2003年3月24日(月)「しんぶん赤旗」
日本共産党国会議員団の米問題プロジェクトチームが全国をかけめぐり日本農業と食料問題で農協、自治体、消費者団体と懇談を続けています。各地で「このままでは農業が崩壊する」との切迫した声が寄せられています。中林よし子(党国会議員団農水部会長)、松本善明の両衆院議員、紙智子参院議員の三氏に語りあってもらいました。
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―八年ぶりの全国調査にはどのような声が寄せられていますか。
中林よし子 日本共産党国会議員団は、農政の節々の重要な時期に全国調査をしてきました。一九八八年の牛肉・オレンジ輸入自由化、九三年の大冷害、九五年はコメ輸入を前提とした農家切り捨ての農水省「新政策」での調査です。いずれも大変な状況を農家から訴えられ、国会質問や党の活動に反映してきました。
今回は、「米政策改革大綱」(注1)が出て、WTO(世界貿易機関)の自由化の基準(注2)の農業交渉議長案が示された重大な時期です。
関税が引き下げられ低価格の外国農産物がいっそう流入し、米をはじめ農業に大打撃を与える内容です。農協、自治体、消費者のみなさんがどんな思いで受けとめているか、率直に懇談しています。
紙智子 北海道にいったときですが、新政策にそって規模拡大した農家から訴えられました。「努力しておいしい米作りをしたのに、米価が暴落し減反拡大で二百万円の所得しかない」というのです。十fまで増やし販路を開拓して頑張ろうと思っていた矢先に、米政策改革大綱がでた。「これでどうして子どもを育てられるのか」というのです。本当にぎりぎりの状態です。
松本善明 今度のWTOの議長案によって、本当に日本農業が崩壊すると率直に訴えました。
議長案では、米の関税が最低45%下げられるとしても、十`の精米で外国米は二千二百四十五円で輸入されます。EU(欧州連合)のWTO提案は削減程度がゆるいが、それでも三千二百六十円で入ってくる。さらに後発途上国からの輸入には関税の無税・無枠があります。日本商社による日本向け開発輸入となれば三百七十円です。こうなれば日本の米は価格競争力がなくなる。畜産や酪農、野菜も壊滅します。私は価格表を示して県にも農協にも話したが、「そこまでひどいとは思わなかった」「なんとか阻止するため頑張らねば」という対応がほとんどでした。不安とあきらめもありましたが、農業と農村を守らねばという強い思いも伝わってきました。
中林 米政策改革大綱の危険についても自治体担当者に必ずしも知らされてないと感じました。知っている農協の幹部は「これで本当に米と水田農業がやっていけるのか」といいます。
紙 米大綱について話し始めると、すごい怒りの声が出ました。〇八年度までに農協で需給調整システムをつくれとなっていますが、「農協は半分も集荷してないのに、需給調整ができるわけがない」というのです。当然のことですね。
中林 ヨーロッパでは国が農業と食料に責任をもっているのに、日本はどういうことだとすごい怒りでしたね。いまでも米価暴落はミニマムアクセス輸入米の過剰が大きな原因ですから。今度の米大綱では、過剰分は玄米一俵(六十`)三千円だといいます。これが外国産米と符合するのです。「大綱は輸入自由化の前提でつくられている」と話すと、「そうだ」となります。米大綱とWTOは表裏一体です。
松本 自民党は“高関税で輸入米は流入しないから大丈夫”といって一九九九年に関税化したんです。宮城県の農協ではその話が出て、「だまされた思いだ」というのです。私たちは関税はいずれ下げられるものといって関税化に反対したのだが。
WTO協定では価格保障は禁止ではなく一定水準まで認めているが、日本はその水準までも価格保障をしていない。だから現行の協定上でも一俵二万円まで米価保障ができるのです。秋田県決起大会でその話をすると、出席した自民党議員も「二万円米価は賛成だ」というのです。しかし実行しない。私が「なぜやらないのか」と聞くと、「多勢に無勢で自民党内でいっても通らない」と答えるのです。その話を農協幹部との懇談で紹介すると、「自民党にはだまされている」と語っていました。
紙 「共産党も農協の集会に招いて超党派でやらねばだめだ」という農家の声は、全中の中央集会後の要請団からありました。各地の懇談でも「野党のみなさんも押しかけていったらいい」といわれました。北海道では全党派が参加する農業者大会が開かれました。
―消費者団体のみなさんとの懇談も続いていますね。
