2003年8月24日(日)「しんぶん赤旗」
全国の市区町村を回線で結んで個人情報を送受信する「住民基本台帳ネットワークシステム」(住基ネット)が二十五日から本格稼働(二次稼働)します。昨年八月から始まった本人確認に加えて、住民票の写しが全国どこでも手に入り、希望者に発行される「住基カード」を使ったサービスも始まります。稼働から一年がたち、浮かび上がった問題点は−−。
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| 事実上の離脱 |
郊外に住宅地が広がる東京都国立市。
市では、ストーカーなどの被害者が申し出れば住民票の閲覧を制限していますが、住基ネットに流れた情報は市の管理外に置かれ、制限できなくなります。上原公子市長は「個人情報の管理者として安全性を確認できない」として昨年十二月に離脱。二十五日以降も接続はしません。
市役所に住民票をとりにきた中年男性は「パスポート申請などの住民票は無料交付してくれるので不便はない。今後も切断したままでいい」。
同じく離脱中の東京・杉並区は、横浜市に習って、同意した住民のデータだけを送る「選択」方式を打ち出しました。しかし、国や都との協議がまとまっておらず、二十五日に間に合いません。
長野県の本人確認情報保護審議会は五月、「当面の離脱」を提言。田中知事は、事実上の「離脱」を打ち出しました。
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| メリットなし |
どれほど便利になるのでしょうか。
「住基カード」にはICチップが埋め込まれ、住民票コードやパスワードを記録。住基ネットのほか、印鑑登録など各自治体の独自サービスの利用に使うことも可能です。交付手数料は90%の自治体で五百円ですが、二千五百円と高額なところもあります。
◆「住基カード」があれば、全国どこでも住民票の写しが手に入る−−
単身赴任などで必要なら郵送など別の方法がすでにあります。
◆「住基カード」があれば引っ越しの手続きが転入先の一回ですむ−−
転出先には郵送で届け出が必要。住民異動以外の国保や介護保険などの届け出は出向かないとだめ。しかも、「住基カード」は届け出後は回収され、転入先で改めて作らなければなりません。
◆「住基カード」で印鑑登録、図書館利用など自治体の独自サービスを受けられる−−
独自サービスを付ける自治体はわずか九十で大半の自治体ではまだ独自サービスは受けられません。今年度の発行枚数は推計で国民の2・4%にあたる三百万枚です。
各種の個人情報を一枚のカードに集める危険性のほうが問題です。
| 漏えいが心配 |
「個人情報が漏れる」「目的外に使われる」など住民不安は一年たっても解消されていません。
全国銀行協会は金融庁と協議したうえで、住民票コードを本人確認に使えると誤った文書を配布しました。自衛隊が自治体を通じて自衛官の適齢者情報を集めていた問題は、行政で個人情報が不当使用される危険性を示しました。
総務省は「個人情報保護法」が成立し対策は講じたといいます。しかし同法は、個人情報の取り扱いに本人が関与できる「自己情報コントロール権」が保障されず、官庁による目的外利用も「相当な理由」があれば認めるなど欠陥だらけです。
重大なのは、住基ネットが庁内通信網でインターネットと結ばれ、外部侵入の恐れがある自治体が多数あることです。
99%の市町村が情報漏えいの心配があると答えた長野県では、二十二の自治体にインターネットからの分離を要請。総務省調査でも、約八百の市町村で同様の問題があることが分かっています。
自治体の担当者からは「分離には設備投資が必要になる。二十五日には間に合わない」という声があがっています。
| 国民合意なし |
あまり利便性がないため総務省は「住基ネットは電子政府・自治体、電子商取引の基盤となる」などと強調しています。
これらは届け出や取引をインターネットで可能にする構想で、そのさい必要な「個人認証」を住基ネットを使っておこなおうというものです。
現在は認めていない住基ネットの民間利用も視野に入れられています。
しかし、安全性の問題をはじめ、この構想自体が国民的合意などないものです。財政難のなかでしゃにむにすすめる必要性はありません。
日本共産党国会議員団は八月上旬、第二次稼働を中止し、住基ネットを基盤とした「電子政府・電子自治体構想」を白紙に戻すことなどを総務省に申し入れました。
小田中聰樹・専修大学教授(刑事訴訟法)の話 住基ネットについて政府は住民の利便性の向上が目的だといいますが、実際はほとんど向上しません。それなのに大金をかけてやるのは、国家による国民の個人情報の一元的な管理に本当のねらいがあるからです。
一九九九年に成立した盗聴法も「犯罪防止」が名目でした。しかし、表向きの利用はこれまで年に数件にもならない。実際は大金をかけて盗聴システムをつくりあげることが最大の目的でした。
住基ネットも、膨大な個人情報を国家が一元的に管理するシステムをつくりあげ、国家の政策に動員していくことに本当の目的があるのです。
問題になった自衛隊の適齢者リストは、そのよい例です。戦争に国民や自治体を動員する有事立法など危険な動きと結びついているのです。
国民が丸裸にされ、国家による監視のもとに置かれていては、本当の主権者ではありえません。人身の自由はもちろん、思想・信条の自由が保障され、プライバシーが守られてこそ主権者たりうるし、人間の尊厳も守られるのです。
国家が一元的に国民を管理することをほうっておくとファシズムにつながっていきます。住基ネットのこの危険な意図を見抜き、あらゆる手段でその中止を求めていかなければなりません。