日本共産党

2003年6月12日(木)「しんぶん赤旗」

見つからないイラク大量破壊兵器

揺らぐ戦争正当化の理由


 米英がイラク戦争の最大根拠にした大量破壊兵器。それがいまだに見つからないばかりか、米英政府が「証拠」の情報操作をした疑いが浮上。根拠が確実でないまま世界を欺いて戦争に突き進んだ米英政府に責任追及の火の手があがっています。


下院で証人喚問調査決定

 「知りながらうそをついていたならブレア首相は辞任すべきだ」。ヒーリー英元蔵相は新聞紙上で公然と批判しました。

 報道機関も「国民はだまされたと感じ、首相の信用全体が危うくなっている」(デーリー・ミラー紙)と追及の火の手をあげています。

 イラクの大量破壊兵器についての英政府の「証拠文書」(昨年九月公表)には開戦前から信ぴょう性の問題点が指摘されていました。最近になって、それに政府が誇張や情報操作を行った疑いが報道され、ブレア首相は窮地にたっています。

 首相は「政府が操作した証拠は何一つない」と開き直ったものの、議会調査には同意せざるをえなくなりました。

 下院にはこの問題を調査する情報安全保障委員会が設置されました。すでに政府文書の基礎になった情報資料の提供を政府に求めています。

 調査の結果は首相に報告され、首相は報告を公開するとしています。ただ委員が首相任命で審議が非公開のため、独立した調査を要求する声も高まっています。下院外務特別委員会は閣僚も含めて公開で証人喚問する権限のある調査を決定しています。


超党派で疑惑解明へ動き

 ブッシュ米大統領は九日、閣議後の記者会見で、「イラクは兵器(開発)計画を持っていた」「これは十年間にわたり、情報当局が明らかにしてきた。私は確信している」と述べ、いまだ発見できないイラクの大量破壊兵器を見つけてみせると大見えを張りました。

 イラクでの「戦闘終結宣言」から一カ月余。同宣言で高らかに勝利をうたったブッシュ政権は、こうした自信とは裏腹に、政治的に守勢に回っています。戦争遂行を正当化した最大の根拠が揺らいでいるからです。

 大量破壊兵器がみつからない問題では、連邦下院の軍事委員会が調査を開始し、情報委員会も公聴会を開く可能性があり、超党派で疑惑解明が行われようとしています。とくに民主党は「国家と大統領の信用は危機にある」(レビン上院議員)「政権がごまかしとデマの行動パターンに従事している」(グラハム上院議員)と批判のトーンを強めています。

 国防情報部(DIA)が昨年九月にまとめた機密報告書の内容が一部米報道機関にもれました。

 それによると、同機密報告は、イラクが大量破壊兵器を保有している「信頼できる証拠はない」と記述されています。確かな証拠もないまま、ブッシュ政権が戦争を強引におこなった疑惑が濃くなっています。

 国務省情報担当の元責任者は、「私が深く困惑したのは、情報当局が説明したことを、政権のトップが不誠実に」ねじ曲げたことだと指摘。さらに、「(イラクの)核開発問題やアルカイダとの関係について、証拠が欠けていたにもかかわらず、(そのことの)議論は無視された」として、秘密情報機関の報告を誇張した政権指導部に責任があると主張しています。

 機密報告が提出された昨年九月、下院軍事委員会の公聴会で証言したラムズフェルド国防長官は、「イラクの政権は生物・化学兵器を保持している」と断言しています。

 七日付のニューヨーク・タイムズ紙は、匿名の情報分析担当者の話として、米政権が現在、大量破壊兵器発見の証拠としてあげる移動式生物兵器製造施設についても、他の目的のためのものであると疑問視していることを報道。分析担当者の「みんながスモーキング・ガン(決定的証拠)を発見したがっていたので、このような(分析)結果となった。これには非常に憤っている」とのコメントを紹介しています。(ワシントンで遠藤誠二)


新聞・雑誌が政権の責任追及

 ブッシュ米政権がイラクの大量破壊兵器保有に関する情報を不正操作したとの疑惑について、米英の代表的報道機関が一斉に大型特集を組み、その責任を追及しています。

 米誌『タイム』九日号は「大量消滅兵器」と題する記事を掲載し、米政権関係者を取材した結果として、米政府の姿勢には(1)最悪の事態想定を事実として扱う(2)あいまいさを飾り立てる(3)誤りをごまかすという「三つの要素」があると指摘。さらに「消えた大量破壊兵器が見つけられない限り、米国大統領が秘密情報機関の情報の解釈に依拠して次の戦争をしかけることができるようになるには長い時が必要となろう」と述べ、戦争についての政権の信頼が大きく揺らいでいることを明らかにしています。

 ジョン・ディーン元米大統領法律顧問はインターネット・サイト「ファインド・ロー」への寄稿で、非難の対象が見つからない限り「政府高官たちは失敗の責任を逃れることはできないだろう」と述べています。

