日本共産党

2003年7月2日(水)「しんぶん赤旗」

日本共産党イラク調査団報告書

(下)


 《今後の復興支援》

 富の集中というサダム政権の構造から、バグダッドと地方(とくに南部)の格差が著しく、その手当てが必要とされる。国内の避難民(北部だけで八十万人)や国外難民(イラン南部などに四十万人)の帰還問題もある。北部ではクルド族のかかわる民族間の紛争が多発している。また、地雷除去など、技術を持った外国の支援が不可欠となっている。援助をおこなう観点としては、なにもかも与えるというのではなく、イラク人が自立するための援助、物よりも技術の支援が重要だといえる。

 (1)日本からの現在までの援助

 ○国連各機関は日本政府のイラク復興援助に、くり返し感謝を表明した。

 −−緊急人道援助、復興雇用計画、電力復興計画、医療施設再建計画、教育分野、上下水・ごみ収集などの衛生分野、食糧援助計画など。

 ○日本のNGOの援助活動は、戦争前から北部クルド地域を中心におこなわれ、戦後は医療分野などでの支援を強めている。

 (2)復興支援

 〔精神的な再建と教育〕

 ○「サダム政権の独裁的で封建的なシステムがしかれ、サダムへの信仰が学校教育でおこなわれてきた。それを信じてきた子どもたちには大きな心の空白が生まれている。イラクの人口の半数が十八歳以下で、その子どもたちは、二十年のサダム崇拝教育の中で育った。崇拝を強要されていた対象であるサダムは米軍に打倒され、おとなたちは今や手のひらを返したような言動だ。心の再建が重要な課題だ」(国連関係者)

 ○最優先課題は子どもたちを路上から学校に返すことだ。五百万人の子どもたちを対象に学校復帰キャンペーンがすすめられている。帰る家庭を失った子どもたち(ストリート・チルドレン)の数が急増し、こうした子どもたちのなかに麻薬・薬物(略奪された薬品が悪用される)中毒が増えている。

 ○教科書の改訂が問題となっている。また、カリキュラムもこの二十年変わっていない。子どもたちに何を教えるかは、その国の奪うことのできない固有の権利だ。カリキュラム改訂はイラク人を中核とした専門組織でおこなうことが必要。

 〔食料〕

 ○WFPの緊急援助活動は六月一日に始まり十月末まで実施される。イラク国民の60%がこの食料配給に依存しており、セーフティー・ネット(最低限生活保障)の役割を果たしている。

 −−「国連安保理決議一四八三にもとづいて経済制裁が解除され、これまで国連の管理下でおこなわれてきた石油と食料の交換計画が終わる。CPAは、今後の方向として市場経済システムの導入を強く志向している。問題は、とくに傷つきやすい状況下に置かれる人々にたいする援助をどうするかということだ。どの地域のどれだけの人々がこの対象となるのか、調査からはじめなければならない」(国連関係者)

 −−「昨年のイラクの穀物生産量は二一〇万トンだったが、今年は戦争の影響で一七〇万トン程度と予想されている。その内の一二五万トンを買い上げる計画で、こうした買い上げはイラク国内では十二年ぶりのことになる」(同)

 −−いまの食糧配給の「フード・バスケット」は、一日二一〇〇iという前提で、穀物から植物性オイル、お茶、砂糖、塩、ミルク、せっけんから洗剤まで含まれる。サダム政権は昨年七月からことし二月まで、戦争を想定して、毎月の配給を二倍にしてきた。一般的にいって、各家庭にはことし末までに相当する量の食糧が蓄えられている」(同)

 〔雇用〕

 ○「イラクのサダム政権下での失業率は50%以上といわれていた。国民の60%が政府の食糧配給を受けていた。雇用されているといってもほとんどが政府関係だ。それがほぼ消滅した。四十万人の兵士はまったく収入がなくなったし、バース党員二百万人もそうだ。深刻な現実は間違いないが、確実なデータはどこにもない」(国連関係者)

 ○「イラク再建では、青年に雇用と職業訓練を与えることがもっとも重要だ。この国の規模は大きすぎて、湾岸の他の石油産出諸国のようにして生きることはできない。石油以外の産業をつくり出さなければ、国民を養ってゆけない。青年に職業訓練を与え、就職する将来を与えることが必要だ。農業の再建も重要課題だ。八〇年代にサダム政権がやったように、農業拡大のためにエジプト人の出稼ぎ労働者を二百万人も入れるというやり方をくり返してはならない。国際組織やNGOに資金を提供するだけでなく、青年の職業訓練と雇用創出援助などのプロジェクトを考えている」(在バグダッド外交関係者)

 《自衛隊派遣について》

 ○イラク国内に「確実に安全」といえる地域はなく、戦闘地域と非戦闘地域を明確に区分することはできない。

 ○このような事態のなかで「自己完結的」組織であるためには、米軍と同様の武器使用基準を適用することを意味する。

 ○イラク復興支援、緊急人道援助ということで、自衛隊を派遣しなければ貢献できない分野は存在しない。

 ○自衛隊の派遣は、今後の日本のNGOなどの支援活動に困難をもたらし、イラクや中東での日本の立場を悪化させる。

 ○逆に、求められているのは自衛隊ではなく、各分野の専門技能・知識を伴う援助である。

 −−治安確立の分野では、上述のとおりCPAを含め、イラク人警察機構の確立がその核心であることが認識されている。求められるのは、例えば文民警察官を派遣してイラク警察の人々の教育訓練を援助する、という内容のものである。

 −−医療援助活動についても、いま問題となっているのは、病院があっても設備がない、設備があっても機能しないことであり、それを解決する援助が求められている。

 ○外国軍駐留に対するイラク国民の感情を考慮すべき。

 −−「支援という点では、軍事的敗北に続く外国軍による占領ということへの国民の屈辱的な感情を十分に理解することが必要だ。米、英軍に占領されているイラクにさらに別の外国の軍隊が入ってくるということがイラク国民の中にどのような感情を生み出すか、よく考えるべきだ」(在バグダッド外交関係者)(おわり)


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