2003年9月14日(日)「しんぶん赤旗」
首都圏は世界有数の人口過密地帯です。ここに世界唯一の米空母の海外母港(横須賀基地)や、二つの巨大航空基地(横田基地、厚木基地)など、大規模な米軍基地が存在しています。日本が「国土や軍事などの重要な部分をアメリカに握られた事実上の従属国となっている」(日本共産党綱領改定案)ことを象徴するものです。(竹下岳記者)
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首都・東京にある横田基地には在日米軍司令部、在日米空軍(第五空軍)司令部が置かれるとともに、戦域空輸部隊(第三七四空輸中隊)が配備され、米本土とアジアを結ぶハブ(中軸)として機能しています。このため、同基地所属機に加え、他の在日米軍基地の所属機、米本土や韓国からの米軍機、民間チャーター機などが往来。住民は絶え間ない爆音にさらされています。
基地面積は七・一四平方キロメートルで、東京都狛江市(六・三九平方キロメートル)がすっぽり入ります。福生市、立川市、昭島市、武蔵村山市、羽村市、瑞穂町にまたがり、周辺人口は五十万人に達します。
欧州には首都に大規模な米軍基地を受け入れている国はありません。韓国の首都・ソウル中心部にはヨンサン陸軍基地が存在しますが、同基地は米国の基地再編政策に加え、韓国国民のたたかいも反映して、ソウルから撤去される方針です。
神奈川県の米軍基地数は十六で、沖縄県に次ぐ基地県です。横須賀基地(横須賀市)は空母キティホークの母港で、西太平洋からアフリカ東海岸までの広大な地域を作戦範囲にする米第七艦隊の拠点になっています。米本土以外に米空母の母港が置かれているのは、世界で横須賀だけです。巡洋艦や駆逐艦などの空母随伴艦が置かれているのも横須賀だけ。厚木基地(大和市、綾瀬市、海老名市)には空母艦載機部隊が世界で唯一、配備されています。
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キティホークは二〇〇八年までに退役する予定で、その後には原子力空母配備の可能性が高まっています。
キャンプ座間(座間市、相模原市)には在日米陸軍司令部をはじめ、アジア地域での兵たん支援を任務にする第九戦域支援軍が置かれています。同基地を中心に兵たん基地群が存在。横浜港で最良のふ頭を独占している横浜ノースドックには米軍物資のほとんどが陸揚げされ、相模総合補給廠(相模原市)に保管されます。
旧安保条約発効前、日米両政府は「陸、空軍は都市地域外に駐留し、海軍は必要最小限度の港湾地区に集中する」(日米合同予備作業班、一九五二年三月)ことで合意していました。ところが、この合意は葬り去られ、今も米軍基地が居座るばかりか、アジア・中東への出撃拠点として機能強化が進められています。
二〇〇一年の米国防総省のQDR(四年ごとの国防見直し)では、西ヨーロッパと北東アジアの基地について、「世界の他の地域における将来の不測の事態に際して、戦力を投入するハブになるという新しい役割を果たすだろう」とのべています。
在日米軍に関係する課題として、空母戦闘群のプレゼンスの強化、水上艦の追加配備、洋上輸送能力の強化などが挙げられています。すでに横須賀基地のバース(ふ頭)延長工事や、横浜ノースドックへの陸軍舟艇配備などが進行しています。
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眼前に広がる住宅の向こうから、爆音とともに二機編隊のF14戦闘機が飛び出しました。記者の頭上で機体を傾け、大きく旋回した瞬間、雷鳴のような爆音が響きわたり、頭を殴られたような衝撃を受けました。間髪入れず、今度は大型輸送機が鈍い爆音を周囲に響かせます。東京都心から約四十キロ。米空母キティホークの艦載機部隊(第五空母航空団)が所属する厚木基地周辺の日常です。
飛行ルート直下の人口百五十万人という過密地帯に位置する厚木基地での年間飛行回数は三万回前後。騒音の指標となるWECPNL値は国内最悪の水準です(表)。とりわけ、イラク戦争から艦載機部隊が戻った今年五月から七月は、住民にとって悪夢の日々でした。異常な低空飛行、飛行コースからの大幅な逸脱、三−五機の編隊飛行…。四十年間、厚木基地の騒音問題に取り組んできた真屋求・厚木騒音訴訟原告団長も「経験したことのない」という異常さでした。「血にまみれた、狂ったような飛行でした。戦争に勝利した力の誇示そのものです。イラク国民を殺して帰ってきた彼らは、基地周辺の住民など眼中にないのです」
自治体には抗議が殺到しました。「何時だと思っている。空の暴走族は自国に帰ってくれ」「上空を通過するたび九カ月の子どもが泣き出す。妻も疲れきっています」
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艦載機部隊は日常的な訓練に加え、空母出港前に夜間離着陸訓練(NLP)も行います。厚木基地を空母甲板に見たて、深夜までタッチ・アンド・ゴー(着陸した瞬間に離陸すること)を繰り返すのです。イラク戦争前の今年一月もNLPが強行されました。
人口密集地域でのNLPは米本土にない異常な事態です。九八年二月の衆院予算委員会で日本共産党の志位和夫書記局長(当時)は、厚木基地とミラマー海兵隊基地(カリフォルニア州)を比較し、追及しました。それによると、厚木基地周辺の騒音指定区域には三十万人以上が生活しています。ところが、厚木基地の二十倍の広さを持つミラマー基地は、厚木基地の騒音指定区域がすっぽり入ってしまいます。しかも周辺には、わずかな民家が存在するだけです。
厚木基地では加えて、最新鋭の戦闘攻撃機FA18Eスーパーホーネットの配備が近づいています。米海軍は二〇〇七年までに、F14をすべてFA18Eに取り換える方針です。同機はエンジン出力が、従来の艦載機、FA18ホーネットに比べて33%増大し、騒音被害の増大は必至です。
厚木基地を除くすべてのF14中隊が所属するオセアナ海軍基地(バージニア州)では、〇四年からFA18Eへの交代が始まります。
オセアナ基地周辺には四十万人の住民が生活しています。騒音問題が予想されることから、米海軍は国家環境政策法にもとづいて環境影響調査を行ってきました。公聴会も十四回開き、周辺自治体や住民に必要な情報公開を行い、今年八月末まで異議申し立てを受けつけました。その上で米海軍は十日、FA18E中隊を分割配備し、着艦訓練場を遠隔地に建設する、との最終決定を発表しました。
一方、日本ではこれまで、新型機の導入や訓練実施にあたり、米国内で義務づけられている環境影響調査は一切行っていません。また、米軍は周辺自治体や住民に対しても、直前まで情報を公にしないのが実情です。
米軍の利益を再優先する日本政府の姿勢も重大です。石破茂防衛庁長官はNLPについて、「日米安保条約のもとでは日本が盾で米国が矛。空母は浮かんでいるだけではただの鉄の箱で、艦載機があり、パイロットが熟練してこそ抑止力たりうる」(二月十八日、衆院予算委員会)とのべ、“日本の国益”との認識をあからさまに示しました。
また厚木第三次爆音訴訟で政府は、爆音被害への損害賠償だけを認めた横浜地裁判決(〇二年十月)さえ、「安全保障を目的とする高度の公共性に比べ、騒音被害は受忍限度内」などとして控訴しています。