日本共産党

2003年4月13日(日)「しんぶん赤旗」

徹底検証 イラク侵攻

人類が築き上げた平和のルール

秩序破壊したアメリカ


 米国は、圧倒的な軍事力でフセイン政権を事実上の崩壊に追い込み、軍事占領を米国主導ですすめようとしています。二十世紀に人類がつくりあげてきた平和の国際秩序に照らして、この戦争がどう断罪されるか検証しました。

国連憲章の出発点の否定

 「米国は、みずからの国家安全保障を確かなものにするため、武力を行使する至上の権利をもっている」(ブッシュ米大統領の対イラク最後通告)

 米国が宣言した戦争目的は、イラクのフセイン政権の「脅威」を除くとの口実で、一方的に戦争を仕掛けてフセイン政権を打倒することでした。「自衛」のためといいますが実際には国際法上許されない侵略の合理化です。

 過去、多くの侵略戦争が「自衛」を口実に行われてきました。しかし、まさにそういう戦争をしてはならないことを確認したのが国連憲章でした。

 第一次世界大戦のあと、不戦条約(一九二八年)で「国際紛争解決のため戦争に訴える」ことが一般的に禁止されたもとで、日本やドイツの侵略戦争が「自衛」を最大の口実にしてすすめられました。

 日本は、「自衛の必要上」(関東軍への勅語)として中国東北部に侵略。さらに、「重大なる脅威」にたいする「自存自衛」(宣戦の詔書)のためとして太平洋戦争に突入しました。

 数千万人の犠牲と荒廃をもたらした侵略戦争の断罪のうえにつくられた国連憲章は、「自衛」と称して戦争をおこなう余地をいささかも残さないために、「武力の行使」だけでなく「武力による威嚇」も禁止しました。

 例外として武力行使が認められるのは、実際に「武力攻撃が発生した」場合の反撃と、安保理が国連の集団的措置として決定した場合だけです。

 国連憲章はまた、世界大戦が他国の内政への干渉からはじまった歴史的教訓にたって、すべての国の主権平等と内政不干渉を厳しく定めています。

 イラク戦争でも「自衛」が叫ばれました。しかし実際におこなわれたのは、これを口実に先制的な戦争によって他国の政権を打倒することでした。これは国連憲章の根本をくつがえすものです。

 米国のボルトン国務次官は九日、イラン、シリア、北朝鮮など米政府が「ならず者国家」と決めつけてきた国にたいし「イラクの事態から教訓を引き出す」よう警告しました。

 また、イラク戦争の「先例」は、武力によってパレスチナ自治政府のアラファト指導部の打倒をはかってきたイスラエルをさらに勢いづかせかねません。

 米支配層の中からも、「われわれを植民地主義者の立場に立たせる」(クラーク米元陸軍大将)など危ぐの声が出ています。

発展した国連憲章踏みにじる

 国連憲章の諸原則は、植民地が次々に独立した戦後の世界の中で、豊かな発展をみせました。

 とりわけ、一九七〇年の「友好関係原則宣言」は、武力不行使、紛争の平和的解決、内政不干渉、人民の自決権、国連憲章の順守義務など、国連憲章の諸原則を詳しく展開しました。アメリカの侵略は、国連総会が全会一致で確認したこれらの原則をすべて踏みにじっています。

 また、一九七四年に国連総会が全会一致で採択した「侵略の定義」は、先制攻撃を侵略のさしあたりの「証拠」としました。

 世界人口の約八割を占める非同盟諸国(正式加盟百十六、オブザーバー十六カ国)や、イラクの隣国を網羅するアラブ連盟(二十一カ国とパレスチナ)が、米英の武力攻撃を「侵略行為」「侵略」として厳しく批判したのは当然でした。

 アラブ連盟の外相会議は、一カ国の保留を除く全会一致で採択した決議(三月二十四日)で、こう糾弾しました。

 「この軍事侵略は、国連憲章と国際法の諸原則への違反行為であり、国際的合法性からの逸脱であり、国際の平和と安全にたいする脅威であり、紛争の平和的解決と国際的合法性を求める国際社会と国際世論にたいする挑発である」

大量破壊兵器廃棄は悲願

 大量破壊兵器の廃絶は人類の悲願です。米英の侵略は、二十世紀をかけてつくりあげてきた平和的な廃絶の道をも乱暴に踏みにじるものです。

 化学兵器は第一次世界大戦でドイツと連合国の双方の側で使われ、百万人以上の死傷者をもたらすという悲惨な体験を経て一九九三年に化学兵器禁止条約が調印されました。同条約は、発効(九七年)から十年以内に保有している化学兵器や生産施設の全廃を義務付け、監視のための査察制度を規定しています。

 生物兵器については、一九七二年の生物毒素兵器禁止条約が全面禁止とすみやかな廃絶を規定し、九五年になって査察を義務付ける議定書の交渉を開始。現在、条約強化をはかる動きが出ています。

 核兵器については全面禁止や廃絶を規定した条約はまだありませんが、二〇〇〇年の核不拡散条約(NPT)再検討会議で、核兵器の完全廃絶の「明確な約束」が明記され、廃絶は世界的緊急課題という考え方が広がっています。

 イラクの大量破壊兵器問題も、この道にそった査察による廃絶のとりくみが「あと数カ月」(ブリクス国連監視検証査察委員会委員長)というところまできていました。

 それを無理やり断ち切った米英の侵略は、大量破壊兵器問題の平和的な解決の仕組みそのものを台無しにしかねないものです。

浮かび上った国連の役割

 米英のイラク侵略によって国連が敗北したように描く論調があります。しかし、国連の役割、機能はむしろかつてなく高まっています。国連は、イラク侵略に道理がないことを浮き彫りにするうえで、決定的な役割を果たしました。

 あれほどあからさまな侵略戦争だったベトナム戦争で、国連がなんらの役割も果たせなかったこととは対照的です。

 今回、国連安保理は、武力行使容認を盛り込んだ米英の決議案を拒否して、査察による平和的解決の道筋を明確にした決議一四四一の採択に持ち込みました。さらに査察打ち切りと武力行使に道をひらく決議案を米英に断念させました。非同盟運動諸国の要求によって、安保理の公開討議が三回にわたって開催され、国連の枠内での平和的解決を求める国が、世界の圧倒的多数であることを示しました。

 今回の反戦デモは、開戦前から世界で一千万の参加者に達する大きな盛り上がりを示しました。アメリカの無法を許せば世界はめちゃくちゃになるとの思いが世界の人々を一つにしたのです。

 先制戦略にもとづく「ブッシュの戦争」はイラクで終わりではなく、むしろ始まったばかりです。二十世紀の成果にたって逆流を許さず、二十一世紀の国際の平和秩序をつくっていくたたかいも始まったばかりです。

 (党国際局 小島良一)


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