2003年8月4日(月)「しんぶん赤旗」
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旧日本軍の毒ガスが原因とみられる井戸水のヒ素汚染で深刻な健康被害が発生している茨城県神栖町。発覚から四カ月あまりたった現在も原因は究明されていません。一日からは井戸の周囲で、環境省などによる土壌などのボーリング調査も再開されましたが、住民からは「原因の究明を急いで」との切実な声があがっています。(小山田春樹記者)
この健康被害が判明したのは三月二十日。神栖町の住宅地の住民の中に、手足の震えや平衡感覚の障害、知覚異常、脱力感、乳幼児の発達の障害などの症状を訴える患者がいることがわかり、井戸水の水質検査の結果、環境基準の四百五十倍という高濃度の有機ヒ素汚染が明るみにでました。
いま現地では原因究明を求める強い声があがっています。
井戸水を飲み、被害にあった同町の主婦(39)は「水道水にかえてから症状は軽くなったものの、今でも頭痛が続いている。原因究明が第一。何としてもつきとめてほしい」と訴えます。
一方、井戸から環境基準の四十三倍のヒ素が検出された地点に住む学習塾経営の池田三富郎さん(58)は「私たちの地域は広い範囲で大量の汚染物質が存在する可能性が高いのでこの地域も早く調べてもらいたい」と求めています。
池田さんも原因が気がかりです。「旧日本軍の軍用地の真ん中に位置しているので、絶対何かがあると確信している。早く汚染を止めないともっと被害がひろがり、神栖町は大変なことになる」と警鐘を鳴らします。
住民の声をうけ、日本共産党の関口正司神栖町議会議員は被害者の支援と対策を町、県、国に要請。安全な水の供給に町独自の支援を実施するよう働きかけ、浄水器設置への半額補助や上水道加入への補助期間の延長などの実施が決まりました。
関口議員は「町も県も国も一体になって被害者の救済と補償にとりくんでほしい。神栖にとって、まだ戦後処理は終わっていないんです」と語ります。
行政機関からも徹底的な調査の実施を求める声があがっています。
茨城県潮来保健所の緒方剛所長は「住民の健康被害の広がりの実態を調査し、小脳の障害以外のがんや流産などの症例とヒ素汚染の関係も研究する必要がある。疫学的調査をはじめ水俣病の教訓を生かすべきだ」と語りました。先入観なしの調査と徹底した情報公開の必要性を訴えています。
有機ヒ素化合物が検出された井戸の区域は、戦時中には内閣中央航空研究所鹿島実験場があり、北側には海軍航空隊の神ノ池(ごうのいけ)基地がありました。基地では特攻機「桜花」の訓練が行われていました。また、本土決戦に備えた部隊が配置され、毒ガスなどの化学兵器が配備されていたとの情報もあります。今後の徹底的な真相解明が求められています。