2003年8月15日(金)「しんぶん赤旗」
米国と欧州連合(EU)は十三日、世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(新ラウンド)の農業分野での共同提案で基本合意し、日本政府などWTO加盟国・地域にその合意文書を配布・公表しました。その内容は、農産物貿易の「自由化」をいっそう推進し、農産物輸入国など世界の農業をさらに破壊する危険のあるものです。今後の議論を経て、九月にメキシコのカンクンで開かれるWTO閣僚会合の宣言案に反映させるとしています。
合意文書は、(1)市場アクセス(関税引き下げなど)(2)国内助成(価格支持や農家への助成の削減など)(3)輸出規律(輸出補助金・輸出信用などの削減)――の三つの主要テーマを中心に構成。ただ、削減の目標や期間などの具体的な数字は書き込まれておらず、今後の交渉にゆだねています。
「市場アクセス」では、現在、高関税が適用されている農産物について、一定の税率以下に関税を引き下げるか、あるいは、ミニマムアクセス(最低輸入量)などの方法(関税割り当て)で、低関税による輸入量の範囲を定め、それを拡大するよう求めています。
また、高関税以外の品目については、平均の下げ幅と、最低これ以上は削減すべきとする下げ幅のそれぞれを設定するとしています。
「国内助成」では、すべての「先進国」が前回交渉(ウルグアイ・ラウンド)よりも「大幅な削減」をすべきだとしています。また、「輸出規律」では、一定の品目について、輸出補助金を何年間かで撤廃することや、輸出信用の削減などを提案しています。
亀井善之農水相は十四日、世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉の農業分野で米国と欧州連合(EU)が合意した共同提案について、「わが国が主張している『柔軟性』や『継続性』の確保に一定の配慮がなされたもの」などと評価する談話を発表しました。
ただ、コメなどの輸入のいっそうの拡大につながる「関税割り当ての拡大」提案についてだけ、「わが国農業の現実からみて問題がある」として、交渉で日本政府の立場を反映させるよう主張していくとのべています。
世界貿易機関(WTO)の新ラウンドは、交渉そのものが貿易「自由化」の拡大を目的にしたものであり、“対立”がいわれる米国と欧州連合(EU)の立場も、同じ「自由化」推進の程度や速度の違いにすぎず、合意は予想されたものです。
しかし、この間、世界の国民や、農民・消費者、非政府組織(NGO)などが求めてきた方向は、こんなものではまったくありません。
問題は、前回交渉(ウルグアイ・ラウンド)の合意(一九九三年末)以来、農産物などの貿易「自由化」の推進で、多国籍企業の利益だけが増え、日本や多くの発展途上国など、農産物輸入国の農業が破壊され、世界的な食料危機が深刻化してきたことです。
前回交渉では、米国が極端な「自由化」を提案し、ゆるやかな「自由化」を求める欧州との対立という構図に持ち込まれ、その合意が世界各国、とりわけ、最大の農産物輸入国の日本に押しつけられるという流れでした。そうした欧米の共同歩調の背景には、両国が基本的には農産物輸出国であるということがあります。
しかし、自国の食料は自国で生産する権利(食料主権)を求める欧州・アジアなど世界各国の世論と運動は、前回交渉時とは比べものにならないほど大きくなっています。欧米の当局がその提案を押しつけようとすれば、国際的な反発や抗議行動はさらに激化するでしょう。
日本政府はこれまでのように、米国などに妥協するのではなく、こうした世界の世論と日本国民・農民の声に耳を傾け、いまこそ、米国追随の立場を転換すべきです。(今田真人記者)