日本共産党

2003年5月7日(水)「しんぶん赤旗」

どうなった イラク「大量破壊兵器」


 “イラクの大量破壊兵器をなくすため”として米国が始めたイラク戦争。肝心の大量破壊兵器がいまだに見つからず、米国の主張した戦争正当化の根拠が揺らいでいます。開戦前、イラクには大量破壊兵器があったのか、国連の査察による問題の平和的解決の道を断ち切った米国の狙いは−。この問題を徹底検証しました。(ワシントン浜谷浩司、外信部 伴安弘)

戦争しても出てこない

 薄暗い貯蔵庫に並ぶドラム缶。テレビカメラがアップでとらえます。

 記者 「結果は?」

 米兵 「何のこと?」

 記者 「何のことって、化学兵器でしたか?」

 米兵 「そんなものはないよ」

 記者 「え? きのう可能性が高いって言ったじゃないですか」

 「出た」「まだない」−−米国の報道各社は、米軍のイラク侵攻開始以来、何度も繰り返してきました。冒頭のやりとりは、あるテレビ局が報じた生中継の一コマです。

 米軍がイラクで血まなこで探し、それでも見つからない大量破壊兵器。「控えめに見ても、イラクは化学兵器用の原料を百ないし五百トン貯蔵している。これは戦場で使うロケット一万六千発分にあたる」。パウエル米国務長官は二月五日、国連安保理での演説でこう断言しました。その言葉は、いま宙に浮いたままです。

 ブッシュ米大統領は一日、空母エイブラハム・リンカーン艦上でこの問題での困難を認めてこうのべました。「米国は隠された化学・生物兵器の捜索を開始しており、調査すべき数百カ所を知っている」

 大統領はその一週間前にも「数百カ所」と述べています。その直後に、ホワイトハウスの記者会見(四月二十五日)で、こんなやりとりがありました。

 フライシャー報道官「大統領が述べたのは、イラクが一部を隠したかもしれない、一部を破壊したかもしれない、一部を分散させたかもしれないということだ」

 記者「『かもしれない』ばかりで、兵器保有を示す決定的証拠はないわけだ。これでは、イラク戦争の基本的前提の一つが危うくなるのでは?」

戦争正当化の旗印だったが…

 「フセインを武装解除する」。ブッシュ政権がイラク戦争を国際的に正当化するための唯一の旗じるしでした。

 もちろん、イラクが大量破壊兵器を明らかに保有していたとしても、武力侵攻は正当化できません。しかし、そもそも大量破壊兵器を保有していなかったら……。ブッシュ米政権は追い詰められたかっこうです。

 国連査察団は、イラクが大量破壊兵器を保有していると結論づけたことはありません。にもかかわらず、米国はイラクが保有しているといい続けてきました。

 国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長は米国の意図に強い疑念を表明しています。「戦争がかなり前から入念に計画されてきたことを示す証拠がある。大量破壊兵器問題は二の次、三の次となった」

 ブッシュ大統領は二月末の演説で、イラク戦争の真の狙いが「フセイン独裁打倒」「体制転換」にあるとの本音を明かしました。しかし、他国の政治体制を勝手に「転換」するなど、国連憲章と国際法で認められるものではありません。そこで「大量破壊兵器による脅威」は、イチジクの葉のように、戦争を「合法」化するための道具立てにされたのでした。

米の「証拠」次々破たん

 ブッシュ大統領は一月二十八日の一般教書演説で、イラクが核兵器を開発していると強く主張し、「英国政府は、フセインが最近、相当量のウランをアフリカから入手しようとしたことを知った」と述べました。

 ところが、国連による査察は、この主張を打ち砕きました。

 「調査結果によると、イラクが近年、ニジェールからウラン購入を図ったとの報告は、複数の国が提供したニジェールとイラクとのウラン売却合意に関する文書なるものによっている」「全面的な分析によって、ウラン購入の報告の基礎となったこれらの文書は本物ではなく、疑惑には根拠のないことが結論づけられた」(IAEAのエルバラダイ事務局長が三月七日国連安保理に提出した文書)

 それだけではありません。査察団は、一般教書演説が言及した「核兵器生産に適した高強度アルミ管」についても、イラクの主張通り、ロケット生産用だと断じました。

 核兵器疑惑はねつ造文書にもとづいてつくりあげられていたことが、国連査察団の活動によって明らかにされてきているのです。それは、イラクの大量破壊兵器に関するブッシュ政権の主張が、国連査察によって根拠が次々に破たんし、ぼろぼろになっていることを物語っています。ブリクス委員長は、査察団の活動を傷つけるため、両国が情報流出を認めていたとの見方すら示唆しています。

国連の検証が不可欠

 「イラクは解放された。国連はイラクの経済制裁を解除すべきだ」。ブッシュ大統領は四月十六日、対イラク制裁の解除を迫りました。

 米国は、自国の出費を抑え、イラクの石油を利用するためにも、米国主導の「復興」を急いでいます。国連の経済制裁はその障害となっています。しかし、国連が決定した経済制裁は「体制」のいかんにではなく、大量破壊兵器の保有にかかっています。しかも、廃棄を確認するのは、国連でなければなりません。

