2003年2月26日(水)「しんぶん赤旗」
二〇〇一年十二月の消防ホース死亡事件、翌年五月の革手錠死亡事件、九月の革手錠傷害事件――名古屋刑務所での一連の事件は、日本の刑務行政の前近代的な人権じゅうりん体質を明るみに出しました。ホース事件は当初、「心不全」「自傷によるショック死」と虚偽の報告をされ、闇に葬られようとしていました。この間の国会審議で、組織ぐるみの隠ぺいに法務省が深く関わっていたことが、議論の焦点となりました。
三事件はいずれも森山真弓法相の在任中におきています。国会での答弁を聞く限り、森山法相には当事者意識がまるでありません。浮かび上がってくるのは、人権感覚の希薄さです。
保護房(別項)での受刑者死亡事件は、この四年間で五件(法務省矯正局調査)。うち二件が、名古屋刑務所でのものです。保護房で受刑者が死亡したという時点で事件性が疑われます。ところが法務省矯正局は、名古屋刑務所からの「自傷による」という報告を法相にそのまま伝え、事実究明には乗り出しませんでした。
昨年十月以降、国会や新聞紙上で革手錠事件などが取り上げられてからも、法務省は自ら事実解明にどれだけ動いたのか――。
「大臣が陣頭指揮をとって、早くから問題解決をはかるべきだった」と追及された森山法相は、「検察が入っているとき、大臣はできるだけ個別のことについて指図をしないようにというのが私の考え」(二十一日、衆院予算委)と表明。検察の捜査を理由に、手をこまねいてきたことを合理化しました。
森山法相が、事件の究明を検察任せにする態度をとっていること自体、大きな間違いです。刑務所内で職員の暴行により受刑者が死ぬなど、絶対にあってはならないこと。少しでもその疑いがあれば、自らの組織内でおきた重大事件として、刑務所を所管する矯正局に対し、法相として事実究明と再発防止に全力をあげるよう指導する責任があります。
「検察の捜査を妨害しない」というのは当然のことです。しかし、それは、矯正局を通した行政としての調査努力、是正指導を放棄してもいいという理由にはなりません。
そうした認識もやる気もない森山氏には法相の資格がないといえます。(坂井希記者)
「保護房」 逃走や他人への暴行・傷害、自殺、異常行動の反復等のおそれがあり、普通房に収容することが不適当な場合に限り受刑者を収容する独房。収容中は巡回や監視カメラで様子を把握し、「進んで精神の安定を図るための働きかけを試み、早期に解除できるよう努めること」とされています(一九九九年の矯正局長通達)。日本ではこの保護房が、事実上、受刑者への懲罰に用いられ、その人権侵害の実態は、国際的人権保護団体であるアムネスティ・インターナショナルからも是正の勧告がされています。