2003年7月25日(金)「しんぶん赤旗」
野呂栄太郎賞選考委員会は、選考の結果、つぎの著作に第二十八回野呂栄太郎賞をおくることを決定しました(選考対象は、二〇〇一〜〇二年に発表された著作、論文)。
新原昭治著
『「核兵器使用計画」を読み解く――アメリカ新核戦略と日本』)
(新日本出版社、二〇〇二年)第二十八回野呂栄太郎賞は、新原昭治氏の『「核兵器使用計画」を読み解く――アメリカ新核戦略と日本』(新日本出版社、二〇〇二年)におくられることになりました。
新原氏の著作は、解禁されたアメリカの公文書などの丹念な調査と分析をとおして、アメリカの「核戦略」の歴史的な展開と今日の実像を詳細にあとづけた労作です。
本書は、ブッシュ政権の「核態勢見直し(NPR)」報告と、その下敷きともなった全米公共政策研究所の報告書などの分析を通して、ブッシュ政権が、「使える核兵器」を開発し、核兵器を他国にたいして、先制的に使用する計画をもっていることを、克明に明らかにしています。著者は、一九九〇年代以降のアメリカの世界戦略の特徴を、「ならず者国家」論と分析してきましたが、本書も、こうした研究成果をふまえたものです。
さらに、本書は、第二次世界大戦後、アメリカが核兵器を使う計画をもっていた事例を、朝鮮戦争や台湾海峡での武力紛争、ベトナム侵略戦争を通して、系統的に検証しています。そして、核兵器使用をくわだてたアメリカ政府が、アジアの世論、とりわけ日本でのきびしい核兵器拒否の世論と運動をおそれて、実戦での使用にいたらなかった事実を示しています。
また、本書は、アメリカの核兵器が日本にどう持ち込まれ、現在の「有事核持ち込み」の体制がつくられてきたかを追跡し、核持ち込みが一九五三年から開始され、六〇年の安保条約改定以降も、核兵器の常時配備のくわだてが執ように続けられたこと、そのもとで日米両国政府間の「核密約」がかわされてきたことなどを明らかにしました。
イラク戦争によって、アメリカの先制攻撃戦略の危険性が現実のものとなっているときだけに、核兵器使用計画の危険性、およびその発動をおしとどめてきた世界の世論と運動の重要性を示した本書の研究成果は、とりわけ意義深いものです。
新原昭治氏の略歴
一九三一年福岡生まれ。一九五四年九州大学文学部卒業。日本共産党国際委員会責任者をつとめ、現在、日本共産党名誉役員、日本原水協専門委員、非核の政府を求める会核問題調査専門委員会委員。
主な著作
『アメリカの核戦略と日本』(共著)、『核戦争の基地日本』、『あばかれた核密約』、『米政府安保外交秘密文書 資料・解説』(編訳)、『冷戦は終わったか――世界論をめぐる虚構と現実』、『アメリカの戦略は世界をどう描くか――「ならず者国家」論批判』、『戦争と平和の問題を考える――ユーゴ空爆からアジア外交まで』、『資料集 20世紀の戦争と平和』(共編)(いずれも新日本出版社)