日本共産党

2003年4月9日(水)「しんぶん赤旗」

高校教科書検定


 八日公表された高校教科書の検定。文部科学省は批判に押され「発展的な学習」を認める措置をとったものの、検定意見の厳しさは相変わらずです。「発展」は「できる生徒」用として限定し、日本政府やアメリカに批判的な表現は細かくチェック、規制しました。


日本共産党はこう考えます
 日本共産党は、現在の検定は教科書の内容をよくすることには役に立たず、かえって学問・表現の自由を侵し、教育に対する国家統制を強めていると批判。違憲の検定制度をやめ、執筆者の自由な発想と創意で子どもにとって魅力的な教科書を作れるようにすることを主張しています。憲法を公然と批判したり、明らかに真理・真実と異なるものなどは教科書にふさわしくありません。こうした立場から、検定に代わる、専門家による教科書認定の仕組みを提案しています。

指導要領にしばられる

 文科省は前回の検定まで、教科書が学習指導要領通りかを細かくチェック。とくに理科は「指導要領に照らして不必要」との検定意見が多数つけられ、「進化」など指導要領にない内容が削除されました。このため「大事な内容が削られた」「断片的で系統性がなく、分かりにくい」との批判が噴出。検定外教科書を作る運動も起きました。

 文科省は急きょ今回の検定で、指導要領にない内容でも「発展的な学習内容」として、本文と区別して書けば認めると方針転換しました。「指導要領に照らして不必要」との意見は激減。編集者の間には「新しい指導要領で抜け落ちた重要な内容を『発展』で入れることができ、改善といえる」との見方もあります。

 しかし、指導要領自体は変わっておらず、本文に書いた内容を「発展」に改めさせたり、「扱いが不適切」として書き換えさせた検定意見は多数に上りました。「化学II」では「発展」に修正された記述が一冊平均十一カ所を超えました。

 今回と同じ高校二年用教科書の全面改訂があった一九九三年度の検定と比較すると、申請教科書一点あたりの検定意見の数はほとんど変わらず、むしろ数学や理科では七、八割増加しています。「生物II」は八点中、二点が不合格。厳密に指導要領を守らせる点では以前と変わらない検定でした。

 検定外教科書(『新しい科学の教科書』・文一総合出版)の執筆代表者である左巻健男・京都工芸繊維大学教授は「『発展』を適切に挿入することでわかりやすくするなど、学習指導要領の問題点を補える面も確かにある。しかし、そもそも指導要領の系統性が崩れてしまっているので、根本的な解決にはならない」と指摘しています。

「全員やる必要はない」

 「発展」の記述は指導要領内の記述と厳格に区別するよう求められました。一つの文章を「発展」と本文の二つに書き分けさせられた例もあります。ある編集者は「一部分を『発展』として取り出すことは難しい。無理にやると分かりにくくなる」と苦労を語ります。

 さらに検定では、「発展」の内容をすべての生徒が学ばなくていいと明示するよう要求。各教科書は凡例などで「すべての生徒が学習する必要はない」「余力がある場合に取り組みたい内容」「興味・関心に応じて取り組んでください」と書きました。

 もともと文科省は「発展的な学習」について「指導要領の内容を十分理解している児童生徒に取り組ませ、さらに力を伸ばしていく」「すべての児童生徒が一律に学習する必要はない」と説明。学ぶのは「できる子」だけとし、全体の学力を保障するという考えではありませんでした。

 理科の編集者の一人は「今後、小中学校の教科書にも『発展』が入ることになるが、一部の子だけにエリート教育をするために利用されかねない。私たちはどの子にとっても理解しやすく、学習に役立つ教科書を作ろうと研究し、努力しているが、このような検定の枠のなかでは本当に作りたいと思う教科書が作れない」と語ります。

