2003年6月28日(土)「しんぶん赤旗」
「改革は途(みち)半ば。持続的経済成長の実現のためには、構造改革を推進し、『元気な日本経済』を実現するしかない」──小泉内閣は二十七日の閣議で「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(「骨太の方針」第三弾)を決めました。「経済活性化」「国民の『安心』の確保」「将来世代に責任が持てる財政の確立」の三つの宣言の実現のため七つの分野で「構造改革」(「七つの改革」)を進めるとしています。果たして、これで「元気な日本経済」をつくれるのか。「七つの改革」にそって、みてみましょう。
(1)経済活性化
(2)国民の「安心」の確保
(3)将来世代に責任が持てる財政 の確立
(1)規制改革・構造改革特区
(2)資金の流れと金融・産業再生
(3)税制改革
(4)雇用・人間力の強化
(5)社会保障制度改革
(6)「国と地方」の改革
(7)予算編成プロセス改革
![]() 一般小売店での医薬品販売を解禁すると、経営が圧迫される薬局=東京都内 |
「規制改革・構造改革特区」では、医療、福祉、教育、農業分野で、財界が強く要求していた株式会社参入を中心に、十二項目の具体化を求めています。国民生活にかかわる公共の分野を、企業のもうけの対象に変えようというものです。
医療分野では、病院経営への株式会社参入の解禁について、「全国における取り扱いなどについてさらに検討をすすめる」としました。「構造改革特区」での参入については、自由診療(保険外診療)、高度な医療提供病院などで「速やかに関連法令の改正」を求めています。
労働者派遣の医療分野(医師・看護師)への適用解禁は、医療の安全性などへの重大な影響が懸念されます。医薬品の一般販売でも、今年中に「安全上とくに問題がないもの」すべての販売を認めることにしています。薬剤師なしの店頭販売には、副作用の対応など、大きな問題があります。
公立学校の管理・運営の民間委託化を中央教育審議会で検討すること、株式会社による特別養護老人ホーム経営の全面展開なども明記しています。
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「資金の流れと金融・産業再生」では、不良債権の早期処理の強行の一点張りです。りそなグループに二兆円もの公的資金注入にいたった経済失政をなんら反省することなく、今度は、「公的資金を迅速に投入する新たな制度」の検討を明記。必要な場合には、「法的措置を講ずる」としています。その一方で金融機関にはリスクに見合った金利の設定など収益力向上を求めています。
![]() 出番が減った工具=東京・墨田区の板金加工所 |
「竹中さんは、市場重視をいうけど、結果的には政府の行政権限を増幅し、過剰介入している」──。大蔵省(現・財務省)元幹部は竹中平蔵金融・経済財政担当相がすすめる「構造改革」路線が矛盾していることを指摘します。「行政の過剰介入」の帰結は、政府がつくり出した「金融危機」の穴埋めには血税を使いつつ、金融機関には貸出金利引き上げ競争を迫るなど利潤第一主義の追求です。
「産業再生」の分野でも十兆円の政府保証をつけ、政府が全面的に後押ししている「産業再生機構」の活用をうたっています。同機構は、対象企業の不採算部門を切り捨て企業価値を高めるのが目的。労働者を解雇し、下請け企業を切り捨て、産業破壊をすすめるものです。
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「税制改革」のポイントは「包括的かつ抜本的な税制改革」の推進です。小泉首相が進めてきた増税路線をさらに進めるということです。
〇三年度の「税制改革」では庶民増税が並びました。消費税では中小企業いじめの特例措置縮小、個人所得課税では、配偶者特別控除の廃止などこれから痛みが広がります。
この路線を進めるとどうなるかは、政府税調の「中期答申」をみれば一目瞭然(りょうぜん)です。「国民の負担増は避けられない」というのが「税制改革」の出発点です。その一方で法人税には引き下げの余地を残しています。
