日本共産党

2003年6月27日(金)「しんぶん赤旗」

イラク戦争と世界

第2部 国際政治の本流を探る (6)

アジアが鳴らす警鐘


 「米国への批判ですね」。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国のある外務省高官に質問すると、「名指しで批判しないのがASEANの慣行です」と答えながら、「ユニラテラリズム(一国行動主義)を批判したものです」と付け加えました。

戦争は非合法化を

 カンボジアの首都プノンペンで六月十六、十七の両日に開かれたASEANの第三十六回外相会議。会議終了にあたって発表した共同コミュニケは「マルティラテラリズム」(多国間主義)と題する項目を設けました。この項目は初期の草案にはなかったもので、マレーシアの提案で追加されたといわれ、こう述べています。

 「国連憲章を含む国際法の諸原則を厳密に順守することの重要性を再確認する。この点で、平和と安定の維持、国際協力の強化における国連の中心的、不可欠の役割を強調する」

 ASEANがこの「マルティラテラリズム」を特別に強調するに至ったのには、それなりの経緯があります。

 対イラク戦争が迫る中で、マレーシアの首都クアラルンプールで二月に開かれた第十三回非同盟諸国首脳会議。議長役の同国マハティール首相は戦争の危険に強く警告し、「戦争は非合法化されるべきだ。武力行使は、国連管理下の多国籍軍が行うべきだ。どの国も世界の警察官となるべきではない」と強調しました。同国のアブドラ首相代行も開戦の三月二十日のテレビ演説で、米英は「多国間プロセスと国連憲章を露骨に無視した。世界の安全保障と安定が立脚する国際法に違反した」と非難しました。

 しかしASEANのすべての国がこうした立場をとったわけではありません。米国がイラク戦争への支持国を一カ国でも増やそうと必死の圧力をかけ、各国は重大な選択を迫られていました。そのなかでASEANは開戦直前の三月十九日、臨時外相会議で共通の立場を確認。議長声明で「武力衝突が始まった後でも、国連がなお果たすべき重要な役割を有する」と強調しました。

 結局、戦争支持を公然と表明したのはASEAN十カ国のうちフィリピンとシンガポールの二国にとどまりました。

 バグダッド陥落後、米国が各国に露骨な「論功行賞」を実施。公式の支持表明をしなかったタイを「懲罰」対象にしていることが米外交筋から報じられました。タイ紙ネーション五月五日付は社説で「米国に他国を懲罰する権利などない」「タイは主権、民主国家として自身の判断を示さなければならない」と反発しました。

強大な圧力へ抵抗

 大規模戦闘の終結後の五月、やはり対イラク戦争に反対したドイツのシュレーダー首相がマレーシアを訪問しました。歓迎夕食会で、マハティール首相は、「われわれ小国は今、テロの恐怖だけでなく、強国の一国行動主義の恐怖の中で生きている」と警告しました。同首相は対イラク戦争開始直後の三月二十一日にも、「おそらく、イラクの次はイラン、あるいはシリアかリビアか」と述べて、米国の「先制攻撃戦略」による一国行動主義を容認することの危険を指摘していました。

 ASEAN外相会議が強調した多国間主義は、米国の強大な圧力への抵抗から生まれた米一国主義への強い警鐘になっています。

 (ハノイで北原俊文)

 (つづく)


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