「侵攻」を「地上攻撃」に

 一昨年に起きた米国へのテロとアフガニスタンへの報復戦争について、政治・経済と世界史のすべての教科書、日本史のほとんどの教科書が取り上げました。

 しかし、「アフガニスタンへの空爆と侵攻」という記述には「国連決議にもとづく攻撃について誤解するおそれがある」と検定意見がつき、出版社側は「侵攻」を「地上攻撃」に改めました。「アメリカに反省をせまるのも同盟国日本の役割」と記述は「大国に反省をせまるのも…」と修正。「アメリカの新聞の多くが武力行使をするブッシュ大統領の機関紙のような報道」との記述は「自由な言論表現を認めるアメリカのメディアの多くが…大統領を支持する論調」となりました。

 戦後補償や温暖化問題などは政府の見解にそって書き直させ、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書にかんする記述も大幅に変えられました。従軍慰安婦などは日本軍の加害の実態を薄める修正がおこなわれました。日本史では申請教科書の半分が「アジア太平洋戦争」という用語を使っていましたが、一般的でない」として「太平洋戦争」などに変えました。

 歴史教育者協議会の石山久男副委員長は「政府見解にあった記述を強制し、言論・思想・表現の自由を侵す憲法違反の検定。アメリカ擁護の姿勢もあらわで、イラク戦争についても国連決議に基づくものと強弁し、『侵略』と書かせない検定がまかり通るのではないか」と批判しています。


主な検定事例
 申請本検定意見検定後の記述







ブッシュ大統領は…米軍によるアフガニスタンへの空爆と侵攻を行った。 国連決議に基づく米軍のアフガニスタンへの攻撃について誤解するおそれのある表現である。 ブッシュ大統領は…米軍によるアフガニスタンへの空爆と地上攻撃を行った。



強制連行や従軍慰安婦をはじめとする戦後補償の問題など、残された問題も多い。 国家間の賠償問題については解決済みであり、問題となっているのは個人の請求権に基づいての主張であることが明確ではなく、誤解するおそれのある表現である。 強制連行や「従軍慰安婦」の問題をはじめとする戦後補償をめぐる問題も残されている。(戦後補償の問題はすでに解決済みであるとの趣旨の注記が別に追加されている)



2001年に小泉内閣で首相が公式に参拝した。 公式参拝とするのは不正確である。 2001年8月13日に小泉首相が参拝し、参拝者の名簿に記入した。


50年間にわたり常設の軍事組織の独走をはばみ、国民の自由を確保することに成功した、重要な秘訣である。 自衛隊が「常設の軍事組織」であるかのように誤解するおそれのある表現である。 50年間にわたって軍事力の統制に成功し国民の自由が確保されてきたことの、重要な秘訣である。


高級官僚の関係企業への再就職には、現在でも一定の制限があるが、ほとんど実効がない。 制度について誤解するおそれのある表現である。 高級官僚の関係企業への再就職の制限は、退職後の二年間に限定されており、その後関係企業の役員に再就職する例も多い。




そうした主張にもとづく教科書が新たに発行された。その教科書が似歯歯事年に文部科学省の検定に合格すると、それを採択すべきでないとする大きな市民運動が各地におこり、結局、市区町村立中学校ではまったく採択されない結果となった。 教科書の検定・採択・発行の過程及び実態について誤解するおそれのある表現である。 そうした主張にもとづく中学歴史教科書が文部科学省に検定申請された。文部科学省は多くの検定意見を付して修正させ、2001年、この教科書は検定に合格した。いっぽう、その採択の是非をめぐって大きな市民運動が各地におこった。その教科書は、ほとんどの中学校で採択されなかった。






日本では、自衛隊の海外派兵を、地域を限定せずに認めるテロ対策特別措置法が成立した。 テロ対策特別措置法の内容について、誤解するおそれのある表現である。 日本では、自衛隊の海外派遣を、地域を限定せずに認めるテロ対策特別措置法が成立した。



日米安保体制は「地球的規模」に拡大強化されつつある。 日米安保体制の内容について、誤解するおそれのある表現である。 日米安保体制はしだいに拡大強化されつつある。

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