 ロシアのプーチン大統領は二十九日、「イラクへの制裁は、大量破壊兵器保有の疑惑をもとに課せられている。疑惑がなくなって制裁は解除しうる。解除できるのは、国連安保理だけだ」と明言しました。

 フランスは二十二日、民生関係の経済制裁を「一時停止」するよう求めました。しかし最終的な制裁解除には、国連査察団の報告とそれにもとづく安保理決議が必要だとしています。

 米政権も、大量破壊兵器を発見する必要性を認め、国防総省は探索要員を千人も増やしました。しかし、あくまで米国がやる、国連は手出しするなという態度です。

 フライシャー米大統領報道官は四月二十二日、「米国と有志連合が、イラクの大量破壊兵器を破壊する責任を引き受けている」と言明。ボルトン国務次官も五日、モスクワで記者団にたいし、イラクの大量破壊兵器の探索では「当面、国連(査察団)のでる幕はない」と述べました。

 これには、国連から強い批判が出ています。

 ブリクス委員長 「イラクへの制裁体制に影響を及ぼす安保理諸決議の前提として、UNMOVICとIAEAによる評価と結論が必要だ」

 エルバラダイ国際原子力機関(IAEA)事務局長 「IAEAは、イラクの核軍備解体を検証するための、核不拡散条約(NPT)と継続的な安保理決議の双方に由来する合法的な権限を持つ唯一の機関だ」

 アナン国連事務総長もこう述べています。「査察団の任務は安保理が修正しない限り生きている。査察団が任務を継続できるよう希望する」

 ブッシュ政権は今後、米国だけで「探索」をつづけて、新たな「証拠」なるものを出してくるかもわかりません。しかし米国にしても、たとえば国連決議一四四一を順守する立場を捨てないかぎり、国連による査察と判断を否定することはできないはずです。

「武装解除は90%達成」

 一九九〇年にクウェートを侵略し九一年の湾岸戦争で敗北したイラクに対し、国連安保理は核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器の廃棄を求める決議を採択。これに基づいて九一年から九八年までと、昨年十一月から三月二十日の開戦直前まで、国連査察団による査察が行われました。

 九八年までの査察に国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)主任査察官として参加したスコット・リッター氏は九八年までに「大量破壊兵器の能力は90−95%まで検証可能な形で廃棄された」と断言。「残りの5−10%」についても「イラクが一方的に廃棄したことで(国連による)検証の精度が揺らいだ」ものの、「脅威になるわけではない」とし、「九八年以降のイラクは国連決議が求めたレベルまで武装解除されたといえる状態にある」と断言していました。

 開戦直前まで査察に当たった国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)と国際原子力機関(IAEA)は国連への報告で、「どのような大量破壊兵器も発見していない」「イラクが核兵器計画を再開したとの証拠はない」と述べ、未解決の問題は「査察を数カ月続けることで解決できる」としていました。

イスラエルの核には「無言」

 「イラクの武装解除を要求しながら、なぜイスラエルを大目に見るのか」(アラブ連盟国連代表)。イラク問題を討議した二月十八日の国連安保理公開討議で、イラクに厳しくイスラエルに甘い米国の「二重基準」をアラブ諸国が厳しく非難しました。

 仏紙ルモンドによると、イスラエルは生物・化学兵器を貯蔵し、その活用と「精選化」計画をもっており、推定百−百七十二発の核弾頭を保有しています(同紙四月二十−二十一日付)。

 ところが米政府は、イスラエルによるこうした兵器の保有事実を認めることを拒否しています。

 イスラエルの核兵器保有については、すでに一九七〇代に米中央情報局(CIA)やフランスの原子力当局者が「保有している」との結論を出していました。一九七三年の第四次中東戦争ではイスラエル政府が原爆使用の準備命令を下し、二十キロトン原爆十三発が戦闘爆撃機に積み込まれたといいます(スティーブ・ワイスマン/ハーバート・クロスニー共著『イスラムの核爆弾』)。湾岸戦争時の九一年二月にはカーター元米大統領もイスラエルが八十五発の核兵器を持っていると述べていました。

 国連総会は九〇年十二月四日、「イスラエルの核武装」にかんする決議を賛成九八、棄権五〇で採択しました。この決議は、国連安保理などの度重なる警告にもかかわらずイスラエルが核兵器の製造や入手を行わないと約束することを拒否していることを深く懸念し、核兵器を保持しないとの約束を拒んでいる同国を非難したものです。米国とイスラエルだけがこの決議に反対しました。

 大量破壊兵器保有を問題にした米国は、自らはイラク戦争で殺傷・破壊能力を強めた新型の残虐兵器を大規模、かつ無差別に使用しました。


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