日本共産党

2003年7月1日(火)「しんぶん赤旗」

日本共産党イラク 調査団報告書(上)


 日本共産党の市田忠義書記局長が三十日、国会内の記者会見で発表した「日本共産党イラク調査団報告書」を紹介します。

 1、日本共産党イラク調査団の構成

 緒方靖夫 参院議員・党常任幹部会委員・国際局長(団長)

 赤嶺政賢 衆院議員・党幹部会委員

 森原公敏 党国際局次長・幹部会委員

 2、日程

 六月十三日東京発

   十五日アンマン発(陸路)バグダッド入り

   十九日バグダッド発(陸路)アンマン入り

   二十一日東京着

 3、調査活動の概括

 国連機関との懇談

 「国連開発計画(UNDP)」イラク事務所フランシス・デュボワ所長

 「国連児童基金(UNICEF)」イラク事務所クリス・クライン=ビークマン次席

 「世界食糧計画(WFP)」イラク事務所ラーマン・チョウドリー次席

 NGOとの懇談

 CPA(連合暫定当局)からの聞き取り

 バグダッド市内の各国大使館を訪問・懇談

 バグダッド市内の視察

 クート(バグダッド南東二百十キロ)、ヒッラ(同、南方百キロ)およびバグダッド―クート―ヒッラ間(全行程六百九十キロ)の視察。

 4、調査報告

 《イラクの現状》

 (1)治安問題――いまだ治安が確立されていない。これがイラクの現状と問題の根本にある。

 ○米軍は、旧政権の武装勢力の掃討作戦を続け、“イラク全土が戦闘地域”としている。

 ――“イラク全土が戦闘地域”との米中央軍地上部隊司令官の発言について、CPA報道官は、「軍事作戦は全土で続けられているということ。ファルージャなど一定地域でおこなわれている軍事作戦は相当の規模だが、全土でそのような大規模戦闘がおこなわれているということではない」と説明した。

 ――調査団が滞在した期間中も含め、米軍への攻撃が続いている。ブッシュ米大統領が大規模戦闘の終結を宣言した五月一日以来、米軍の死者は平均して毎日一人の割合。

 ○米軍は、掃討作戦とは別に、各地で治安行動をおこなっているが、成功していない。

 ――「先週も有能な職員が通勤時に襲われ、命を落とした。乗り合いタクシーの運転手が突然、客に銃を向けて、強盗に早変わりする。先日は、たった三ドルのことで、職員が強盗に殺された。通勤もできないという状況がある」(国連関係者)

 ――「五月半ばに強盗に襲撃され、十二発の銃弾を浴びた。運転手の機転で、負傷者はなかったが、車中のパソコンやデジカメも銃弾を浴びていた。バグダッドでも、事務所に人を常駐させるにはまだ危険で、ホテルを拠点に活動している」(NGO関係者)

 ○軍隊には治安を維持する警察の役割は果たせない。イラク人警察の再建が不可欠。

 ――「社会のなかでの警察活動では、地域と住民を熟知し、言葉の理解、コミュニケーション、信頼が不可欠だからだ。社会にたいする責任感がなければならない。イラク人の警察官が市内で目につきだしたが、誰も彼らを尊敬してはいない。責任を持った警官ではないからだ」(国連関係者)

 ――「最大の問題は治安確立で、そのカギは、イラク人による警察活動の拡大だ」「連合軍兵士とイラク人警察官が共同夜間パトロール、共同捜査を始めている。CPAはイラク人警官の訓練のために警察学校を開設した。警察機構の非バース党化、旧バース党員幹部の追放が進められている。元警察官であれば三週間、新たに警官に採用されたものは六週間の教育を受ける」(CPA報道官)

 ○イラク国内に「確実に安全」といえる地域はない。

 ――バグダッド市内でも、危険で近寄れないと現地の運転手がいう場所があるし、南部のクート近郊のアルハイーのように、危険だから行かないほうがよいと現地の人がいう地域もある。

 ――占領二カ月の時点で、米占領軍に対する国民感情は悪化している。電力、飲料水、衛生など基本的社会基盤が破たんし、雇用もないという状態が緊急に改善されなければ、いっそう深刻になる。その場合、いま安全といわれる地域がそうではなくなるかもしれず、残存する旧政権武装グループも国民の不満を背景に行動する可能性もある。

 ――「安全な地域も危険な地域に変わりうる。南部は安全といわれるが、安全性の度合いは、情勢の発展で変化する」(「赤十字国際委員会」関係者)「危険な地域も事態の発展により、変化する」(国連関係者)

