日本共産党

2003年8月18日(月)「しんぶん赤旗」

お客様が“テスト運転”

リコール

甘い評価、試験の不十分さ…

まかり通る設計ミス


表

 国土交通省がまとめた二〇〇二年度の自動車リコール届け出内容の分析では、設計ミスの内容は「性能」「耐久性」「設計自体」に分けられます。一番多いのが「設計自体」のミスで三十五件(32%)、続いて「耐久性」が二十件(18%)となっています。

 「設計自体」の中身をみると「評価基準の甘さ」が、三十四件で全発生原因の31%を占めています。昨年度の二十三件から顕著な増加を示しています。「図面等の不備」は一件でした。

 「耐久性」の中身は「開発評価の不備」が十三件、「実車相当テストの不備」が七件でした。

 一方、製造ミスをみると、「作業工程」に起因するものが三十五件で47%を占めています。中でも「製造工程不適切」が十九件で全体の25%に達しています。

 装置別の発生原因をみると、原動機の不具合は「設計」ミスが82%、電気装置では「設計」ミスが83%、かじ取り装置は「製造」ミスが54%となっています。

 国土交通省自動車交通局リコール対策室は、「部品の材料などが変わってきているにもかかわらず『この程度でいいだろう』と甘い評価をし、試験やテストに十分な時間をかけない傾向がある」と指摘しますが「分析結果は、あくまでも『参考』で、これをもとにメーカーを指導することはない」としています。


バッテリー液漏れで腐食

高熱によりゴム剥離

評価基準の甘さ例

 ▽雨水がバッテリー内に浸入してバッテリー液量が増加、あふれたバッテリー液がブレーキパイプに飛散し、パイプが腐食してブレーキ液が漏れ制動が低下する(対象台数67万6741台)。

 原因は、バッテリーの搭載位置が不適切で、バッテリー上面に雨水がかかるため。

実車相当テストの不備例

 ▽高速走行等の高温時、接着力が低下することによりプーリーと防振用ゴムが剥離(はくり)して、近接するクランク角センサーなどが損傷、エンジン制御が不適切となり、最悪の場合、エンストし再始動できなくなる。またはエンジン回転が上昇しなくなる(対象台数1万7644台)。

 原因は、防振用ゴムを固定する接着剤の耐熱性が不十分なため、高速走行等での高温時に接着力が低下したため。


解説

削られる「安全」

背景にコスト削減競争

 自動車リコールの届け出件数や対象台数が依然「高水準」で推移しています。これは、自動車業界の猛烈なコスト削減策と無縁ではありません。

 これまで、開発期間を短縮するため、検査の一部を省く「検査レス」や試作車をつくらない「試作レス」などが実施されてきました。これに加え大量のリストラによる人員削減の影響が考えられます。

期間従業員

 先月、三菱自動車工業が届け出た「デリカ」のリコールは、製造上の問題に起因していました。同社広報部は、エンジンを調整した「期間従業員」が「不慣れな作業を行ったため」と説明しています。

 自動車業界では、人件費を抑制するため「期間従業員」など、正社員以外の雇用が増える傾向にあります。

 同社広報部は「期間従業員への教育は二週間実施した」といいますが、製造現場の関係者は「通常、作業手順を教えるだけだ」と証言します。

 理由は、(1)期間従業員の職場への定着が悪いため熱心になれない(2)人が減り管理監督者自身の仕事量も増え面倒をみきれない−などです。

 自動車業界関係者は「正社員なら二、三年で技能が向上するところを直接、現場に配属して手順を教える。部品の重要性などほとんど教えていない。全体の人員が減っているので一人の『持ち工程』が増え、ベテランの技術が伝承されないなど『複合的』問題が起きている」といいます。国土交通省は昨年三月、リコール原因を分析し検討する委託調査を実施しました。メーカーのヒアリング調査をまとめた報告書では、作業指示やチェックシステムの組織・プロセスの問題点などが指摘されています。

 例えば、仕様変更などが発生しても、複数部門間の連絡が徹底しないため、従前と同じ方法や個人の経験から対応し、思い込み、誤解、未確認などから不具合を招くというものなど。

 報告書は、それに対する防止策を「設計または製造に関する総合的な知識と経験を持つ人間を配置し工程全体を把握させること」としています。

人命脅かす

 一歩間違えば人命を脅かす欠陥車が、年間三百万台以上、市場に出回っています。自動車業界の異常なコスト削減競争とリストラによる生き残り戦略の結果、自動車の安全性は削り取られ「お客さまがテストドライバー」という事態を招いています。欠陥車を生み出さない真剣な取り組みが求められています。 (遠藤寿人記者)


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