松本 宮城県では生協のみなさん、高知県南国市の環境保護団体のみなさんと懇談しました。食の安全や安定供給、食料自給が環境に果たす役割など学習会がとりくまれています。「少し高くても国産農産物が良い」といっています。でも、そうした消費者も「輸入価格が国産より大幅に安くなると外国産を買わないとはいえない。国の政策でやらなければ農業を守れない」といいます。
中林 南国市で環境保護の運動をしている人たちは、自給率が低下することに危機感を持っていました。また、遠い地球の裏側から大量に重油を使って運ぶことはエネルギーの無駄であり空気も汚染することになる、食料を輸入することは生産国の水を大量に消費し、窒素を大量に国内に持ちこむことになる、と話が具体的でした。
紙 北海道消費者協会の人たちと懇談したとき、遺伝子組み換え食品が心配といっていました。95%を輸入する大豆は、アメリカの遺伝子組み換えが大量に入っています。トウモロコシやナタネ、ジャガイモもあります。農薬残留調査もしていて、「食料自給率を高めないと本当の安全は守れない」といいます。アメリカのポテトからポスト・ハーベスト(収穫後の使用)農薬が検出されています。これらの基準はアメリカ基準です。アメリカや多国籍企業は、貿易のために世界基準をつくれといいますが、「食のグローバル化の実態はアメリカ基準じゃないか」といっていました。
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―これからの運動方向をどう考えますか。
中林 自国の食料や農林業政策について決める権利=「食料主権の確立」をもっと主張すべきです。日本は食料自給率が低下し、カロリーでは六割を外国に依存している。なにしろ、いま穀物自給率は27%です。
日本政府は「多面的機能の尊重」「多様な農業の共存」などといいますが、国内政策では農業生産への支持はしない。この点は、生産者団体だけでなく、消費者団体のみなさんも批判しました。
山口県では新婦人の会員のみなさんが、国土・環境問題など水田のもつ役割など学習会をして幅広く国民世論になることが打開の決め手だと話していました。
松本 多国籍アグリビジネスのためにWTOのルールがある。途上国でも自国民用の食料生産がないがしろにされ、輸出用の商品作物の栽培を押しつけられている。いま、WTOの自由貿易一辺倒が途上国も含めて矛盾が大きくなっていることの検証が必要です。
日本で消費者も含めいま重要なことは、「日本に農林業がなくなって良いのか」という問いかけです。そこまで現状はきていることの認識が大事です。アメリカも自国の農業はWTOの枠内で保護をしているんですよ。
紙 地方自治体の対策も大切です。地産地消という言葉がありますが行政の姿勢が重要です。南国市では、棚田のお米や地域の果物や野菜で学校給食を盛んにしています。秋田県では自主流通米の価格保障もしています。安全・安心、新鮮をもとめる全国的な地産・地消があれば生産者も元気になり、消費者との交流、自給率向上につながると思います。
松本 農地の荒廃はますますひどくなっている。いっせい地方選挙でも訴えたい。農業、国土が崩壊する事態に直面していることにたいする国民運動が必要です。
(注1)「米政策改革大綱」
昨年十二月に農水省がまとめた政策方向。「農業者・農業団体が主役となる需給調整」を名目にして、〇八年度までに農協、自治体に米の管理責任を押し付けます。政府が「米過剰に対応した融資」という形で買い支えるのは六十`三千円だけ。「市場重視」だといって米価保障はなく、価格暴落は避けられません。転作助成金や所得補てん策もごく一部の農家に狭めます。凶作になれば買い占めがおき、暴騰します。
(注2)WTO交渉の自由化の基準
アメリカや多国籍企業の利益を第一にした自由貿易一辺倒のWTO交渉は、三月までに自由化の基準(モダリティ)をつくり、今年九月の閣僚会議で交渉・確定する予定です。
WTO体制以前は、農産物の輸入数量制限ができました。しかしアメリカの圧力を日本政府が受け入れ、一九九五年から米も市場開放。関税をかける以外に保護ができない体制を九九年に導入しました。
三月に出たモダリティ農業交渉議長案は大幅な保護削減です。日本の米や麦、乳製品など90%以上の関税率をもつ農産物グループは最低45%、平均で60%を関税削減。また後発開発途上国からは無関税で無制限に市場開放する「無税・無枠」案があります。一方、ダンピング輸出の補助金は削減があいまいです。