2003年8月31日(日)「しんぶん赤旗」
「こんな日米関係でいいのか」。日本政府の卑屈な対米追随姿勢に批判と疑念の声が大きく広がっています。日本共産党の綱領改定案は、今日の日米関係について、「植民地支配が過去のものとなった今日の世界の国際関係のなかで、きわめて異常な国家的な対米従属の状態」と特徴づけています。日本の歴史の中でも、世界の流れからみても「異常」な対米従属国家の実態をシリーズでみていきます。
防衛庁では、日本の「防衛政策」を大きく転換しようとする検討作業が進んでいます。
二〇〇一年九月の米同時多発テロ事件の直後に、庁内に「防衛力のあり方検討会議」を設置。将来の「防衛力のあり方」について検討をつづけ、年内にも現行の「防衛計画の大綱」(九五年)を見直す考えです。五日に発表された防衛白書は、その検討作業の“中間報告”というべきものでした。
防衛白書は、インド洋での米国の対テロ報復戦争への支援など地球規模での派兵を「自衛隊の主要な活動の一つになった」と強調。自衛隊の本来任務とする方向を打ち出しました。一方、これまで自衛隊の本務とされてきた日本への侵略対処のための装備などについては「縮小を検討する」とし、後景に押しやりました。
日本防衛から地球規模での派兵を重点に―。まさに政策の大転換です。
なぜ、転換をはかろうとしているのか。
「唯一の同盟国である米国の防衛政策が変われば、当然、我が国の防衛政策も変わる」
石破茂防衛庁長官は、こうのべています。(「読売」六日付)
ブッシュ米政権は、昨年九月の「国家安全保障戦略」でテロや大量破壊兵器の脅威を口実に、先制攻撃戦略を公式に宣言しました。
しかし同戦略を実際に発動したイラク戦争は、米国の同盟国を含め世界の多くの国々から批判されました。これに対し米国は、従来の同盟関係にとらわれず、自分につき従う国だけで構成する「有志連合」(コアリション)路線を進めています。
「ドイツだって、あんなことをしていれば、米国との同盟が今後どうなるかわからない。日米同盟だって…」
ある政府高官は、イラク戦争に反対した欧州諸国を引き合いに、米国にたてつけば、日米同盟関係はなくなりかねないという危機感をにじませました。
防衛白書は「圧倒的な国力を背景として、国際関係は米国を中心として新たなものになりつつあり、…イラクに対する軍事作戦を通じて、この動きはさらに加速されている」と、米国中心の世界秩序づくりを肯定的に描いています。
米国が進める「コアリション」について「他国とのコアリションが任務を決めるのではなく、任務がコアリションを決める」という米国防報告(昨年八月)の一節を紹介。「米国が単独でも軍事行動を行い得る能力を備えていることなどを踏まえると、米国にとっての同盟の価値は、同盟の存在そのものだけではないとの指摘がなされている」としています。まるで米国に役立たないのでは「同盟に値しない」といわんばかりです。
小泉内閣のもとで進む「防衛政策」の転換の根底にあるのは、「強い者に従え」というべき思想です。まさに究極の従属体制です。
防衛庁が二十九日にまとめた来年度の軍事費概算要求は、政府が進める「防衛政策」の根本的転換に向けた自衛隊“改造”計画ともいうべきものです。
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防衛白書が「防衛力のあり方検討」の「大きな課題」として掲げた「ミサイル防衛」の導入費は、その象徴です。
ブッシュ米政権が推進する「ミサイル防衛」は「(米)本土や海外駐留米軍に対する報復の危険を恐れることなく軍事作戦を遂行することができる」(防衛庁防衛研究所研究官の論文)ことをねらったものです。つまり、「ミサイル防衛」によって在日米軍などを守ることで、ブッシュ政権の先制攻撃戦略を支える役割を日本が担うことになるのです。
要求額は、次世代の「ミサイル防衛」システムを日米で共同技術研究する経費を加えると、千四百二十三億円。厚生労働省が来年度もねらっている物価スライド(マイナス0・4%)による受給中の年金減額(千六百億円)に相当します。
海外派遣型装備として今回初めて調達費が盛りこまれたのが、“ヘリ空母”(千百六十四億円)です。防衛庁は「ヘリコプター搭載護衛艦」と呼んでいますが、艦首から艦尾までのつながった空母型甲板を採用し、“ヘリ空母”というべきものです。
「長期間にわたるインド洋での協力支援活動」など海外での米軍支援という目的を明記。PKO(国連平和維持活動)などの地球規模での海外展開を想定しています。そのため、交代する現行のヘリ搭載護衛艦(五、二〇〇トン)に比べ、ヘリの整備・格納庫スペースの拡大、居住性の向上をはかり、大型化。現行のヘリ搭載護衛艦の二倍以上もある一三、五〇〇トンの巨大艦です。
規模は、イギリスやスペイン、イタリアが保有する戦闘空母に匹敵します。
空母型甲板を採用した理由としては、四機のヘリを同時運用することをあげています。海上自衛隊幹部学校研究部は「これから必要とされる自衛艦の青写真」と題した論文で「平時から有事への多様な事態に対応できる」ようにするため、海自のヘリだけでなく、陸・空の各自衛隊のヘリも運用する必要があると強調。将来、米国がイラク戦争で活用した無人機の搭載に向けた検討を求めています。
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航空自衛隊のF2戦闘機に搭載する精密誘導爆弾(導入費十二億円)は、米国が開発したもので、イラク戦争でも使用されました。米国の人工衛星で誘導します。イラク戦争の空爆では、米軍機が投下した爆弾の九割が精密誘導爆弾だったといわれています。
防衛庁は精密誘導爆弾の導入の理由に、日本国内に侵入したゲリラや特殊部隊への攻撃をあげていますが、一方で米軍によるイラクやアフガニスタンでの空爆の例をあげて、精密誘導爆弾の有効性が「明らかになった」と強調しています。
同じ概算要求で、三機目の調達費(二百五十七億円)も計上した空中給油機とあわせて、海外での敵基地攻撃能力を高める兵器です。
石破茂防衛庁長官は、自衛隊が海外の敵基地を攻撃する能力を保有することについて「検討に値する」と明言しています。
与党や野党の一部からは、巡航ミサイルや軽空母の保有を求める声まで公然と上がっています。こうした中での“ヘリ空母”や精密誘導爆弾の初導入、空中給油機の追加調達であり、海外での戦闘作戦能力を高める重大なステップになる危険があります。
自衛隊の海外派遣を推進する方針のもと、米軍との共同作戦を効果的に行えるようにする態勢づくりも重点課題としています。その筆頭にあげられるのが、陸・海・空の三自衛隊の「統合運用」態勢への移行です。
共同作戦を実施する際、いまのままでは、一人の指揮官のもとで陸・海・空・海兵隊の四軍が統合運用されている米軍との「共同調整が煩雑となる」(防衛白書)というのが理由です。
概算要求では、三十二億円を投じ、そのための研究・調査体制の充実や演習などを行うとしています。
日本共産党の綱領改定案は「日本の自衛隊は、事実上アメリカ軍の掌握と指揮のもとにおかれており、アメリカの世界戦略の一翼を担わされている」とのべています。
それを絵に描いたように示した今回の概算要求は、世界の平和の流れに背く対米従属の異常さと危険性を浮かび上がらせています。