2003年8月20日(水)「しんぶん赤旗」
健康保険財政で建てられ、各地の中核病院として頼られている社会保険病院が、自民・公明政権によって統廃合・売却されようとしています。これにたいして「社会保険病院守れ」という地域ぐるみの運動が盛り上がりをみせています。(海老名広信記者)
熊本県八代市。八月初旬、市内の町内会長らの会合に八代総合病院の労働組合員二十人が参加しました。労組は「八代総合病院を公的病院として存続させましょう」と、住民に署名を広げるようお願いしました。
「総合病院がなくなったら、住民が困るのは火を見るより明らかたい」と町内会長らの病院存続の思いは一致。署名用紙を預かっていきました。
市の中心地、市役所の向かいに建つ三百四十四床の同病院。「理念」は「地域に信頼される医療」。玄関でも車いすの患者の相談に、若い女性職員がにこやかに応じている姿が印象的です。
看護師で健康保険病院労組同病院支部長の作田はつみさんは、「嘆願」と題した達筆の手紙をみせてくれました。「これは女性患者からいただいた宝ものです。『この願いに応えたい』と運動をしているんです」
手紙は「二十四時間体制の救急外来施設に私自身数十回と駆け込んだ者の一人」として、「何とぞ存続をお願い致し、八代市民の命を守り助けていただきますよう切に切にお願い申し上げる所存でございます」と訴えています。
労組の要請で県議会、八代市議会と周辺九町村議会は「病院の存続・拡充を求める意見書」を国に提出。意見書は「県南地区の専門的医療機関の中核として今日まで大きな役割を果たしている」ことを強調しています。
地元医師会も半年の議論をへて意見書を提出。理事の内科医師はいいます。「財政が黒字とか赤字とかで全国の公的病院の存廃をみてはいけない。民間では難しい重症者を公的病院はみてくれます。八代総合病院は血液疾患の先端医療機関です。公的病院として存続させることで郡市医師会は一致しています」
「地域住民もまきこんだ運動を」と意気込むのは健保労組三島病院支部の余語ミナ子支部長です。余語さんが看護師を務める三島社会保険病院は静岡県東部の中核病院。北に富士山を望む伊豆半島のつけ根にあります。
近隣の国立病院が統廃合され、民間ではできない医療がいっそう期待されています。同病院は三島市と周辺市町村の救急医療の中心的存在です。県東部では唯一、腎臓移植ができます。最新の医療機器も整備しています。
それだけに病院の存続は切実です。労組の働きかけで県や関係自治体の議会が国に意見書をあげました。医師会は署名運動。歯科医師会も請願。二市六町の首長が連名で陳情書を提出しました。
七月、日本共産党の瀬古由起子衆院議員が病院長、三島市長らと懇談。小池政臣市長は「三島病院は地域医療への貢献度が大きいので厚生労働省、社会保険庁などに陳情に出向きました。相手に『こんなことは初めて』と驚かれました」。
瀬古議員は「市をあげて存続運動をやれば、国は強引なことはできません。市民の理解と要望を大事にがんばってください」と激励しました。
東京都北区。七月中旬のこと、誇らしげな顔の住民たち百人が集会を開きました。主催は「東京北社会保険病院の開設を求める連絡センター」。
「社会保険庁が所有する社会保険病院として来年、開設させることができました」。主催者の報告に拍手が湧き起こりました。
北社保病院は、四月開設を目前に社会保険庁が突然、運営委託先との契約をとりやめ開設が宙に浮きました。住民は緊急集会を開催。そこへ新病院に異動して働くはずだった都南総合病院(東京都品川区)の職員も駆けつけ運動のスクラムを組みました。
署名運動、厚労省へのすわりこみ。住民に押されるように区議会では異例の会期前半に「既定方針どおり開設を求める」意見書を採択。区長も国を批判しました。「あの上にものをいわない区長がよくぞ」(住民)といわれる動きでした。
慌てた社会保険庁が、新しい委託先としたのが地域医療振興協会。へき地医療をになってきた自治医科大学系の団体です。「応募していた法人の中で一番公的性格が強い。公的病院として開設することで、社保病院つぶしとの緒戦を制した」と、住民と一緒に運動してきた日本医療労働組合連合会は評価します。
「混乱を招いた坂口力厚労大臣、木村義雄副大臣は一言も謝罪していない。自公政治の責任を追及したい」。集会で住民の発言が響きました。
社会保険病院は中小企業の労働者が加入する政府管掌健康保険から土地や建物、装備が提供されています。全国社会保険協会連合会(全社連)などが運営する「国有民営」の病院です。全国に53病院。
昨年7月に自民、公明などが健康保険法を強行改悪した際、「社会保険病院の見なおし」の付則をつけ、同年12月に「見なおし」の方針が示されました。経営が困難な赤字病院は削減・売却の対象とされます。
社会保険病院など公的病院をつぶす背景には、(1)医療費への国庫負担のいっそうの削減(2)医療をもうけ本位の「市場」とする狙い―があります。