2003年3月8日(土)「しんぶん赤旗」
七日に逮捕された自民党の坂井隆憲衆院議員の被疑事実は、人材派遣会社などから受け取った一億二千万円余を政治資金収支報告書に記載せず、ヤミ献金として処理していたというもの。ヤミ献金で政治をゆがめた疑惑は重大です。
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戦後、現職国会議員の逮捕許諾請求が出たのは坂井議員で二十人目ですが、政治資金規正法違反だけの容疑で逮捕されるのは初めてで、自民党内には衝撃が走ったといいます。これまで逮捕に至る政治家の腐敗事件は、請託を伴う金銭授受のわいろ性に着目した贈収賄が主流で、昨年の鈴木宗男衆院議員の場合はあっせん収賄容疑でした。
政治資金規正法違反は「形式犯」とされ、収支報告書の記載漏れが指摘されても、手続き上のミスと言い逃れたり、後で修正報告を出して済ませるケースがありました。一九九二年の佐川急便事件では金丸信・元自民党副総裁が同法で略式起訴となり、検察は世論の厳しい批判にさらされました。坂井議員も二〇〇一年に抵当証券業の大和都市管財幹部からの献金百万円を収支報告書に記載せず、「記載漏れがあった」と言い訳しました。
しかし、坂井議員のように多額のヤミ献金が横行すればいくら規制しても意味がなくなり、政治資金制度そのものが土台から崩れてしまいます。
今回の事件を契機に自民党内からは、政党支部への企業・団体献金の上限を検討する動きがありますが、小手先の対策ではなく、少なくとも公共事業受注企業からの献金禁止などの抜本策に踏み切るべきです。
坂井議員へのヤミ献金の始まりは、一九九六年に人材派遣会社のメーンバンク切り替えで、坂井議員が“尽力”したことから始まりました。
大蔵省OBで国会議員である地位を利用した典型的な口利きとタカリの構図です。
重大なことは、人材派遣会社を経営していた小野憲氏は、坂井議員が当時労働政務次官だったことから「今後も便宜が図ってもらえる」と考えて、ヤミ献金に応じていったことです。
実際、一九九六年には財界からの強い要求で、労働者派遣法が改悪され、派遣業種が十六業種から二十六業種に一気に拡大されました。さらに、一九九九年には同法の再改悪がおこなわれ、派遣業種が原則自由化されるなど、「規制緩和」がすすめられました。
この間、坂井議員は、労働政務次官(一九九六年)を務めたのをはじめ、政務調査会副会長(労働問題調査会にも所属)、衆院厚生労働委員長(二〇〇二年十月から)などを歴任。自民党内の“労働族”として幅を利かせてきました。こうした立場にいた人物が人材派遣会社に巨額のヤミ献金をたかることで、労働行政をゆがめなかったか全容の解明が求められます。
自民党執行部は、いっせい地方選への影響を恐れて坂井議員を除名処分にしました。しかし、国会議員の口利き・タカリは自民党の構造的問題。しかも、坂井議員の事件当時、小泉首相は派閥会長でした。
労働行政に限っても、値上がり確実の未公開株が自民党中枢や公明党議員に渡ったリクルート事件(八八年)、中小企業経営者の掛け金を食い物にしたKSD(ケーエスデー)中小企業経営者福祉事業団事件などが相次いできました。
そのたびに、自民党は、事件の関係者の離党などでお茶を濁してきましたが、同じ繰り返しは許されません。