣悪な医療・介護体制の改善、社会復帰・社会生活支援、再発防止のための真相究明・検証など国の責任で取り組まなければならない課題は山積しています。

 今回の事件を教訓にして、国には判決の原点に立った真摯な取り組みが求められています。(菅野尚夫記者)


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