最大の柱は、消費税率の二ケタへの引き上げです。小泉首相は、消費税増税を「大いに議論すればよい」といい、政府税調は“二ケタ税率が必要”と「中期答申」に明記しました。
もう一つの柱は、個人所得への課税強化です。〇四年度の「改革」では非課税だった遺族年金などを含む年金への課税強化が最重要課題にあがっています。さらにサラリーマンの給与所得控除の大幅縮小などがメニューにのっています。
完全失業者数が過去最悪を更新し続ける雇用については、「若年者の働く意欲を喚起しつつ」と述べ、悪化原因を若者の「やる気」に求めているのは不当です。打ち出した対策は「サービス産業を中心として、雇用機会の拡大を図る」ということのみ。
具体的には「五百三十万人雇用創出プログラム」ですが、これは小泉内閣が発足直後に示した計画と同じです。この二年間にサービス部門で増えた労働者は約九十二万人にすぎません。リストラ・人減らしと倒産増加で雇用情勢はかえって悪化しています。
なぜ同プログラムが描いたような雇用拡大が進まないのか、その検討も、雇用悪化についての大企業や政府の責任についての言及もありません。
介護などサービス分野は低賃金・不安定雇用です(東京労働局調査によると十九歳以下の社会福祉専門職賃金は全業種中最下位)。サービス分野の就労者が計画のように増えないのは当然です。
雇用改善には解雇規制と、次代を担う若者が自立して世帯を持てる労働条件の改善が必要です。
![]() 例会を楽しみに参加している年金者組合太極拳サークルの女性たち=神奈川県厚木市 |
「社会保障制度改革」では、「給付費の伸びを抑制する」ことを強調。年金や医療の給付引き下げや保険料の引き上げなどを列挙し、いっそうの国民負担を求める姿勢を鮮明にしました。
年金では、二〇〇四年に予定している「改革」の基本として、「早期の給付調整を図ること」を打ち出しました。すでに年金を受給している人も含めて、「人口や経済の状況変化」に応じて給付額を自動的に引き下げるしくみ(保険料固定方式)を導入する方針。支給開始年齢の見直し(繰り延べ)についても検討するとしています。
負担面では「保険料の引上げは早期に行う」と明記。未納・未加入者に対する「徴収の強化」も盛りこみました。
医療では、すべてのお年寄りから保険料をとる新しい高齢者医療制度の創設などを盛りこんだ「抜本改革」の「基本方針」(三月に閣議決定)を、「可能なものから極力早期に実施していく」としました。高齢者の医療費の抑制や保険がきく医療の範囲の見直しなども「早急に検討を行い、実施する」としました。
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「『国と地方』の改革」として、地方税財政の「三位一体改革」を盛り込みました。「国庫補助負担金の削減」「地方交付税の見直し」「地方への税源移譲」の三つを一体ですすめるものです。
具体策として、二〇〇六年度までに国庫補助負担金(一般、特別会計合わせ約二十兆円)を約四兆円廃止・縮減。地方には、削減額の約八割(義務教育費関係など義務的経費は全額)を税源移譲する、としています。
「骨太の方針」では、「三位一体改革」の目的について「地方の権限と責任の大幅な拡大」などをうたいます。しかし、国庫補助負担金は社会保障、文教関係費が約八割を占め、その二割分、約八千億円分が地方への新たな負担となります。義務的経費分は「全額移譲」といっても、「徹底的な効率化を図った上で」との条件つきで、いっそうの削減が前提です。
一方で、地方交付税では、どの自治体でも標準的な行政を保障する「財源保障機能」を縮小します。結局、政府の財政支出を極力削り、地方自治体に負担増、住民には福祉・教育の切り捨てを押しつけるものです。
「予算編成」のポイントは「歳出の思い切った重点化」です。来年度の予算編成のあり方について、「わが国は先進国中最悪の危機的財政状況」とのべ、「歳出構造改革」という言葉で、歳出の削減を今年夏の概算要求段階から推進することを強調しています。
財政赤字が深刻な状況なのですから、浪費をやめ、効率的な歳出に改めることは当然ですが、問題は、その方向です。
