2003年11月1日(土)「しんぶん赤旗」
各地の演説で郵政民営化の推進を訴える小泉純一郎首相は「郵便局をなくせなんて私は一言もいってない。国鉄も民間にまかせてJRになった、それで鉄道がなくなったでしょうか」(二十八日、東京・町田市)と、旧国鉄の民営化を引き合いに出しています。しかし、国鉄の分割・民営化にあたって、多数のローカル線が廃止され、“鉄道がなくなった”というのが事実です。
国土交通省のまとめによれば、旧国鉄がJRになった一九八七年を前後して、全国で四十五のローカル線が、赤字を理由に廃止されました。(別表)
距離にして千八百五十キロ。本州を青森県八戸─山口県門司(千七百五十五・八キロ)と縦断する以上の長さです。
地方線が“生活の足”としてどれだけ重要な役割を果たしていようとも、採算性がないということでバッサリ廃止したのが国鉄の民営化でした。
同時期に、廃止にはならなかったものの、地方の鉄道会社や第三セクターなどに営業を転換したのは三十八線(千三百十キロ)。そのうち、弘南鉄道黒石線の黒石─川部(六・二キロ)、のと鉄道輪島線の穴水─大畑(二十・四キロ)、下北交通大畑線の下北─大畑(十八キロ)の三線はその後、経営悪化を理由に廃線になりました。このほかにも現在、経営不振から各地の地方線の存廃が検討されています。
政府は当時、分割・民営化しても“ローカル線は守られる”とさかんに宣伝していましたが、事実はまったく逆でした。
JRになってからも、乗客が減って採算性がないと、住民の意向に反した地方路線の切り捨てがおこなわれてきました。
JR北海道函館線の砂川─上砂川(七・三キロ)をはじめ、同深名線の深川─名寄(百二十一・八キロ)、JR西日本美祢線の南大嶺─大嶺(二・八キロ)が相次いで路線廃止になりました。
この十一月には、JR西日本可部線の可部─三段峡(四十六・二キロ)が廃線になります。通勤・通学、病院利用などに使われる同路線の廃止には、秋葉忠利・広島市長を含む沿線の五市町村長が反対するなど、自治体あげて「存続を」の声が広がりました。それにもかかわらず、JRは廃止を断行しました。
こうした流れに拍車をかけるように国会では二〇〇二年六月、与党三党と民主党、自由党の賛成で、路線廃止を促進する鉄道事業法が改悪されました。
地元自治体の同意がなくても、事業者の判断で自由に廃止できるようになりました。「鉄道はどうなるのか」と地方線の利用者の不安はいっそう大きくなっています。
小泉首相が「民間にまかせてサービスが悪くなるのはとんでもない誤解。鉄道はなくなったか」などというのは、こうした現実をまったく見ていない証しです。
国鉄の分割・民営化は、赤字を国民に押し付けて、民間にもうけ口を提供するためにおこなわれたものでした。その後のJRが、利益第一で安全やサービスを後回しにしていることは、JR中央線の配線ミスや“開かずの踏切”問題など相次ぐトラブルでも明らかです。
郵政民営化も、大手銀行や生命保険会社に新たなもうけ口を提供するもので、地方の郵便サービスや庶民の郵貯、簡保が危機にさらされることは目に見えています。
▼北海道(1316.4キロ)…相生線、岩内線、興浜南線、興浜北線、渚滑線、白糠線、万字線、美幸線、胆振線、歌志内線、士幌線、瀬棚線、富内線、羽幌線、広尾線、幌内線、松前線、湧網線、天北線、標津線、名寄線▼福島県(11.6キロ)…日中線▼新潟県(31.5キロ)…赤谷線、魚沼線▼静岡県(8.3キロ)…清水港線▼兵庫県(21.2キロ)…高砂線、鍛冶屋線▼鳥取県(20キロ)…倉吉線▼島根県(7.5キロ)…大社線▼徳島県(1.9キロ)…小松島線▼福岡県(99.3キロ)…香月線、勝田線、添田線、室木線、矢部線、漆生線、上山田線、宮田線▼佐賀県(24.1キロ)…佐賀線▼大分県(26.6キロ)…宮原線▼熊本県(55.7キロ)…山野線▼宮崎県(57.9キロ)…妻線、志布志線▼鹿児島県(164.4キロ)…大隅線、宮之城線