日本共産党

2003年6月29日(日)「しんぶん赤旗」

日常化する武力衝突

米英占領下のイラク

渦巻く住民の不満、怒り


 フセイン政権崩壊から二カ月半が経過した米英占領下のイラクでは、米国のいう「自由」「解放」の言葉とは裏腹に、米英の占領に対するイラク国民の不満と怒りが強まっています。イラク全土で占領軍と住民や武装勢力との衝突が日常化し、緊張が日々激化しています。日本政府はこのイラクへの自衛隊派兵計画を推し進めようとしていますが、イラクの現実は、このもくろみの危険性をまざまざと示しています。 (カイロで小泉大介)


終結宣言後、米軍の死者60人

 イラク南部の主要都市バスラ北西約二百キロの町アマラ近郊で二十四日、英軍部隊が攻撃を受け、英兵六人が死亡、八人が負傷しました。

 南部は旧フセイン体制に批判的なイスラム教シーア派住民が多数を占め、占領軍の支配が比較的安定していたと指摘されていました。英軍に死者がでたのは、五月一日のブッシュ米大統領による戦闘終結宣言以来初めてでした。バスラに本拠を置く英軍のマッカート中佐は、「われわれが駐留した二カ月で、これだけの意図的な攻撃は初めてだ」と言明。フーン英国防相も「南部の治安は改善されていたのに、こんな惨事が起きるとは…」と述べざるを得ませんでした。

 バスラからの報道では、英軍を襲撃したのは英軍によるわが物顔の家宅捜索に怒った一般市民で、バスラでは今回の事態が発生する前から、英軍の占領に対する抗議行動が始まっていました。

 「比較的安全」とされてきた南部ではさらに二十六日にも、首都バグダッド南方百五十キロのナジャフで、米海兵隊員が何者かに待ち伏せ攻撃され死亡しました。

集会参加者に米兵が発砲

 一方、首都バグダッドをはじめイラク北中部での住民の怒りと衝突も激しさを増しています。それを象徴的に示したのが十八日の事件でした。

 この日は朝から、米英の占領当局が陣取る旧共和国大統領宮殿前に市内各地からサダム体制時代の旧軍人が続々と集まり、「占領軍は給料を払え」「われわれに仕事をよこせ」の声を上げました。

 最近ではバグダッドの日常となったこの光景も、この日は違いました。警戒のために集会を取り巻いていた米兵が参加者に向け発砲し、二人が死亡するという事件に至ったのです。これまで地方都市ではたびたび見られた米兵による住民への銃撃が首都バグダッドで発生したのは初めてでした。

 この日はまた、バグダッド南部のガソリン・スタンドを警備していた米兵二人が何者かに手りゅう弾で攻撃され死亡しました。米軍車両とヘリコプターが現場に到着した時にはすでに犯人は逃走した後でした。

 バグダッド近郊での米軍への攻撃と応戦はその後、連日のように発生。十九日にはバグダッド南部で米軍車列が攻撃され三人が死亡、同じく南部では、米軍の救急車にロケット砲が打ち込まれ米衛生兵一人死亡、二人が負傷しました。二十二日にもバグダッド南部で手りゅう弾攻撃で米兵一人が死亡しました。また二十四日には、バグダッド西約百キロのラマーディで少なくとも五人のイラク人が米軍との交戦で死亡しています。

 衝突はさらに続き、バグダッド周辺では二十六日から二十七日にかけて米軍が相次ぎ襲撃され、二人が死亡し、少なくとも十人が負傷。二十六日には米兵二人が消息不明となりました。二十七日にはバグダッド北部で買い物中の米兵が頭部を銃撃される事態まで発生しています。

 「戦闘終結宣言」の五月一日以降、米兵の死者数は事故も含めて六十人に達しています。

“サダム時代より悪い”

 「占領下のイラク国民の苦しみがいつ強力な国民的抵抗に発展してもおかしくない」。カタールの衛星テレビ・アルジャジーラは二十五日、一連の事態を取材した特派員のこのような結論を伝えました。

夜間の外出まず不可能

 現在のイラク側の抵抗の激化は、占領軍による旧フセイン政権の民兵を掃討することを口実とした徹底した家宅捜査の実施も大きな要因となっています。占領軍への攻撃の中心は、「フセイン残党」とよばれる武装勢力だと指摘されています。占領軍管理下の石油パイプライン破壊や発電所へのロケット砲撃もおきるなど、全面抵抗の兆しもみせています。

 記者(小泉)が今月半ばにバグダッドを取材中、同市内を拠点に活動する国際援助組織関係者はこう指摘しました。

 「イラク人の一般的な感情は、バグダッド陥落後一週間はウエルカム(歓迎)だったが、一カ月たつころには不満に変わった。治安は悪化し、電気もない、水もないという生活が続き、住民はいま『サダム時代より状況は悪くなっている』と感じている。現在起きている衝突は、イラク北西部ではバース党の残存部隊によるある程度組織だった攻撃によるとみられるが、バグダッド市内では、住民の欲求不満の高まりが攻撃に結びついていることは間違いない」

 バグダッドでは、現在も治安上、夜間の外出はまず不可能な状態です。一日に何度も停電が発生し、電話も全市的にいまだ不通です。

 在バグダッドのある中東国の外交官は、「フセイン政権は倒れたが、人々はいま生活が良くなったと感じてはいない。こうした問題を早期に解決しないと、人々の不満が増大する。政権は代わったが、なんの利益もないと判断を下すことになる。一般のイラク国民は、戦争によって多くの困難を抱えることになった。仕事もないし収入もない。そういう国民の感情を認識しなければ重大な事態となる」と述べました。

 イラク国内の緊張激化をうけ、米中央軍のアビザイド次期司令官は二十五日、米上院軍事委員会で「われわれはいま困難な状況にある」と述べるとともに、「軍事関与は疑いなく長期化するだろう」「イラクには大規模な部隊が必要だ」と、軍事占領の長期化とイラク側の抵抗を力で押さえ込む姿勢を示しました。

 占領軍への反発は、イラク人の意向を無視した暫定政権づくりにも向けられています。

 バグダッドの米英占領組織=暫定行政当局(CPA)事務所前で二十一日、二千人の市民が占領反対の集会を開催しました。参加者は「われわれはイラク国民による政権を求める」と述べ、暫定政権の母体となるとされる占領当局任命の政治評議会設立方針に異議を唱えました。

 翌二十二日には、イラク住民の六割以上を占めるイスラム教シーア派の最高指導者の一人、シスタニ師が声明を発表し、「われわれは皆、占領軍の目的に不安を感じている。占領軍はイラク人自身が、外国の干渉なしに自ら統治できる機会をつくるべきである」と強調しました。

 国連のデメロ事務総長特別代表は、二十四日にバグダッドで記者会見し、「真にイラクを代表する体制を待ち望む国民の忍耐が限界に近づいている」「いかなる外国人もイラクを統治できない。イラク人だけが統治する能力と権利を有している」と訴えました。

 この発言には、米英の占領に対するイラク国民の強い怒りが反映しています。


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