 (2)戦争被害と国民生活

 ○表面的には、フセイン政権の中枢の建造物の破壊が目につく。公共施設の破壊という点では、「戦争の破壊以上の破壊がイラク国民自身〔の略奪と放火という行為〕によっておこなわれた」(国連関係者)との指摘もあった。治安の確保とともに、国民が強く求めているのは、電力、飲料水、衛生、医療という基本的な社会基盤の再建である。

 ○劣化ウラン弾の影響について国連やNGO関係者が懸念を強めているが、国連機関では劣化ウラン弾に直接関連する活動はおこなっていない。もっとも直接的に重大な脅威となっているのは、クラスター爆弾を含む不発弾で、二百人以上の子どもがこれらにかかわって死亡している。UNICEFは防止キャンペーンをすすめている。

 ○世論調査

 「イラク戦略研究所」が〇三年六月八―十日にバグダッド市民千百人を対象におこなった世論調査は以下のような状況を示している(米紙「USAトゥデー」六月二十日付)。

 ・米国主導の戦後復興は不十分94%

 ・米国はバグダッドの治安を確立していない73%

 ・米国の医療分野再建努力に不満53%

 ・恒常的な政府が樹立されるまで米軍の駐留を望む51%

 ・米軍主導外国軍の即時撤退17%

 ・米国主導の戦後復興に満足1%

 ○米軍に対する国民感情

 ――「占領軍に対するイラク人の感情についていえば、バグダッド陥落後一週間は歓迎、一カ月後には不満に変わった。二カ月たった現在は、治安の悪化、電気も水もないという生活が続き、『サダム時代より悪くなった』と感じている」(NGO関係者)

 ――「田舎では都市部以上に、占領軍、外国人兵士に対する気分・感情は、微妙だ(女性の場合にはとくに)。外国人の男がイラクの女性を検査する、家に勝手に入り込む、路上で身体検査をする。どれもが許しがたいことだ」(外交関係者)

 ――「こうした問題を早期に解決しないと、フセイン政権は倒れたがなんの利益もないと、一般の国民は結論を下す。戦争で多くの困難を抱え、仕事もないし収入もない。そういう事態に置かれた国民の感情を理解しなければならない」(国連関係者)

 (3)再建と統治

 ○CPA占領統治に、イラク人による早期政府樹立にいたる現実的な計画、展望がない。

 ――「CPAの行政問題担当機構の下にイラクの各省庁〔指導部分のバース党員は追放〕が置かれ、各省庁の責任者にはCPAの高級顧問が就いている。この省庁の再建に努力している。憲法草案の起草委員会の構成はいまからで、憲法草案の起草、暫定政府、自由選挙の実施、憲法制定などの定まったタイム・テーブルがあるわけではない。選挙実施には、少なくとも二、三年はかかる。かなり先の将来的目標に向けて、イラク国民と共同の努力をすすめるということだ」(CPA報道官)

 ――「サダム政権は国民から遊離していた。政権の中枢が何をしているのかうかがい知ることはできなかった。現在のCPAも、宮殿の中にいて、イラク国民と隔絶しているという点ではサダム政権と同じだ。国民と共同して事業をすすめている国連の機関とはそこが違う」(国連関係者)

 ――「長期的な復興計画にもとづく援助が重要だが、その計画を相談できる相手がいないということが最大の問題だ。この点では、CPAの側にも復興にむけた具体的計画がない。午前中には連合軍と、午後には国連と調整の打ち合わせをおこなっても、具体的になにをするかがなかなか決まらない。実際の援助活動よりもコーディネーションに多くの時間がとられる」(NGO関係者)

 ○イラクの行政機構の再建・再稼働

 ――「CPAが、これまで存在したイラクの行政機関とどう協力するかが重要だ。CPAで保健分野担当はオーストラリアだが、彼らは関係するイラクの国家機関の要員の全員解雇ということはやらなかった。サダム支配を支えたバース党の指導的地位にいた部分〔の追放〕と区別した。また、彼らに責任を持たせた。これとは逆に、教育省では全員が解雇され、完全に崩壊した。社会福祉省も機能していない」(国連関係者)

 ――「予防接種用のワクチンはすべて国外に依存しなければならないが、予防接種の実施という点では、機能しているイラクの元の保健省に依拠している。また、サダム政権は、貿易省をつうじて毎月二千四百万人に配給するシステムをつくっていた。いま食糧配給は、WFPの責任だが、実際には元の貿易省の機構をつうじて実施している」「行政機構をできるだけ早く再稼働させることだ。そういうものが存在しないアフリカなどでの援助活動とはこの点で大きく異なる」(同)(つづく)


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