2003年6月23日(月)「しんぶん赤旗」
六月二十三日は、かつての沖縄戦で日本軍の組織的抵抗が事実上終わった日です。五十八年目の今年、「平和の島へ」の思いを誓い合うこの日を沖縄は、米国の新たな世界戦略のもとでの出撃拠点、それに伴う基地の重圧のもとで迎えます。 (田中一郎記者)
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ひめゆり平和祈念資料館(糸満市)。二百六人の遺影が掲げられた展示室で島袋淑子さん(75)は、深く頭を下げました。
ひめゆり学徒隊の数少ない生き残りの一人。同資料館で、来館者に戦争体験を語る証言員でもあります。体験を語る前には、かつての友人たちに「きょうもきたよ」の思いを込め、必ず頭を下げてきたといいます。
沖縄戦は住民を根こそぎ動員した戦争でした。ひめゆり学徒隊とは、沖縄戦で無理やり、負傷兵の看護や死体処理などで日本軍に動員された女子師範学校と県立第一高等女学校の生徒らのことです。多くは戦場を逃げまどい、命を失いました。
「戦争につながる一切のことを、私は許すことができません」。そう語る島袋さんの信念は、県民の三分の一近い、二十万余の命が奪われた沖縄戦を体験した県民共通の思いです。
また戦後、強いられてきた「基地の島」の現実への怒りでもあります。
戦後、沖縄を軍事支配した米軍は、県民の土地を強奪し、次々と基地を建設。祖国復帰(七二年)後の今も、本島面積の約二割が米軍基地です。
そして米ブッシュ政権のもとで沖縄は、テロ報復戦争と先制攻撃戦略に組みこまれた世界への出撃拠点にされています。
米空軍嘉手納基地(嘉手納町など)は、本紙の取材に、同基地所属のF15戦闘機約十機が、イラク戦争に参加していたことを明らかにしました。このとき約八百人が海外展開しており、その大部分が中東に駐留していたとしています。
また、米海兵隊普天間基地(宜野湾市)の航空管制部隊などがアフガニスタンなどでテロ報復戦争に参加していたことも明らかになっています。
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米兵による事件・事故も頻発しています。
五月二十五日には、米海兵隊キャンプハンセン(金武町など)所属の海兵隊員が、金武町で女性を暴行し、傷害を負わせた事件が発生しました。
「基地は出ていけ。みんなそう思ってるさ」。キャンプハンセン近くでスナックを経営する男性(52)は怒りを隠しません。「週末の夜になると若い米兵は町で、けんかなどトラブルを起こす。店では暴れて、ものを壊す。商売にならんから、うちの店は米兵は絶対、入れない」
「またか」。事件発生を知ったときの衝撃を町幹部はこう語ります。
九五年の少女暴行事件で、いったん減少した米軍関係者の事件は年々増加。昨年の検挙人数は百人で、過去十一年間で最悪です。(グラフ参照)
今年の米軍関係者による事件と米軍機の部品落下や緊急着陸などの事故は、すでに八十六件(十八日現在。沖縄県まとめ)に達しています。(左上の表参照)
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事件・事故が繰り返されるのは、根源である米軍基地の撤去と、日米地位協定の抜本改定という県民の切実な願いを、日米両政府が踏みにじってきたからです。
九五年の暴行事件への県民の怒りは復帰後最大のうねりとなり、同年十月の県民総決起大会には、八万五千人もの人々がつめかけました。大会が掲げた要求は、米軍基地の整理・縮小と地位協定改定でした。
基地の整理・縮小にかかわって、両政府が九六年に合意した特別行動委員会(SACO)最終報告は、普天間基地など十一施設の「返還」をうたいました。しかしその内実はほとんどが県内移設。しかも最新鋭の基地を提供し、米軍基地を固定化・強化するものでした。
地位協定は、米兵が犯罪を犯した場合、「公務内」と米軍が認定しさえすれば、日本側が身柄確保できない仕組みになっています。「公務外」でも、基地に逃げ込めば、起訴するまで米側が身柄を確保するという屈辱的なものです。このため、犯罪米兵が基地に逃げ込み、そのまま国外に逃亡したこともありました。
九五年十月に両政府は、協定には手をつけず、その運用改善で合意しました。その内容は、「凶悪犯罪」に限り、起訴前の身柄引き渡し要請に米側が「好意的考慮を払う」としただけでした。
こうした両政府への県民の怒りは根強いものがあります。
SACO合意にもとづく基地「返還」は、移設先の住民の抵抗をうけ、実現できているのは安波訓練場だけ。
目玉としていたのは普天間基地の名護市沖移設でしたが、同基地を抱える宜野湾市の市長選で「県内移設反対」を掲げる伊波洋一候補が当選しました(四月)。県内移設推進の候補陣営の与党県議は「だれだって基地はあるよりない方がいいに決まっている。沖縄の世論調査は、常に『県内移設反対』が『賛成』より多い。その反映だ」と敗因を分析します。
地位協定改定でも、党派を超えた動きが進みつつあります。
稲嶺恵一知事は、米軍基地を抱える各県への要請行動を六月から開始。
県議会の伊良皆高吉議長のよびかけで開かれた議会全会派の代表者会議では、超党派による県民大会開催の必要性について大筋合意しました。日本共産党の外間久子県議団長は「知事が本気で改定しようというなら、国民が注目しているこの時期を逃すべきではない」と大会の早期開催を主張。日本共産党は、草の根からも大会開催を求める運動を強める構えです。
伊良皆議長はいいます。「沖縄戦後の今も、県民の人権が、軍隊によって無視されることもある。これを黙って見ているわけにはいかないのです。人権はだれにも保障されるべきだ。米軍だけがなぜ特別扱いなのか」
1月17日 伊江村で米軍車両が警察車両に衝突。警察官が全治1週間のケガ。
1月18日 米海軍所属のP3C機が、普天間基地内に墜落位置通報装置を落下。
2月8日 沖縄市の民家に米海兵隊員が酒に酔い、住居侵入。
2月18日 米軍属男性が韓国から拳銃を持ちこもうとし、銃刀法違反容疑で書類送検。
2月21日 米海兵隊員が米国から大麻を持ちこみ、大麻取締法などの罪で起訴。
2月23日 キャンプハンセン所属の兵士が、沖縄市の保育所のガラス戸を叩き割る。
2月27日 伊江島補助飛行場でのパラシュート降下訓練で陸軍兵1人が基地外に降下。
3月15日 読谷村で米海兵隊員が酒酔い運転で追突事故。
3月16日 名護市で米軍属が酒酔い運転で普通自動車に衝突し、相手が死亡。
3月29日 沖縄市内で米海兵隊員が酒に酔い、アパートに住居侵入。
5月13日 嘉手納基地所属のヘリ1機が、渡名喜島に緊急着陸。
5月13日 嘉手納基地所属のヘリ1機が、神山島に緊急着陸。
5月20日 伊江島補助飛行場でのパラシュート降下訓練で陸軍兵5人が基地外に降下。
5月24日 米海兵隊員がヘルメット無着用でオートバイに乗ろうとし、職務質問した警官に暴行。
5月25日 米海兵隊員が金武町で女性に性的暴行を加え、傷害を負わせる。
5月31日 米海兵隊員がタクシーに乗車し、料金を支払わず逃走。
6月1日 米海兵隊員が窃盗した車を乗り回し逮捕。
(6月18日現在。沖縄県まとめ)