 同氏は「ブッシュが偽造した情報にもとづいて議会と国を戦争に引き込んだのであれば、彼は助からない。国家安全保障秘密情報データを操作あるいは意図的に不正使用することは、もし証明されれば、合衆国憲法の大統領弾劾条項にいう『重罪』となるだろう」と強調しています。

 米誌『USニューズ・アンド・ワールド・リポート』九日号は、現在も続いている大量破壊兵器捜索で「これらの情報から結局は何もないとなったらどうなるのか? ある政府高官は『諜報(ちょうほう)の大失敗となるだろう』と述べた」としています。

 米誌『ニューズウィーク』九日号は「世界への戦争(過剰)売り込み」と題する記事を掲載。米政権は「大多数の米国民を納得させる」ために大量破壊兵器の貯蔵やテロリストとの結び付きを主張したのだから、「多くの人々がイラクの米軍部隊がなんらの大量破壊兵器を見つけられないことに困惑し、あるいはいらだっていることは当然のことだ」と述べています。

 英紙ガーディアン四日付は「ブレア首相にただすべき十の決定的疑問」を掲載。ラムズフェルド米国防長官が最近になって、フセイン大統領が戦争前に兵器を破壊したかもしれないと述べたことは「英政府の立場を台無しにした」、「戦争開始後、英米の諜報機関は、例えばイラク政府とアルカイダとの関係などをめぐって衝突を繰り返している」と指摘しています。


疑問深まる米英の「根拠」

 イラクが大量破壊兵器(核・生物・化学兵器および射程百五十キロ以上のミサイル)を保有していたとする米英政府の「根拠」自体に大きな疑問が投げかけられています。

◇「アフリカからの大量のウラン購入」

 ブッシュ大統領は今年一月の一般教書演説で「英国政府は、フセイン(政府)が最近相当量のウランをアフリカ(ニジェール)から入手しようとしたことを知った」と述べました。

 イラク開戦前の三月七日に安保理に提出した文書で国連査察団は米政権の主張の根拠となった文書が偽物だったことを明らかにしました。米誌『ニューズウィーク』最新号(六月九日)は改めて、この文書が偽物で「文書に記されていたニジェールの外相の名は十年以上も前に辞任した人物だった」と述べています。

◇アルミ管問題

 一般教書はまた、「核兵器生産に適した高強度アルミ管」の保有を指摘しました。査察団はこれについても、核兵器製造用ではないと結論を下しました。『ニューズウィーク』は「米政府の諜報(ちょうほう)専門家ははじめから疑問を抱いていた」とし、「国務省情報調査局(INR)はこの管がロケット弾発射装置に使われるものだと結論づけていた」と指摘しました。

◇移動式生物兵器開発施設

 パウエル米国務長官は二月五日の安保理で「イラクは少なくとも七台の移動式生物兵器開発施設を所有している」と強調しました。査察団はイラクが申告済みの施設だと安保理に報告。英BBC放送によると、その後、この種の車が三台発見され、米中央情報局(CIA)はあくまで生物兵器製造用だったと主張しています。しかし、専門家は「バルーン兵器」用の酸素製造に使われたものだとみています。

 生物・化学兵器や「スカッド」ミサイル

 一般教書演説は「米情報当局者はイラクがサリンやマスタードガス、VXガスを計五百トン製造できる物質を持っていると推定している」とのべました。また、パウエル長官は二月五日、「保有を禁じられている射程六百五十―九百キロのスカッド・ミサイルを数十基持っている」と述べました。

 米各誌はそうした生物・化学兵器用の物質や製造所、ミサイルはなんら発見されていないと指摘。『USニューズ・アンド・ワールド・リポート』は「化学兵器はない、西部砂漠地帯にスカッド・ミサイルもない、生物兵器もない。ブッシュ政権のフセイン非難は誇張されたものではなかったか」と指摘しています。

◇「四十五分で配備、使用可能」

 ブレア英首相は開戦前、「イラクは四十五分で大量破壊兵器を配備、使用できる」と述べました。これはイラク人亡命者からの報告を唯一の根拠にしていることが明らかになりました。首相の主張となる根拠はみつかっていません。


米英をうのみにした日本

 対イラク武力行使への支持取り付けが行き詰まる中、パウエル米国務長官は二月五日、国連安保理外相級会合でスパイ衛星写真や盗聴テープまで示して「証拠」を列挙、フセイン政権の「疑惑」を指摘しました。

 しかしこれに同調したのは常任理事国の中では英国のみ。「この問題で明確な証拠をつかむのは極めて難しい。だからこそ査察を強化する必要がある。事実が必要だ」(ドビルパン仏外相)など、大部分の安保理国は証拠が薄弱だとして納得せず、査察継続を求めました。

 ところが、小泉首相は翌六日「疑惑はさらに深まった」とこのパウエル報告をうのみにし、「国際社会の一員として、米国の同盟国として責任ある対応をしていかなければならない」と語り、武力行使への支持を表明しました。


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