2003年11月1日(土)「しんぶん赤旗」
日本のメディアや野党の中に、「小選挙区制」「二大政党制」など、英国の選挙を模範とする傾向がありますが、英国ではむしろ逆で、小選挙区制のもとで国民の意思が国政に反映しないなど、矛盾が強まり、「二大政党」制への批判が高まっています。健全な民主主義を目指し、小選挙区制を廃止して比例代表制度の導入をすすめる運動をしている「選挙制度改革協会」のケン・リッチー事務局長に英国の実情を聞きました。(ロンドンで西尾正哉 写真も)
日本の野党第一党の民主党が比例代表の八十議席の削減を提案しているそうですが、どうして野党がそのような提案をするのでしょうか。より小さい野党を排除するためでしょうか。私たちは一定の支持を得る政党があるならそれに見合った議席を得るべきだと常に主張してきました。
日本が、英国の二大政党制を目指しているのなら、絶対にそうすべきでないと断言します。この制度は英国の政治を本当に悪くしてきました。日本の有権者には、選挙制度の改悪に反対するように勧めます。選挙制度は国民の声を反映する最善の方法でおこなわれるべきで、政治家ではなく選挙民によって策定されるべきです。
労働党は、一九九七年に政権を奪還した際、憲法上の制度的変更を約束しました。労働党政権が設置した選挙制度にかんする独立委員会は九八年、小選挙区制にかわる選挙制度を提言しました。
同党の制度的変更の約束の一つがスコットランドとウェールズの各地方議会の創設でした。この約束は実行され、両議会は比例代表制度を含む選挙制度で選出されました。五月の選挙ではスコットランドでは、緑の党などの小さな野党も議席を得ました。
スコットランドでは次回の地方選から比例代表の一種の「中選挙区・票移動式」(SVT)(注)に変わる見込みです。SVTは北アイルランド地方議会ではすでに導入され、ウェールズでも独立委員会が導入を提言してます。
イングランドでも導入され国中に広がる可能性があります。このように英国では比例代表の選挙制度を求める声が次第に大きくなっています。もちろん国政選挙でも導入の声が高まるでしょう。
小選挙区制が変更される背景としては、第一に国民が「公正さ」を求めていることです。現在は、非常に多くの人が、自分の投票が選挙の結果に影響を及ぼさず重要視されていないと感じています。国政選挙でイングランド南東部では多くの人が労働党に投票しますが、同党の国会議員は一人も選ばれていません。一方スコットランドでは保守党が20%近くの票を得ますが同じ状況です。これは「選挙の砂漠地帯」とも呼ばれています。
第二に、小選挙区制によってもたらされる政治の内容です。総選挙の投票率は最近では極めて低くなっています。これまで70%以上ありましたが二〇〇一年は60%以下に落ち込みました。多くの人が、政治には関心があるけれども、二大政党によっては解決策が示されないと感じているといえます。
私たちは、二大政党からの「離脱」とみています。自分の投票が意味を持つ投票制度へと改革されるなら、政治も変わっていくと思います。
二大政党制は、国民にとってはもちろん政権与党の労働党にとってすら良い制度ではありません。国政選挙で議席が労働党から保守党へ、またはその反対へと変わるのは少数で、10%ほどの選挙区にすぎません。これらの選挙区内で保守党から労働党、またはその反対へと変える有権者は10%ほどです。
そのため各党の選挙運動は、10%の選挙区のうちの10%の選挙民に的を絞ったものになりがちで、結局は全体の有権者の1%の奪い合いになるわけです。労働党の選挙アピールがこの1%をターゲットにすれば、マニフェストはこの1%向けになってしまいます。
二大政党制ではなく、少数の野党も共存するような政治体制の方が民主主義にとってきわめて健康的です。欧州では大半が比例代表制を導入しています。東欧でも比例代表制を目指しています。
英国の影響の強かったインドやバングラデシュ、アフリカ諸国では最初、英国と同じ小選挙区制が採られました。しかし、より多くの国、特にインドなどでは、この制度は有効でないと考えられるようになっています。同じく英国の影響のあるオーストラリアやニュージーランドでも徐々にですが変わってきています。
(注)「中選挙区・票移動式」(SVT)
単記委譲式とも訳されます。選挙区定数は五前後で、有権者は投票に当たって候補者に順位を付け、その順位に従って票を移動し基準票数に達した候補から当選とする方式。