「抑制」すべき分野として、第一に社会保障をあげ、年金・医療・介護などの制度「改革」や「給付・コストの見直し」をするとしています。教育・文化分野でも、「既存の補助等の施策を見直す」「適切な受益者負担を求める」とし、私学助成の削減や、学費値上げなどを示唆しています。
一方、軍事費や公共事業など浪費の典型である大企業向けの歳出については、「(公共投資の)重点化・効率化」はいうものの、その削減については言及しておらず、逆に「民間主体の投資を喚起する政策」の重視をうたい、増強すらにおわせています。
この方向は、削る内容が逆立ちしており、国民生活を破壊し、いっそうの財政悪化すら招くものです。
小泉内閣が二十七日の閣議で決定した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(骨太の方針第三弾)の要旨は次の通り。
一、日本経済の体質強化
一、デフレの克服=デフレ傾向は根強く、早期克服が大きな課題。政府は日銀と一体となって強力かつ総合的に取り組む。集中調整期間の後には克服できるとみられる。
一、「三つの宣言」と「七つの改革」=「経済活性化」「国民の『安心』の確保」「持続可能な財政」の三つの宣言と、七つの改革に基づき強力に構造改革を推進。経済情勢によっては、大胆かつ柔軟な政策対応を行う。
現在の制度・政策を続ければ、債務が一層増大し、財政破たんに陥る恐れがある。民需主導の持続的な経済成長を実現すると同時に、政府全体の歳出を抑制することで、例えば潜在的国民負担率で見て50%程度をめどに、政府の規模の上昇を抑制する。
【構造改革への具体的な取り組み】
一、規制改革・構造改革特区=「規制改革推進のためのアクションプラン」の十二の重点検討事項で改革を進める。一般小売店での医薬品販売は○三年中に利用者の利便性と安全確保を十分検討し、安全上問題のない医薬品は薬局・薬店に限らず販売可能にする。
構造改革特区での株式会社の医療参入は、自由診療分野で高度医療を提供する病院、診療所の開設を可能とするよう関連法令を改正する。
一、資金の流れと金融・産業再生=○四年度に不良債権問題を終結させることを目指す。
一、税制改革=○六年度までに財政事情などを踏まえて必要な税制措置を判断する。
一、雇用・人間力の強化
一、社会保障制度改革=世代間・世代内の公平を図り、持続可能で信頼できる社会保障制度に改革。社会保障給付費の伸びを抑え、国民負担率の上昇を極力抑制する。
次期年金制度改正は恒久的な改革とする。持続可能な制度を構築するため、早期の給付調整を図る。保険料の引き上げは早期に行う。支給開始年齢の在り方は、雇用と年金の連携を考慮し検討する。
一、「国と地方」の改革=国と地方の明確な役割分担に基づいた自主・自立の地域社会からなる地方分権型の新しい行政システムを構築。国庫負担事業の在り方の抜本的な見直しに取り組むとともに、地方分権の理念に沿って国の関与を縮小し、税源移譲により地方税の充実を図る。
補助金は○六年度までに、おおむね四兆円程度をめどに廃止、縮減などの改革を行う。地方財政計画の歳出を徹底的に見直すことで、地方交付税総額を抑制し、財源保障機能を縮小する。
税源移譲は基幹税を基本に行う。補助金の性格などを勘案し八割程度を目安に行う。義務的な事業は、徹底的な効率化を図った上で所要の全額を移譲。○三年度予算の取り組みの上に立って○四年度予算の中で改革を着実に進める。
一、予算編成プロセス改革=事前の目標設定と事後の厳格な評価の実施により、国民に説明責任を果たす予算編成プロセスを構築。○四年度予算で新しい予算編成プロセスを「モデル事業」として試験的に導入する。複数年度にわたる「モデル事業」は、国庫債務負担行為などを活用することにより、予算執行に支障がないようにする。
【○四年度経済財政運営と予算の在り方】
一、経済財政運営の考え方=○六年度までの集中調整期間において、最も重要な課題は資産デフレを含めたデフレの克服。今後とも、金融システム不安を起こさせない。日銀は、できる限り早期のデフレ克服を目指し、実効性のある金融政策運営を行う。
一、○四年度予算における基本的な考え方=○四年度予算も歳出改革路線を堅持。国債発行額は極力抑制する。特別会計や地方を含め、政府の大きさを極力抑えることを目指す。