2003年9月5日(金)「しんぶん赤旗」
朝鮮半島を南北に分断する休戦ライン沿いに、南北それぞれ二キロの非武装地帯(DMZ)が設けられています。韓国で「安保観光」と呼ばれる「DMZツアー」は、国民が北朝鮮の目の前まで近づける数少ない機会です。かつて、ツアーは北朝鮮との敵対意識を高めるための「反北朝鮮、反共宣伝」の場でしたが、二〇〇〇年の南北首脳会談を機に、南北和解を印象付けるコースも組み込まれるようになりました。(京畿道坡州市で面川誠)
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ソウルから北西へ約四十キロ。DMZツアー一行は臨津閣を経て民間人統制地域に入り、京畿道坡州市の「第三南侵トンネル」に案内されます。北朝鮮が韓国侵略用に掘ったとされ、一九七八年に韓国軍が発見しました。
「トンネルの壁面をご覧になれば、北側から掘り進んだことは明確です。このトンネルを使って、一時間に三万人の兵士を送り込むことができます」。北朝鮮の「脅威」を強調するガイドの説明は、前回九二年に訪れたときと変わりません。
しかし、トンネル入り口前の売店には、平和団体が制作した「DMZピースキャンプ」とプリントされたTシャツが並んでいます。展示館には北朝鮮の軍事的「脅威」を実感させるための展示物とともに、南北首脳会談で金大中・韓国大統領(当時)と金正日・朝鮮労働党総書記が笑顔で手を取り合う写真、南北和解・協力を解説するパネルが掲げてあります。北の共産主義を撲滅する、という意味で「滅共水」と書かれていたわき水の掲示板はなく、代わりに「おいしい水を持ち帰ってください」と書かれていました。
「反北、反共宣伝」と南北和解ムードが混在する奇妙な光景です。
「いま韓国政府は南北和解・交流政策を進めています。しかし、昨年から北朝鮮の核問題が浮上し、韓国政府は和解政策と北朝鮮への厳しい国際世論というジレンマに悩まされています」。ガイドの説明には、韓国政府の苦悩がそのまま表れていました。
北朝鮮まで見渡せる「都羅展望台」は、静寂に包まれていました。最近まで鳴り響いていたという北朝鮮の対南宣伝放送も聞こえません。聞こえてくるのは、半世紀にわたり断絶していた京義線鉄道を連結する工事のつち音でした。かつて固く閉ざされていた非武装地帯の金網が開かれ、トラックやブルドーザーが行き来します。京義線は現在、非武装地帯のすぐ南の都羅山駅まで運行しています。
非武装地帯に近く、北朝鮮出身者が多く住む「統一村」の広場で、一泊二日の野外学習に来たという中学生たちに出会いました。南北分断の現実を実感するとともに、自然観察が目的です。非武装地帯とその付近一帯は、軍の統制下にあり民間人の移動が厳しく制限されているため、生態系がよく保存されているといいます。
引率の教師は「北朝鮮の脅威を教えるために連れてきたわけではありませんよ」と笑いました。「南北関係を体験学習しようというのが第一のねらいです。教科書だけでは理解できませんから。自然を楽しみながら、分断の現場で南北関係を考えようということです」
統一村の広場に「望郷祭壇」があります。韓国の多くの人が里帰りする秋夕(日本のうら盆に相当)の日、故郷に帰れない北朝鮮出身者がここに集まり、祖先をとむらう祭祀(さいし)をとり行います。
南北関係の変化を反映し、DMZツアーの「反北朝鮮、反共」という目的は大きく変わっていました。それでも、まだ民間人が自由に南北を行き来することはできません。南北に分かれた家族を乗せて列車が走るかもしれない京義線は、早ければ今年中に開通するといいます。