2003年5月18日(日)「しんぶん赤旗」
|
英国のブレア政権が「高等教育改革」と称して大幅な学費値上げを提案し、学生団体や労働党支持者から強い反対の声があがっています。こうした中、野党の保守党が大学の学費無料化政策を打ち出し注目を集めています。(ロンドンで西尾正哉 写真も)
大学の学費値上げ案はクラーク教育相が一月の教育白書で明らかにしました。二〇○六年に導入を目指すという同案の主な内容は(1)全国一律、親の収入に応じて最高年千百ポンド(約二十万九千円)に抑えられている学費(日本のような入学金はない)を廃止する(2)代わって各大学が最高で三千ポンド(約五十七万円)を上限に年間の学費を決める(3)支払いは卒業後一万五千ポンド以上の年収を得るようになってから月々行う、というもの。同時に、年間千ポンド(約十九万円)の無償奨学金を復活させ、三分の一の学生に支給することも提案しています。
政府の言い分は“貧困家庭からの低い大学進学率を改善するため”というものですが、学生たちからは反対に、“借金が増えて貧困家庭からますます大学に入れなくなる”という声があがっています。
五百万人以上の学生を組織する全国学生自治会連合(NUS)は強く反対。昨年十二月には二万三千人の学生がロンドンの中心をデモ。三月五日には、全国七十大学から約三百人が国会請願行動に結集しました。
国会請願行動に参加した、ロンドン近郊のサリー大学の学生トニ・ボルネオさん(22)は「学費や生活費を稼ぐためにアルバイトを余儀なくされる学生が増え、その割合は30%になっている。夜の仕事が多く、授業についていけなかったり健康を害し退学する学生もいます」と指摘。「政府の提案では学生の負担が三倍にもなる」「入学したその日からアルバイト漬けだ」と批判しました。
卒業し一定の収入を得てから学費を払うという案も結局、借金が増えるだけで貧困層にとって大学進学を抑止する要因になると学生たちは指摘します。
イングランド南部のチチェスター大学学生自治会専従副委員長のアデン・ジャミル君(22)は昨年卒業しました。現在一万二千ポンド(約二百二十八万円)のローン(利子付奨学金)の返済中です。「高収入の仕事につければ早く返済できますが、ボランティアの仕事などでは相当かかります」といいます。
英国の大学授業料は一九九七年までは無料でした。しかしブレア政権が学費を導入。労働組合や同党の支持層から反対が強く、今回の三倍化は同党議員からも批判の声があがっています。
野党の保守党イアン・ダンカンスミス党首は十三日、「学業への課税である大学の学費を廃止する」と表明しました。ただ、この提案には「歓迎だが、保守党は教育予算を増やさない分、学生の総数を削ろうとしている。結局は教育は一部のものになる」との懐疑的な声も多くの人からでています。
政府の提案は学生への攻撃です。英国の教育をエリートとそうでない層との「二層システム」へと逆戻りさせるものです。お金があればどの大学のどのコースも取れる。しかしそうでないと学ぶのが非常に困難になるというものです。
政府の提案では、学生は学力ではなく経済力で判断されるようになってしまうからです。これは教育の本来のあり方ではなく、学生をまるで商品にするようなものです。
政府は、高等教育への参加層を広げるといいますが、学費に関する提案はそれに矛盾します。無償奨学金の復活は歓迎ですが、資格が厳しすぎて、援助を受ける学生が少なくなることを危ぐしています。
NUSは学費の廃止を求めて運動してきました。政府は“学費を廃止した”といいますが、結局は払う時期をずらしただけです。学生が豊かなら卒業時に全額支払い、利子もつかないでしょう。しかしそうでないと卒業後、利子分まで返さなければならないのです。
英国では一九九七年まで高等教育は無償でした。学費を導入したのはいまの労働党政府です。ブレア首相は選挙ではそうしないといっていたのにウソをついたのです。高等教育改革を提案しているクラーク教育相はかつてNUSの委員長でした。学生たちには裏切られたという思いが強く、とても失望しています。
学生自治会全国連合(National Union of Students=NUS)全国の大学、高等教育機関の七百二十学生自治会(五百二十万人)が加盟。ロンドンの本部には百人以上の有給スタッフが働く。