2003年7月13日(日)「しんぶん赤旗」
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日本では今、八月の原水爆禁止世界大会に向けて平和大行進などの取り組みが進んでいるけれど、米国では戦争で使いやすい小型核兵器を造ろうとする動きが強まっているみたいだね。そもそも小型核兵器ってどんな兵器なの?
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米国では、小型核兵器の開発は核兵器と通常兵器との境界をあいまいにし、核軍拡競争に拍車をかけるとの理由で、一九九四年採択の国防支出権限法で、五キロトン以下の破壊力をもつ小型核兵器の開発・研究を禁止した。ところがブッシュ政権は今年四月、新年度の国防支出権限法案で、この禁止を廃止するよう議会に要求し、それを議会が五月に決定したんだ。
核兵器には、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などに搭載され海洋を越えて相手国の都市・工業地帯など広範囲な地域を破壊する戦略核兵器と、限定された地域内で使用される戦術核兵器がある。戦略核の破壊力はメガトン(百万トン)級、戦術核の破壊力はキロトン(千トン)級といわれる。広島に投下された原爆は十五キロトンだ。
小型核兵器は通常、数キロトン台から数十キロトン台の範囲の破壊力の核兵器を指している。小型核兵器は以前から開発・研究が進められてきたが、今は、地中にある生物・化学兵器の貯蔵施設など、地下施設の破壊を目的として、地中深く貫通する小型核爆弾の開発が大きな問題となっている。
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米国はなぜ今、小型核兵器を開発しようとしているの?
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今までの核兵器は威力が大きすぎて、被害が大きくなるので使いにくい。小型なら人的被害が小さく、批判も小さいので「使いやすい」―こんな恐ろしいうたい文句で開発が進められようとしている。
この動きの背景にはブッシュ政権の核攻撃を含む先制攻撃戦略がある。ブッシュ政権は、昨年提出した「核態勢見直し」報告や「国家安全保障戦略」で、核兵器使用を前面に押し出す政策を打ち出した。その主要な柱の一つが小型核開発だ。
しかも、これは、核兵器などの大量破壊兵器を取得しようとする国に対して、核兵器を含む軍事攻撃で、それを阻止しようとする「大量破壊兵器拡散対抗戦略」として打ち出されている。ブッシュ政権は今度のイラク戦争を、大量破壊兵器の拡散阻止を口実とした先制攻撃戦略の初めてのケースとみている。このなかで核兵器使用政策が前面に出てきているのだから、危険極まりない話だ。
ラムズフェルド米国防長官は、最近の記者会見で「通常兵器なら惨事をもたらしうるが、低出力核兵器ならば、通常兵器が引き起こす問題の一部を軽減しうる」と言って、小型核兵器の研究を正当化した。しかし、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)は、爆発力が相対的に小さいといっても「放射性のじん灰やがれきが周辺に拡散して、放射性物質が周辺数平方キロにわたって降下する」と指摘しているよ。小型核兵器だといっても、核兵器としての恐ろしさに変わりはないというのだ。
しかも米国ではいま、核兵器の起爆装置に使う「プルトニウム・ピット」の製造再開が大問題となっている。ピットというのは、プルトニウムを球形にし、金属で覆ったものだ。今ある核兵器を更新するとともに、新型核兵器の開発をめざす動きは、現実に始まっている。
今は凍結されている地下核実験についても、凍結を解除して再開させようという圧力が高まっている。これらが新たな核軍拡競争を引き起こす危険がある。核兵器をめぐる情勢は明らかに、新しい危険な局面を迎えているといえる。
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小型核兵器開発の動きの強まりに対して、核廃絶をめざす声も世界で高まっているみたいね。
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米国のケネディ上院議員も「広島(型原爆)の半分なら、四分の一ならいいのか。きのこ雲が小さければいいのか」と政府を批判した。
四月にジュネーブで開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議準備委員会で、中国代表が「低出力核兵器または『小型核』の研究・開発はいっさい行うべきではない」と声を上げた。軍縮問題担当の前国連事務次長のジャヤンタ・ダナパラさんは「一部の核保有国は、核兵器が使われうる状況を拡大する新たな理由付けとドクトリンを編み出している」と米国を暗に批判した。
米国は、大量破壊兵器の拡散が二十一世紀の脅威だといいながら、自分たちは新たな核兵器を開発して、しかもそれを使おうとしているのだから、まったく矛盾している。原水爆禁止世界大会が開かれる今こそ、この流れに対して核兵器廃絶の声を全世界に発信する必要があるね。